日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PF

2015年8月27日(木) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PF062] 肯定的な自己概念と関連する要因の検討

対人的側面に着目して

吉澤咲希1, 永田雅子2 (1.名古屋大学, 2.名古屋大学)

キーワード:自己概念, 対人スキル, 被受容感

問題と目的
本研究は自己を全体として肯定的あるいは否定的にとらえることに着目し,あいまいな刺激への自己の記述によって自己概念を検討する。1)対人的側面として被受容感と対人スキル,普段から自己に意識を向けている程度として自己理解欲求に着目して自己概念との関連を検討すること,2)精神的健康の指標として抑うつに着目し,否定的な自己概念群における肯定的な自己の記述と精神的健康の関連について検討すること,を目的とする。
方法
調査の実施
大学の講義で質問紙を配布し,任意で回収を行った。242名から回答を得た。
質問紙の構成
自己概念の測定 溝上(1997)のWHY答法,原田(2008a,2008b)のTS-WHY法を参考に,「私はいろいろ不満がないわけではないが,基本的には今のままの自分でいいと思っています。」という刺激文を呈示し,「はい」か「いいえ」で回答を求めた。次に,自由記述によって選択した理由を回答するように求め,各理由について「その理由によって,今のままの自分でよいと思う(よいと思わない)程度」を尋ねて5件法で評定を求め,これを肯定/否定得点とした。さらに,はじめの刺激文に対する回答とは反対の理由を尋ね,同様に評定を求めた。
被受容感 被受容感尺度(杉山・坂本,2006)
対人スキル 日常生活スキル尺度(大学生版)の下位尺度(島本・石井,2006)
自己理解欲求 自己理解尺度の下位尺度(青木,2009)
抑うつ 多面的感情状態尺度の下位尺度である抑鬱・不安尺度(寺崎・岸本・古賀,1992)
結果
刺激文について,「はい」と回答した者を肯定的な自己概念群,「いいえ」と回答した者を否定的な自己概念群とした。α係数によって各尺度の信頼性を確認したところ,十分な信頼性が確認された。
肯定的な自己概念群と否定的な自己概念群の変数間の関連についてTable 1,2に示す。
自己理解欲求・被受容感・対人スキル・抑うつについてt検定を行った。自己理解欲求は否定的な自己概念群において肯定的な自己概念群よりも高かった(t(218)=-3.72,p< .01)。被受容感は肯定的な自己概念群において否定的な自己概念群よりも高かった(t(218)= 2.74,p< .01)。対人スキルは両群において差がみられなかった(t(218)= 0.70,n.s.)。抑うつは否定的な自己概念群において肯定的な自己概念群よりも高かった(t(218)=-6.43,p< .01)。
考察
肯定的な自己概念群では対人スキルが,否定的な自己概念群では被受容感が,自己を肯定する程度との関連が強かった。
否定的な自己概念群では,肯定得点と抑うつに弱い負の相関がみられたことから,「今のままの自分でいい」とは思わない者にとって,自身の肯定的な面に気づいて評価していることが精神的健康に重要であることが示された。
また肯定的な自己概念群では肯定得点と否定得点に弱い正の相関がみられたことから,自身を肯定的にとらえる程度の高い者は,自身の否定的な面にも気づいているといえる。これは自己全体を「今のままの自分でいい」と肯定しつつ,自身の良い面と悪い面のどちらもとらえることができているという点で,適応的なものと考えられる。
今後はさらに自己を肯定的にとらえることに関連する要因について検討していく必要がある。