[PF061] 東アジアの教科書にみる親子間葛藤の変化1
日本・韓国・中国・台湾の1950~2010年の拒否行動に着目して
Keywords:文化比較, 教科書, 親子関係
目 的
教科書は各国・社会を担う次世代の健全な発達と学習の向上を目指し,各国・社会の教育関係者により作成される。したがって教科書には,各国・社会の大人たちが子どもに期待する理想像が,反映されていると考えられる。また教科書はその時代の社会状況をも映す鏡となる。そして同時に,教科書という特性を考えると,次世代の価値観を創る道具にもなると思われる。本発表では日本・韓国・中国・台湾の1950~2010年の60年間に出版された小学校国語教科書の作品に描かれた親子の葛藤処理方略の変化に注目して比較分析を行った。
本研究で取り上げる親子間の「葛藤」とは,「親子それぞれが望ましい状態を続けようとしたり行動したりする際に,それぞれの思いや行動が一致せずに親子間でいざこざが生じたり,そのどちらかが他方の行動や状態に心理的な不満やわだかまりを持っていて,相手のことを受け入れられずにいる状態」と定義した。
第二次大戦後,東アジアの国々では家族関係や親子関係が大きく変化したと言われているが,子どもたちに提示される親子関係や親子間葛藤処理の理想像はどのように変化してきたのだろうか。そしてそれらは実社会の家族をめぐる状況の変化と,どう関係しているのだろうか。小学校の国語教科書に描かれた東アジア4ヶ国の親子間葛藤処理の変化を分析すると共に,それらの結果を両国の社会状況と関連づけて考察する。
方 法
日本・韓国・中国・台湾で1950年,1960年,1970年,1980年,1990年,2000年,2010年に刊行された小学校1~3年生用の検定または国定教科書すべてを分析材料とした。教科書の中でも,前述した親子間葛藤の定義にもとづき,一定の基準に沿って親子間の葛藤場面が記述されている作品のみを分析対象として選定した。その結果,対象となった作品数は,日本61作品,韓国17作品,中国29作品,台湾22作品であった。本発表では親子間葛藤の中でも,親子それぞれが相手を拒否する行動の変化に着目した。
結 果
第1に,日本では1950年と1960年の段階では親にとって理不尽な子どもの要求は,親がすべて拒否をしていたが,1970年になると親が拒否する割合は75%となった。1980~1990年にかけて親の態度が権威主義から平等主義に変化したのではないかと推測される。一方,親の要求に対する子どもの拒否に関しては,1950年では0%だったのに対して,徐々に多くなり,1980年には親のすべての行動を受け入れない傾向が見られた。親子間における拒否行動の以上の結果を考え合わせると,1980~1990年頃より親子の関係性が対等になってきたと推測される。
第2に,韓国と台湾では2000年を境に,子どもが親の要求を拒否する傾向が多くなった。但しどちらの国でも子どもの拒否行動が多くなったとはいえ,親の拒否行動よりも依然として少ないが,2000年頃から親子の関係性が対等になってきたと推測される。
第3に,中国では1980年以前は家族よりも国家を重視しており,国家の規範や道徳的な行動に照らして親の行動を告発するといった子どもの行動が見られた。しかし1990年頃より親子関係がより多く描かれるようになった。
以上の結果から親子間の葛藤処理については国家間による違いのみならず,年代によっても異なる傾向が見られた。そして親子関係の変化は4ヶ国とも対等化に向かってはいるものの,その変化の速さは4ヶ国間で異なると推測される。その背景には少子化の速さの違いが関係していると思われる。今後は,拒否行動の質的な内容について分析する予定である。
教科書は各国・社会を担う次世代の健全な発達と学習の向上を目指し,各国・社会の教育関係者により作成される。したがって教科書には,各国・社会の大人たちが子どもに期待する理想像が,反映されていると考えられる。また教科書はその時代の社会状況をも映す鏡となる。そして同時に,教科書という特性を考えると,次世代の価値観を創る道具にもなると思われる。本発表では日本・韓国・中国・台湾の1950~2010年の60年間に出版された小学校国語教科書の作品に描かれた親子の葛藤処理方略の変化に注目して比較分析を行った。
本研究で取り上げる親子間の「葛藤」とは,「親子それぞれが望ましい状態を続けようとしたり行動したりする際に,それぞれの思いや行動が一致せずに親子間でいざこざが生じたり,そのどちらかが他方の行動や状態に心理的な不満やわだかまりを持っていて,相手のことを受け入れられずにいる状態」と定義した。
第二次大戦後,東アジアの国々では家族関係や親子関係が大きく変化したと言われているが,子どもたちに提示される親子関係や親子間葛藤処理の理想像はどのように変化してきたのだろうか。そしてそれらは実社会の家族をめぐる状況の変化と,どう関係しているのだろうか。小学校の国語教科書に描かれた東アジア4ヶ国の親子間葛藤処理の変化を分析すると共に,それらの結果を両国の社会状況と関連づけて考察する。
方 法
日本・韓国・中国・台湾で1950年,1960年,1970年,1980年,1990年,2000年,2010年に刊行された小学校1~3年生用の検定または国定教科書すべてを分析材料とした。教科書の中でも,前述した親子間葛藤の定義にもとづき,一定の基準に沿って親子間の葛藤場面が記述されている作品のみを分析対象として選定した。その結果,対象となった作品数は,日本61作品,韓国17作品,中国29作品,台湾22作品であった。本発表では親子間葛藤の中でも,親子それぞれが相手を拒否する行動の変化に着目した。
結 果
第1に,日本では1950年と1960年の段階では親にとって理不尽な子どもの要求は,親がすべて拒否をしていたが,1970年になると親が拒否する割合は75%となった。1980~1990年にかけて親の態度が権威主義から平等主義に変化したのではないかと推測される。一方,親の要求に対する子どもの拒否に関しては,1950年では0%だったのに対して,徐々に多くなり,1980年には親のすべての行動を受け入れない傾向が見られた。親子間における拒否行動の以上の結果を考え合わせると,1980~1990年頃より親子の関係性が対等になってきたと推測される。
第2に,韓国と台湾では2000年を境に,子どもが親の要求を拒否する傾向が多くなった。但しどちらの国でも子どもの拒否行動が多くなったとはいえ,親の拒否行動よりも依然として少ないが,2000年頃から親子の関係性が対等になってきたと推測される。
第3に,中国では1980年以前は家族よりも国家を重視しており,国家の規範や道徳的な行動に照らして親の行動を告発するといった子どもの行動が見られた。しかし1990年頃より親子関係がより多く描かれるようになった。
以上の結果から親子間の葛藤処理については国家間による違いのみならず,年代によっても異なる傾向が見られた。そして親子関係の変化は4ヶ国とも対等化に向かってはいるものの,その変化の速さは4ヶ国間で異なると推測される。その背景には少子化の速さの違いが関係していると思われる。今後は,拒否行動の質的な内容について分析する予定である。