[PF067] 不安・情動的要因が演繹的推理に及ぼす効果
キーワード:演繹的推理, 情動, 不安
問 題
人間の日常生活における推理判断には,認知的要因だけでなく情動的要因も関与している。Blanchette & Richards (2004) は,演繹的推理課題において,情動価の高い内容を含む条件文を用いたとき,ワーキング・メモリの処理リソースが消費され,中性的な材料を用いたときよりも推理機能が低下するという結果を報告している。しかし,この研究とは逆に,情動的内容の推理課題の方が,論理的判断が正確に行われるという結果も報告されている。本研究は,演繹的推理課題の刺激材料の情動価の効果を調べるとともに,推理の主体である実験参加者の不安状態が推理判断に及ぼす効果について検討した。
方 法
実験参加者 大学生および大学院生34名(男子30名,女子4名)。実験に先立って新版STAI (2000) を実施し,状態不安と特性不安についてそれぞれ上位群と下位群に実験参加者を分類した。
実験材料 仮言三段論法の形式(「pならばqである」)をとる演繹推理問題を,問題文に用いることばの情動価を操作することにより90問作成した。各問題については,情動価により3条件(Neutral語,Positive語,Negative語)を設定した。
手続き 実験はすべて個別に行った。各実験参加者に対してWason (1966) の2課題(4枚カード問題」と「THOG問題」)について解答を求めたあと,仮言三段論法課題を90試行実施した。各試行では,コンピュータ画面に前提1(例「不幸ならばため息をつく」)が最初提示され,スペースキーを押すと前提2と問題が同時に提示された。前提2の形式は前件肯定(例「彼は今不幸だと思っている」),前件否定(例「彼は今,自身を不幸だとは思っていない」),後件肯定(例「彼女はため息をついていた」),後件肯定(例「彼女は最近ため息をついていない」)の4形式を設定した。実験参加者は前提1と前提2をもとに問題(例「彼女に不幸があったか?」)に対して「はい」「いいえ」「どちらともいえない」の3件法で解答するよう求められた。なお,問題は前提2の形式により内容が異なる。問題呈示後18秒経過しても解答がなされない場合には,警告音と警告文を呈示し,すぐに解答するよう実験参加者を促した。
結 果
状態不安の効果を見るために三段論法推理の正答率について3要因分散分析した結果,状態不安×情動価×前提2の形式の3次の交互作用が有意で(F(6, 192)=2.913, p=.0097, ηp2=.083),後件否定(「対偶」による推理)においてNeutral条件は状態不安下位群の方が上位群よりも成績が低く,Negative条件では逆に状態不安下位群の方が上位群より成績が高いことが示された(Figure1参照)。また,情動価×前提2の形式の2次の交互作用が有意で(F(6, 192)=6.094, p<.0001, ηp2=.160),前件否定形式(「裏」による推理)では,Neutral条件の成績がもっとも高いのに対し,後件否定形式ではNegative条件の成績が高いという結果がみられた。なお,特性不安と他の2要因との間および不安とWason課題との間には有意な関係は見出されなかった。
考 察
本研究の結果から,状態不安の高い状態では,刺激がもたらす情動的影響は受けにくいのに対し,状態不安が低い状態ではこのような影響が現れやすく,推理をする主体の不安状態によって刺激の情動価の効果が異なることが示唆される。さらに,後件否定形式の論理判断では,Negativeな情動価をもつ命題は,否定文の形式に変換されることにより,情動価の効果が減少すると考えられる。また課題が困難な場合には,不安の効果は現れにくいといえる。
本研究の実験は,中田順平による平成26年度金沢大学理工学域電子情報学類卒業研究で行われたものである。
人間の日常生活における推理判断には,認知的要因だけでなく情動的要因も関与している。Blanchette & Richards (2004) は,演繹的推理課題において,情動価の高い内容を含む条件文を用いたとき,ワーキング・メモリの処理リソースが消費され,中性的な材料を用いたときよりも推理機能が低下するという結果を報告している。しかし,この研究とは逆に,情動的内容の推理課題の方が,論理的判断が正確に行われるという結果も報告されている。本研究は,演繹的推理課題の刺激材料の情動価の効果を調べるとともに,推理の主体である実験参加者の不安状態が推理判断に及ぼす効果について検討した。
方 法
実験参加者 大学生および大学院生34名(男子30名,女子4名)。実験に先立って新版STAI (2000) を実施し,状態不安と特性不安についてそれぞれ上位群と下位群に実験参加者を分類した。
実験材料 仮言三段論法の形式(「pならばqである」)をとる演繹推理問題を,問題文に用いることばの情動価を操作することにより90問作成した。各問題については,情動価により3条件(Neutral語,Positive語,Negative語)を設定した。
手続き 実験はすべて個別に行った。各実験参加者に対してWason (1966) の2課題(4枚カード問題」と「THOG問題」)について解答を求めたあと,仮言三段論法課題を90試行実施した。各試行では,コンピュータ画面に前提1(例「不幸ならばため息をつく」)が最初提示され,スペースキーを押すと前提2と問題が同時に提示された。前提2の形式は前件肯定(例「彼は今不幸だと思っている」),前件否定(例「彼は今,自身を不幸だとは思っていない」),後件肯定(例「彼女はため息をついていた」),後件肯定(例「彼女は最近ため息をついていない」)の4形式を設定した。実験参加者は前提1と前提2をもとに問題(例「彼女に不幸があったか?」)に対して「はい」「いいえ」「どちらともいえない」の3件法で解答するよう求められた。なお,問題は前提2の形式により内容が異なる。問題呈示後18秒経過しても解答がなされない場合には,警告音と警告文を呈示し,すぐに解答するよう実験参加者を促した。
結 果
状態不安の効果を見るために三段論法推理の正答率について3要因分散分析した結果,状態不安×情動価×前提2の形式の3次の交互作用が有意で(F(6, 192)=2.913, p=.0097, ηp2=.083),後件否定(「対偶」による推理)においてNeutral条件は状態不安下位群の方が上位群よりも成績が低く,Negative条件では逆に状態不安下位群の方が上位群より成績が高いことが示された(Figure1参照)。また,情動価×前提2の形式の2次の交互作用が有意で(F(6, 192)=6.094, p<.0001, ηp2=.160),前件否定形式(「裏」による推理)では,Neutral条件の成績がもっとも高いのに対し,後件否定形式ではNegative条件の成績が高いという結果がみられた。なお,特性不安と他の2要因との間および不安とWason課題との間には有意な関係は見出されなかった。
考 察
本研究の結果から,状態不安の高い状態では,刺激がもたらす情動的影響は受けにくいのに対し,状態不安が低い状態ではこのような影響が現れやすく,推理をする主体の不安状態によって刺激の情動価の効果が異なることが示唆される。さらに,後件否定形式の論理判断では,Negativeな情動価をもつ命題は,否定文の形式に変換されることにより,情動価の効果が減少すると考えられる。また課題が困難な場合には,不安の効果は現れにくいといえる。
本研究の実験は,中田順平による平成26年度金沢大学理工学域電子情報学類卒業研究で行われたものである。