[PG018] 身近な物理現象の問題解決における認知的制約の影響
影の大きさ判断課題を通して
Keywords:物理学, 小学生, 認知的制約
【問題と目的】
影は小さい子どもでも日常的に自覚しやすく,なじみのある物理現象の一つである。一方,子どもは影に関する問題解決時に影と物体との関係に注目し,光と物体との相互作用(照射関係)についてはあまり認識していない。その結果,影に関する様々な認識の誤りが生じることが様々な研究や実践報告で指摘されている(Piaget, 1927; DeVries, 1986;レッジョ・エミリア,2001)。
ところが,このような物理現象についての認識の誤りは単に科学的な説明や知識を与えただけでは解決されない。Chiら(1994)によると,物理初心者は本来なら実体のないはずの物理事象(processes)を実体があるモノ(matter)と区別せず,モノに関する知識をベースに事象について推論する。すなわち,物理事象の理解における認知的制約が働くことを示す。そして,問題解決に必要な知識を教えても発達的な概念の変化は生じにくい。そこで,本研究では我々が日常的に経験し,子どもにとっても身近な物理現象の一つである影に注目し,影の大きさ判断における認知的制約の影響について検討する。これは,物体同士の大きさ知覚(視野から遠くなると小さく見える)に関する知識が影の大きさの判断に利用されるのではないかと推測されたためである。
【方 法】
対象者 小学校1年生(21名),2年生(25名),3年生(20名),4年生(24名)と,比較のために大学生(28名) 課題 スタンドライドを設置した机の上に対象物を置いて影の大きさを確認した後,対象物をライトの近く又は壁の近くの方に移動したときの影の大きさを予測してもらう(6試行)。なお,小学生では実物を用いて個人面接法で行い,大学生には状況の絵が示された質問紙で行った(2試行)。
【結果と考察】
○学年別,影の大きさ判断における平均得点(0~6点)は1年生が2.5点,2年生が2.0点,3年生が3.7点,4年生が2.4点であった。4年生までの得点は決して高いとはいえない。小学生の回答パターンは全問正解か全問不正解の方が6割以上であった。そこで,学年別に全問正解者の割合をみたところ,1年生で28.6%,2年生で20.0%,3年生で45.0%,4年生で33.3%であった(大学生は92.9%)。
○子どもはなぜ影の大きさ判断に失敗したのか。影の大きさ判断課題で不正解したときの子どもの理由づけをTable1のように分類した。学年別,理由づけ別の結果をFigure1に示す。そこから,物は遠くなると小さく見えるといったモノに関する知識が影の大きさ判断に利用されて問題解決に失敗したことが判明した。このような傾向は理科の授業で光と影について学習した4年生でも確認された。
影は小さい子どもでも日常的に自覚しやすく,なじみのある物理現象の一つである。一方,子どもは影に関する問題解決時に影と物体との関係に注目し,光と物体との相互作用(照射関係)についてはあまり認識していない。その結果,影に関する様々な認識の誤りが生じることが様々な研究や実践報告で指摘されている(Piaget, 1927; DeVries, 1986;レッジョ・エミリア,2001)。
ところが,このような物理現象についての認識の誤りは単に科学的な説明や知識を与えただけでは解決されない。Chiら(1994)によると,物理初心者は本来なら実体のないはずの物理事象(processes)を実体があるモノ(matter)と区別せず,モノに関する知識をベースに事象について推論する。すなわち,物理事象の理解における認知的制約が働くことを示す。そして,問題解決に必要な知識を教えても発達的な概念の変化は生じにくい。そこで,本研究では我々が日常的に経験し,子どもにとっても身近な物理現象の一つである影に注目し,影の大きさ判断における認知的制約の影響について検討する。これは,物体同士の大きさ知覚(視野から遠くなると小さく見える)に関する知識が影の大きさの判断に利用されるのではないかと推測されたためである。
【方 法】
対象者 小学校1年生(21名),2年生(25名),3年生(20名),4年生(24名)と,比較のために大学生(28名) 課題 スタンドライドを設置した机の上に対象物を置いて影の大きさを確認した後,対象物をライトの近く又は壁の近くの方に移動したときの影の大きさを予測してもらう(6試行)。なお,小学生では実物を用いて個人面接法で行い,大学生には状況の絵が示された質問紙で行った(2試行)。
【結果と考察】
○学年別,影の大きさ判断における平均得点(0~6点)は1年生が2.5点,2年生が2.0点,3年生が3.7点,4年生が2.4点であった。4年生までの得点は決して高いとはいえない。小学生の回答パターンは全問正解か全問不正解の方が6割以上であった。そこで,学年別に全問正解者の割合をみたところ,1年生で28.6%,2年生で20.0%,3年生で45.0%,4年生で33.3%であった(大学生は92.9%)。
○子どもはなぜ影の大きさ判断に失敗したのか。影の大きさ判断課題で不正解したときの子どもの理由づけをTable1のように分類した。学年別,理由づけ別の結果をFigure1に示す。そこから,物は遠くなると小さく見えるといったモノに関する知識が影の大きさ判断に利用されて問題解決に失敗したことが判明した。このような傾向は理科の授業で光と影について学習した4年生でも確認された。