[PG002] 模擬ケース会議における学習過程の検討
多職種連携教育(IPE)の教材開発
Keywords:多職種連携教育, 模擬ケース会議, 教材開発
問題と目的
現在学校ではスクールカウンセラー(以下SC)やスクールソーシャルワーカー(以下SSW)等様々な児童・生徒支援に関わる専門職が導入され,学校内での多職種協働の構築が急務と考えられる。それに伴う協働可能な人材育成として,養成段階での多職種連携教育がある。多職種連携教育は,教育分野での先行研究は殆ど見られないが,医療分野では取り入れられつつある(吉村,2012)。
本研究では,教員集団・SC・SSWによる模擬ケース会議の教材(荊木・森田・鈴木,印刷中)を開発し,①模擬ケース会議の学習過程,②学生の専門性理解,③学生のケース会議理解について検討した。
方法
対象:小学校教員養成課程学生10名
養護教諭養成課程学生13名
時期:2015年1月計3回
実施講義:教職関連科目での全15回の内,最後3回を協働単元とした。前段階でケース会議やSC・SSWは,小学校教員養成課程では触れず,養護教諭養成課程ではSCを校内支援者とのみ紹介した。
実施方法:A)1回目は,情報カード実習(柳原,1976)により,中学2年女子のリストカット事例による模擬ケース会議を行った。5人班を作り,中学校の養護教諭,担任,校長,SC,SSWに役割を振った。養護教諭養成課程で,人数調整に2班,養護教諭と管理職を兼務した。B)ケース会議の説明を記した指示書,各役割に対し6枚の情報カード,各自の専門性を書いた役割カードを渡し,口頭のやり取りを指示した。C)まとめた情報をカンファレンスシート(大阪府教育委員会,2006)に記入し,支援計画を立てた。D)2・3回目は,各班が「アセスメントの結果明らかになったこと」「確認すべきこと」「長期的な支援計画」「短期的な支援計画」「課題にあった役割分担」を発表した。E)各班にICレコーダーを学生了承の上配置し,B)・C)の課題検討の過程を録音した。
分析方法:a)音声データを文字起こしし,意味の塊毎に切片化,通し番号を振った。b)KJ法により,切片毎にラベルを名付けた。c)類似したラベル同士をグループ化,小・中・大カテゴリを形成,個々の関係性を図式化した。d)学生の専門性理解,ケース会議理解に関わるカテゴリを抜きだし,そこでの学習過程を②学生の専門性理解,③学生のケース会議理解,④その他の項目毎に関連カテゴリを分けて検討した。以下大カテゴリを【】,中カテゴリを「」小カテゴリを()で括って示す。
結果と考察
①模擬ケース会議の学習過程:全体に【模擬ケース会議進行での協議行動】が見られた。最初に【情報カードの情報による指示と示唆】を行い,【情報の集約による状況把握】により,【明らかになったこと】【確認すべきこと】を決定した。その後【支援計画の検討】【支援方法の検討】より,【支援計画決定】を行った。最後に支援の【役割分担】を行った。検討過程は,【学生の素朴概念】が顕在化し,【ケース会議への言及】も見られた。カンファレンスシートに沿って支援計画が検討されていたと言える。
②学生の専門性理解:【学生の素朴概念】は,カウンセリングを受けることへの否定的見方やSCに面接抵抗の解消や事情聴取,説得等を期待する等,(カウンセリングへの過剰な期待と思いこみ)がみられた。これらの考えは,会議終了時までに修正されなかった。一方【ケース会議への言及】として,情報・役割カードによるSSW理解と,情報・役割カード情報と学生の既存知識からの推測・提案による理解がみられた。SCの専門性についても疑問が示された。即ち学生はSC専門性を,既有素朴概念と統合しながら理解していったようである。
③学生のケース会議理解:【ケース会議への言及】では,個々の情報のつながりや役割分担の意義,目的を理解する「ケース会議の方法・意義・課題の理解」がみられた。一方,(現場での適用を懸念)する言動が見られた。
従って,学生はケース会議の方法や意義,現場での適用を検討し,理解していると考えられた。
④その他:学生の素朴概念として,事例検討から(いじめのクラス内黙秘と直接・間接的担任対応への不信感)等が顕在化していた。【ケース会議への言及】では,(問題行動と課題の関連性)や中学生の面接の難しさに言及した(支援対象者理解),校内の疎通性や教員の心理的支援に言及する(校内支援体制の必要性を理解)する言及がみられた。
事例に関する学生の経験により,素朴概念が顕在化し,ケース会議周辺の言及が出現した。
以上より,本教材の学生のケース会議理解は,手法やその意義・現場での適用,対象理解について考える機会となる半面,学生の素朴概念払拭には至らなかった。これらの素朴概念は,多職種協働の阻害要因となる可能性があるだろう。今後の課題として,素朴概念の改善に,他職種の実際の動きを記した事例学習等の併用が示唆された。
現在学校ではスクールカウンセラー(以下SC)やスクールソーシャルワーカー(以下SSW)等様々な児童・生徒支援に関わる専門職が導入され,学校内での多職種協働の構築が急務と考えられる。それに伴う協働可能な人材育成として,養成段階での多職種連携教育がある。多職種連携教育は,教育分野での先行研究は殆ど見られないが,医療分野では取り入れられつつある(吉村,2012)。
本研究では,教員集団・SC・SSWによる模擬ケース会議の教材(荊木・森田・鈴木,印刷中)を開発し,①模擬ケース会議の学習過程,②学生の専門性理解,③学生のケース会議理解について検討した。
方法
対象:小学校教員養成課程学生10名
養護教諭養成課程学生13名
時期:2015年1月計3回
実施講義:教職関連科目での全15回の内,最後3回を協働単元とした。前段階でケース会議やSC・SSWは,小学校教員養成課程では触れず,養護教諭養成課程ではSCを校内支援者とのみ紹介した。
実施方法:A)1回目は,情報カード実習(柳原,1976)により,中学2年女子のリストカット事例による模擬ケース会議を行った。5人班を作り,中学校の養護教諭,担任,校長,SC,SSWに役割を振った。養護教諭養成課程で,人数調整に2班,養護教諭と管理職を兼務した。B)ケース会議の説明を記した指示書,各役割に対し6枚の情報カード,各自の専門性を書いた役割カードを渡し,口頭のやり取りを指示した。C)まとめた情報をカンファレンスシート(大阪府教育委員会,2006)に記入し,支援計画を立てた。D)2・3回目は,各班が「アセスメントの結果明らかになったこと」「確認すべきこと」「長期的な支援計画」「短期的な支援計画」「課題にあった役割分担」を発表した。E)各班にICレコーダーを学生了承の上配置し,B)・C)の課題検討の過程を録音した。
分析方法:a)音声データを文字起こしし,意味の塊毎に切片化,通し番号を振った。b)KJ法により,切片毎にラベルを名付けた。c)類似したラベル同士をグループ化,小・中・大カテゴリを形成,個々の関係性を図式化した。d)学生の専門性理解,ケース会議理解に関わるカテゴリを抜きだし,そこでの学習過程を②学生の専門性理解,③学生のケース会議理解,④その他の項目毎に関連カテゴリを分けて検討した。以下大カテゴリを【】,中カテゴリを「」小カテゴリを()で括って示す。
結果と考察
①模擬ケース会議の学習過程:全体に【模擬ケース会議進行での協議行動】が見られた。最初に【情報カードの情報による指示と示唆】を行い,【情報の集約による状況把握】により,【明らかになったこと】【確認すべきこと】を決定した。その後【支援計画の検討】【支援方法の検討】より,【支援計画決定】を行った。最後に支援の【役割分担】を行った。検討過程は,【学生の素朴概念】が顕在化し,【ケース会議への言及】も見られた。カンファレンスシートに沿って支援計画が検討されていたと言える。
②学生の専門性理解:【学生の素朴概念】は,カウンセリングを受けることへの否定的見方やSCに面接抵抗の解消や事情聴取,説得等を期待する等,(カウンセリングへの過剰な期待と思いこみ)がみられた。これらの考えは,会議終了時までに修正されなかった。一方【ケース会議への言及】として,情報・役割カードによるSSW理解と,情報・役割カード情報と学生の既存知識からの推測・提案による理解がみられた。SCの専門性についても疑問が示された。即ち学生はSC専門性を,既有素朴概念と統合しながら理解していったようである。
③学生のケース会議理解:【ケース会議への言及】では,個々の情報のつながりや役割分担の意義,目的を理解する「ケース会議の方法・意義・課題の理解」がみられた。一方,(現場での適用を懸念)する言動が見られた。
従って,学生はケース会議の方法や意義,現場での適用を検討し,理解していると考えられた。
④その他:学生の素朴概念として,事例検討から(いじめのクラス内黙秘と直接・間接的担任対応への不信感)等が顕在化していた。【ケース会議への言及】では,(問題行動と課題の関連性)や中学生の面接の難しさに言及した(支援対象者理解),校内の疎通性や教員の心理的支援に言及する(校内支援体制の必要性を理解)する言及がみられた。
事例に関する学生の経験により,素朴概念が顕在化し,ケース会議周辺の言及が出現した。
以上より,本教材の学生のケース会議理解は,手法やその意義・現場での適用,対象理解について考える機会となる半面,学生の素朴概念払拭には至らなかった。これらの素朴概念は,多職種協働の阻害要因となる可能性があるだろう。今後の課題として,素朴概念の改善に,他職種の実際の動きを記した事例学習等の併用が示唆された。