[PG011] 学校危機に遭遇した教師の体験に関する実証的研究(8)
教師の不祥事を経験した教務主任の語りから
Keywords:緊急支援, 複線径路・等時性モデル
問題と目的
突然の災害,事件・事故に遭遇し危機に陥った学校へより効果的な支援を行うには,自らも大きな影響を受けながら危機対応の中心とならざるを得ない教師の体験を明らかにすることが求められる。われわれは学校危機に遭遇した教師へのインタビュー調査の分析を行い,異なった事案に遭遇した立場の異なる教師の体験に検討を加えてきた(丸山ら,2013ほか)。本研究は,教師の不祥事を経験した教務主任の事例を分析し,学校危機に対するより効果的な支援のあり方を検討する基礎資料を得ることを目的とする。
方法
【インタビュー参加者】教師の不祥事を経験したA県B市C小学校に勤務する教務主任。参加については所定の書式で同意を得た。日時は,X+8年8月10日13:20~14:00。
【事件の概要】同僚の教師の女子児童へのわいせつ行為が発覚した事例。臨床心理士(以下CP)3名によって延べ18日間の緊急支援が行われた。支援として,児童へのカウンセリングや教職員へのコンサルテーションなどが行われた。
【データ収集方法】同意が得られた対象者に対し半構造化面接が実施された。項目は丸山ら(2013)を参照。実施に際しては名古屋大学教育発達科学研究科倫理委員会の承認(PR11-31)を得た。
【分析方法】①インタビューデータをもとに逐語録を作成し,②時系列に並べて,KJ法の手順を用いてカテゴリーを抽出したのち,③各カテゴリーを複線径路・等至性モデル(TEM)の方法に従って分析した。等至点として「学校の落ち着き」を設定し,「不祥事の発覚」から等至点に至る過程を記述した。
結果と考察
本事例では,学校が事件に対応する際,被害児童のことを考慮し,事件に関する情報が学校外に漏れないように,事件について知らない振りをし,また会議をする場所を工夫するなど細心の注意を払っていた。特に,教務主任は外部対応の役割を担っていたため,この点には一層慎重になっており大変さを感じていた。この中で,教務主任は,CPから具体的な助言が得られたり話を聞いてもらえたこと,また,早期に事情を説明していたPTA役員が協力的であったことなどに助けられたと感じていた。一方で,外部からCPが学校に来たことで,事態の重大さを却って認識し,プレッシャーも感じていた。また,事件の性格上,女性職員の衝撃は非常に大きかった。その一方で,日頃から加害教員と親しかった教務主任は,「信じられない」「何で気づかなかったんだ」と語りながらも,他の職員との事件の受け取り方の違いも感じていた。約2ヶ月で年度が変わったことで一応の区切りとしたが,事件への対応はその後も継続した。
本事例のように,教師によるわいせつ行為という事案で被害児童が在学する場合には,特に情報が子どもや外部に広がらないようにすることが重要になる。本事例では,事件を隠蔽するのではなく,早い段階でPTA役員に事情を説明し,学校と地域が協力しながら事件に対処していた。保護者が学校を非難し,学校がさらに混乱する場合もあることを考慮すると,このような事例では,学校と地域が早くから目標を共有し協力体制を構築することが,学校が落ち着きを取り戻す上で重要であると考えられる。また,分析の結果から,加害者が同僚の場合,教師にも強い衝撃を与えることや,事件の受け止め方は職員間で異なることが考えられる。そのため,このような事例では,加害教師との関係性も考慮しながら,教師を援助者としてだけでなく,被害者としても捉え援助していく視点がCPには求められるだろう。
本研究は日本学術振興会科研費 基盤研究(B)(No.25285191),(財)日本臨床心理士資格認定協会第2回研究助成(重点研究)の助成を受けた。
突然の災害,事件・事故に遭遇し危機に陥った学校へより効果的な支援を行うには,自らも大きな影響を受けながら危機対応の中心とならざるを得ない教師の体験を明らかにすることが求められる。われわれは学校危機に遭遇した教師へのインタビュー調査の分析を行い,異なった事案に遭遇した立場の異なる教師の体験に検討を加えてきた(丸山ら,2013ほか)。本研究は,教師の不祥事を経験した教務主任の事例を分析し,学校危機に対するより効果的な支援のあり方を検討する基礎資料を得ることを目的とする。
方法
【インタビュー参加者】教師の不祥事を経験したA県B市C小学校に勤務する教務主任。参加については所定の書式で同意を得た。日時は,X+8年8月10日13:20~14:00。
【事件の概要】同僚の教師の女子児童へのわいせつ行為が発覚した事例。臨床心理士(以下CP)3名によって延べ18日間の緊急支援が行われた。支援として,児童へのカウンセリングや教職員へのコンサルテーションなどが行われた。
【データ収集方法】同意が得られた対象者に対し半構造化面接が実施された。項目は丸山ら(2013)を参照。実施に際しては名古屋大学教育発達科学研究科倫理委員会の承認(PR11-31)を得た。
【分析方法】①インタビューデータをもとに逐語録を作成し,②時系列に並べて,KJ法の手順を用いてカテゴリーを抽出したのち,③各カテゴリーを複線径路・等至性モデル(TEM)の方法に従って分析した。等至点として「学校の落ち着き」を設定し,「不祥事の発覚」から等至点に至る過程を記述した。
結果と考察
本事例では,学校が事件に対応する際,被害児童のことを考慮し,事件に関する情報が学校外に漏れないように,事件について知らない振りをし,また会議をする場所を工夫するなど細心の注意を払っていた。特に,教務主任は外部対応の役割を担っていたため,この点には一層慎重になっており大変さを感じていた。この中で,教務主任は,CPから具体的な助言が得られたり話を聞いてもらえたこと,また,早期に事情を説明していたPTA役員が協力的であったことなどに助けられたと感じていた。一方で,外部からCPが学校に来たことで,事態の重大さを却って認識し,プレッシャーも感じていた。また,事件の性格上,女性職員の衝撃は非常に大きかった。その一方で,日頃から加害教員と親しかった教務主任は,「信じられない」「何で気づかなかったんだ」と語りながらも,他の職員との事件の受け取り方の違いも感じていた。約2ヶ月で年度が変わったことで一応の区切りとしたが,事件への対応はその後も継続した。
本事例のように,教師によるわいせつ行為という事案で被害児童が在学する場合には,特に情報が子どもや外部に広がらないようにすることが重要になる。本事例では,事件を隠蔽するのではなく,早い段階でPTA役員に事情を説明し,学校と地域が協力しながら事件に対処していた。保護者が学校を非難し,学校がさらに混乱する場合もあることを考慮すると,このような事例では,学校と地域が早くから目標を共有し協力体制を構築することが,学校が落ち着きを取り戻す上で重要であると考えられる。また,分析の結果から,加害者が同僚の場合,教師にも強い衝撃を与えることや,事件の受け止め方は職員間で異なることが考えられる。そのため,このような事例では,加害教師との関係性も考慮しながら,教師を援助者としてだけでなく,被害者としても捉え援助していく視点がCPには求められるだろう。
本研究は日本学術振興会科研費 基盤研究(B)(No.25285191),(財)日本臨床心理士資格認定協会第2回研究助成(重点研究)の助成を受けた。