日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PG

2015年8月28日(金) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PG017] 大学生を対象とした自己調整学習に関する研究(1)

学業成績と課題実施を指標として

宇惠弘 (関西福祉科学大学)

キーワード:大学生, 自己調整学習, 学業成績

問題と目的
自己調整学習とは,学習者が能動的に学習過程に関与していることをさし,これまでに自己効力感,動機づけ,学習方略の有効性の認知,学業成績などをはじめ,多くの概念との関連が研究されている。
ところで,平成24年8月の中央教育審議会答申を受けて,大学教育の質的転換が求められている。その中に,学生の「主体的な学び」を促進させる事項が含まれている。
本研究では,大学生を対象として,自己調整学習と学業成績,ならびに課題実施との関連を調べ,「主体的な学び」に欠かせない自己調整学習の様相について検討することを目的とする。
方 法
期間・日時 2014年4月11日から7月18日の15回講義。
研究対象者 筆者の担当講義1科目である。履修登録者数は179名,定期試験受験者数は169名(履修登録者の94.4%)であった。定期試験受験者の内,自己調整学習方略尺度への回答が得られたのは157名(定期試験受験者の92.8%)であった。
分析資料 ①自己調整学習方略尺度:藤田(2010a,2010b,2012)を参考にして16項目の尺度を作成した。②学業成績:定期試験の設問1から設問3の各設問の得点とその合計,ならびに小テスト合計の5変数であった。③課題実施:宿題解答日数,宿題解答時間の2変数であった。宿題解答日数とは,宿題提示(ICTによる学習支援システムを利用)をしてから解答を始めるまでの日数であり,宿題解答時間とは,宿題を解答するために費やした時間である。④その他:出席回数と宿題提出回数を使用した。
結 果
自己調整学習方略尺度の因子構造
探索的因子分析(主因子法,Promax回転)の結果,想定とは若干異なる項目群を示す因子がみられたが,先行研究で明らかとなっている「努力調整」方略,「モニタリング」方略,「プランニング」方略,「認知的」方略の4因子が抽出された。
自己調整学習方略と学業成績・課題実施との関連
学業成績や課題実施は,講義への出席回数や宿題提出回数との関連がみられたことから,出席回数と宿題提出回数を統制し,学習方略4因子と学業成績,宿題解答日数,宿題解答時間との偏相関係数を求めた(Table1)。
学業成績と関連がみられるのは「モニタリング」方略であり,設問によっては「努力調整」方略や「認知的」方略との関連もみられた。一方,「プランニング」方略は学業成績とは関連がみられず,宿題解答日数との間に関連がみられた。
考 察
出席回数や宿題提出回数を統制し,それらの影響を除いて変数間の関連をみると,「モニタリング」方略と学業成績は関連していることがわかった。すなわち,学習した事項を自らの既有知識と関連づけ,理解できている点とできていない点を明確にしながら学習できると学業成績がよいことになる。ただし,村山(2003)が指摘しているように,問題の出題形式はそれに対応する学習方略に影響することが考えられることから,択一式(設問1と設問2)と記述式(設問3)など出題形式を考慮した解釈が本研究にも必要である。
「プランニング」方略は,学業成績との関連がみられず,計画的に学習をすすめることが必ずしも学習成績に反映されるとはかぎらない結果となった。しかし,宿題解答日数との関連から,学習を計画的にすすめる力を備えていると,積極的に課題に取り組む姿勢が身についている可能性があると考えることができる。
引用文献
藤田正(2012).自己調整学習に及ぼす学習動機および学習方略についての認知の影響 奈良教育大学 教育実践開発研究センター研究紀要, 第21号, 81-87.
村山航(2003).テスト形式が学習方略に与える影響 教育心理学研究, 51, 1-12.