The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PF

Thu. Aug 27, 2015 4:00 PM - 6:00 PM メインホールA (2階)

[PF065] 日本の心理学の統計教育の現状

書籍の分析による予備的検討

井上和哉1, 佐藤暢哉#2 (1.関西学院大学・日本学術振興会, 2.関西学院大学)

Keywords:心理統計, 教授内容

問題と目的
1990年代中盤から,有意確率が特定の値未満か否かの二分法に過度に依存した帰無仮説検定が批判されるようになり(Cohen, 1994),効果量や信頼区間を併用することの重要性が盛んに訴えられるようになってきた。日本の心理学界においても2000年代からこれらの指標に注目することの重要性が主張されるようになり,その使用状況が調査されるようになってきた(大久保, 2009; 鈴木・豊田, 2012)。しかし,これらは主に研究面での使用状況を調べたものであり,教育場面におけるこれらの指標への注目を調べた研究は比較的少ない。近年多くの国際誌で信頼区間や効果量の報告が推奨または義務付けられており,論文の内容の正確な理解のためには,学部教育の比較的早期の段階からこれらの指標を教えることが必要である。また,大学院生にとってはこれらの知識は必須である。そこで本研究では,心理学の統計教育場面におけるこれらの指標の注目状況を明らかにすることを目的とした。心理統計の教育は主に書籍に基づいて行われるため,本研究では心理統計の書籍においてこれらの指標がどの程度取り上げられているかを調査した。
方法
手続き
国立情報学研究所が提供する大学図書館書籍データベース(CiNii Books)を使用し,分析対象となる書籍を抽出した。タイトルに「心理統計」もしくは「心理データ」を含み,出版年が2000年から2014年の書籍90冊を抽出した。タイトルから量的な心理統計の手法を説明した書籍ではないと判断した37冊(科研費報告書等を含む),索引がない書籍3冊,入手できなかった書籍4冊は分析の対象から除外した。その結果,分析対象となった書籍は46冊であった。分析は主に索引に基づいて行なった。信頼区間に関しては,信頼区間または区間推定という単語が含まれているか,検定力に関しては検定力または検出力という単語が含まれているか,効果量に関しては効果量または効果の大きさという単語が含まれているかに基づいて集計を行った。
結果と考察
本研究の目的は,心理統計の書籍に含まれる内容の点から,日本の心理学の統計教育の現状を明らかにすることであった。調査の結果,効果量に関して何らかの言及がある書籍は分析対象の20%であり,かなり少なかった。効果量の説明は主にCohenの標準化効果量に関するものであり,分散分析の効果量であるη2を説明している文献はさらに少なかった(全体の14%。心理統計の入門書の中では中村ら, 2006; 南風原, 2002など)。実験研究の多くで分散分析が使用されている現状を考慮すると,心理統計の入門書においても分散分析の効果量を説明する必要がある。
検定力は帰無仮説検定の説明に必要なため,比較的多くの書籍で取り上げられていた(分析対象の40%)。しかし,統計の入門書的な書籍の中で検定力に基づくサンプルサイズの設計を説明しているのは南風原(2002)や山田・村井(2006)など,ごく一部であった。米国の学会であるPsychonomic Societyが発行している論文誌ではサンプルサイズの設定の理由を説明することが求められているように,今後多くの論文誌でサンプルサイズの設計が求められる可能性がある。論文の内容の正確な理解や適切な卒業論文研究の実施のために,検定力に基づくサンプルサイズの設定に関しても学部教育で取り上げていく必要がある。
信頼区間については比較的多くの書籍で取り上げられていた(全書籍の52%)。それにもかかわらず,大久保(2009)が指摘しているように日本の心理学界では信頼区間は十分に使用されているとは言えない。統計の教科書で信頼区間を使用する理由や利点などを丁寧に説明するなど,教育面からの改革が期待される。
引用文献
Cohen, J. (1994). The Earth is round (p<.05). American Psychologist, 49, 997-1003.
南風原朝和 (2002). 心理統計学の基礎 有斐閣
中村知靖ら (2006). 心理統計法への招待 サイエンス社
大久保街亜 (2009). 日本における統計改革:基礎心理学研究を資料として 基礎心理学研究, 28, 88-93.
鈴川由美・豊田秀樹 (2012). 心理学研究における効果量・検定力・必要標本数の展望的事例分析心理学研究, 83, 51-63.
山田剛史・村井潤一郎 (2004). よくわかる心理統計 ミネルヴァ書房