日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表 PG

2015年8月28日(金) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PG009] 大学生の人間関係におけるからかいの機能

平木貴大1, 庄司一子2 (1.筑波大学, 2.筑波大学)

キーワード:からかい, 大学生, 人間関係

問題と目的
からかいは日常的かつ普遍的に行われている。しかし一般的に世間で持たれているからかいの印象は決して良いとは言えず,文部科学省の「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(2014)では,からかいはいじめの態様の一つと分類されている。このようにからかいは,他者に対して向けられた攻撃行動とみなされ,一般的に問題行動として位置付けられている。
一方,からかいの肯定的な側面に注目する立場も存在する。遠藤(2008)は,Eder(1993)のからかいには親密感情や愛情,笑いや微笑の交換機能があるという主張をその例として挙げている。
こうした主張も踏まえると,からかいは相手に対しての攻撃行動となりうるだけでなく,相手との関係を促進していく側面も有していると考えられる。したがって,からかいを問題行動として捉えるだけでなくそれが実際の人間関係でどう機能しているかを実証的に検討する必要があるが,そうした研究の蓄積は国内においてほとんどないに等しい。そこで本研究は,人間関係におけるからかいの機能を捉えるために,大学生・大学院生に対してインタビュー調査を行い,質的検討によってこれを明らかにしようとした。
方法
対象:関東の国立大学に通う大学生・大学院生8名(男性3名,女性5名)。年齢は19歳~23歳。
調査期間:2013年11月下旬から12月上旬。
調査方法:予め用意したインタビュー項目を用いた半構造化面接を行った。
調査内容:事前に行った予備調査の結果を参考にして,1「相手をからかう状況について」,2「相手からからかわれる状況について」,3「現在のからかいに対する印象について」とした。インタビューは全て一人ずつ個別に行い,本人の許可を得て録音した。時間は一人およそ60分であった。
結果・考察
1「相手をからかう状況について」
相手をからかおうと思う時として,4人が「盛り上げたい時」をあげた。「盛り上げたい時」以外には「相手に気を使う時」「その場の雰囲気に合わせる時」という回答が得られた。
からかう相手には,「親しい人」「仲の良い友人」があげられ,からかうのが難しい相手として,「年上」や「先輩」のような目上の人が挙げられた。
からかう時に気をつけることとして5人からあげられたのは,「相手が気にしてそうなことには触れないようにする」であった。
2「相手からからかわれる状況について」
相手からからかわれる時はどのような時か尋ねたところ,3人が「自分からからかわれに行く」と答えた。相手との距離を近づけたり笑いを起こすことがその意図として語られていた。
また先輩や年上からのからかいは「受け入れられる」「受け入れざるを得ない」が,後輩やそこまで親しくない友人からのからかいは「不快感を覚える」という語りが見られた。
前述したように,後輩のような目下の者からからかわれた時は「不快」と語られたが,それ以外にもからかいに加わる人数が多い時や自分の体型について触れられた時は不快になると語られた。しかし,そのあとに自分を気遣うフォローが入ると不快に思わないという語りもあった。また,不快以外の気持ちとして6人から「嬉しさ」があげられた。「集団の中に居場所があるように感じる」「場を盛り上げることができる」「相手との距離が近づいたように感じる」といったことがその理由としてあげられていた。
3「現在のからかいに対する印象について」
からかいの良い点として5人が「笑いが起きる点」「関係性が作りやすくなる点」をあげ,悪い点として5人が「エスカレートしてしまう点」「受け手がどう感じているか分からない点」をあげた。また,からかいに対して抱く印象として,6人が「基本的にはコミュニケーションを円滑にするもの・楽しいものだが,人を不快にさせるおそれもあるもの」と答えた。
以上より,大学生の人間関係においてからかいは主に場を盛り上げることを目的に行われていると考えられる。その場の盛り上がりを通して集団への帰属感を感じ,また相手との距離の縮まりを感じていることが示唆された。だが同時にからかいに相手を傷つける危険性があることも認識されており,不快な思いをさせないように相手が気にしてそうなことには触れないようにするなど,大学生がからかいに対して慎重な姿勢を持っていることも本研究から示唆された。