[PG021] 物語の読書と没入体験がマインドリーディング能力の向上に及ぼす効果
キーワード:物語読書量, 没入体験, マインドリーディング
目 的
物語の読書が持つポジティブな効果は数多く報告されているが(Green, 2004; Miall, 2011; Mol & Bus, 2011),近年,物語を読むことでマインドリーディング能力が促進されることが指摘されている(Kidd & Castano, 2013; Mar et al., 2006, 2009, 2010)。例えばMar et al.(2006)は,作家名再認テスト(Author Recognition Test: ART)を用いて測定した物語読書量が心の理論能力と弱い関連を示すと報告している。しかし,物語読書量がマインドリーディングと関連するメカニズムはあまり明らかになっていない。Johnson(2012)は,物語を読んで作品世界をイメージしているほど読後の向社会的行動が高まることを報告しており,物語の世界をイメージしたり登場人物に共感したりする「物語への没入」が,物語によるマインドリーディングの促進を支えている可能性がある。本研究では,物語読書量,マインドリーディング能力,そして物語への没入傾向の関連を,実験的に検討する。
方 法
実験参加者 大学生および大学院生61名 (女性27名,男性33名)が実験に参加した。
読書量指標 物語読書量を測定する指標として,日本語版物語作家名再認テスト(ART) を作成した。これは,実在する作家名と実在しない作家名それぞれ52項目ずつの計104項目で構成されており,Stanovich & West(1989)に従い「作家として知っている項目」を回答する再認方式のテストである。
マインドリーディング課題 Dumontheil et al. (2010)の作成したディレクター課題の日本語修正版(古見・子安, 2012)を用いた。一部に仕切りがある棚を挟んで,反対側にいるキャラクターの指示に従って棚の物品を選択することで,児童から成人にかけてのマインドリーディングを測定できる。
物語への没入傾向 小山内・岡田 (2011) の日本版文学反応質問紙 (LRQ-J)のうち共感・イメージ尺度9項目と読書への没頭尺度7項目を用いた。それぞれ,情景のイメージや登場人物への共感を体験する傾向と,読書に熱中する傾向を測定する。
手続き 参加者は個別に実験室に呼ばれ,ART,ディレクター課題,LRQ-Jの順に課題を行った。
結 果
ART得点,ディレクター課題の誤答率,およびLRQの二つの下位尺度得点を算出し,各指標間の相関係数を算出した(Table 1)。その結果,ART得点はLRQの読書への没頭得点と弱い相関を示した。一方,ディレクター課題の誤答率はLRQの共感・イメージ尺度と読書への没頭尺度の両方と弱い関連を示した。しかしながら,ART得点とディレクター課題誤答率との間に有意な相関は見られなかった。
さらに各指標間の関連を検討するためSEMによる分析を行ったところ,Figure 1のような結果を得た。読書量と没入体験は有意な関連を示し,没入体験からマインドリーディング能力へのパスは有意傾向となったが,読書量からマインドリーディングへの直接的パスは有意とはならなかった。
考 察
以上の結果から,物語への没入体験はマインドリーディングと関連する傾向が示された。これは,物語読解中の体験が実際の対人的行動に効果を持つ可能性を示唆している。一方で,相関分析の結果,物語読書量とマインドリーディング能力との関連があるとするMar et al.(2006, 2009)の結果は再現されなかった。しかしSEMの結果からは,物語読書量は読解時の没入体験を介してマインドリーディングに効果を与えている可能性が考えられる。
物語の読書が持つポジティブな効果は数多く報告されているが(Green, 2004; Miall, 2011; Mol & Bus, 2011),近年,物語を読むことでマインドリーディング能力が促進されることが指摘されている(Kidd & Castano, 2013; Mar et al., 2006, 2009, 2010)。例えばMar et al.(2006)は,作家名再認テスト(Author Recognition Test: ART)を用いて測定した物語読書量が心の理論能力と弱い関連を示すと報告している。しかし,物語読書量がマインドリーディングと関連するメカニズムはあまり明らかになっていない。Johnson(2012)は,物語を読んで作品世界をイメージしているほど読後の向社会的行動が高まることを報告しており,物語の世界をイメージしたり登場人物に共感したりする「物語への没入」が,物語によるマインドリーディングの促進を支えている可能性がある。本研究では,物語読書量,マインドリーディング能力,そして物語への没入傾向の関連を,実験的に検討する。
方 法
実験参加者 大学生および大学院生61名 (女性27名,男性33名)が実験に参加した。
読書量指標 物語読書量を測定する指標として,日本語版物語作家名再認テスト(ART) を作成した。これは,実在する作家名と実在しない作家名それぞれ52項目ずつの計104項目で構成されており,Stanovich & West(1989)に従い「作家として知っている項目」を回答する再認方式のテストである。
マインドリーディング課題 Dumontheil et al. (2010)の作成したディレクター課題の日本語修正版(古見・子安, 2012)を用いた。一部に仕切りがある棚を挟んで,反対側にいるキャラクターの指示に従って棚の物品を選択することで,児童から成人にかけてのマインドリーディングを測定できる。
物語への没入傾向 小山内・岡田 (2011) の日本版文学反応質問紙 (LRQ-J)のうち共感・イメージ尺度9項目と読書への没頭尺度7項目を用いた。それぞれ,情景のイメージや登場人物への共感を体験する傾向と,読書に熱中する傾向を測定する。
手続き 参加者は個別に実験室に呼ばれ,ART,ディレクター課題,LRQ-Jの順に課題を行った。
結 果
ART得点,ディレクター課題の誤答率,およびLRQの二つの下位尺度得点を算出し,各指標間の相関係数を算出した(Table 1)。その結果,ART得点はLRQの読書への没頭得点と弱い相関を示した。一方,ディレクター課題の誤答率はLRQの共感・イメージ尺度と読書への没頭尺度の両方と弱い関連を示した。しかしながら,ART得点とディレクター課題誤答率との間に有意な相関は見られなかった。
さらに各指標間の関連を検討するためSEMによる分析を行ったところ,Figure 1のような結果を得た。読書量と没入体験は有意な関連を示し,没入体験からマインドリーディング能力へのパスは有意傾向となったが,読書量からマインドリーディングへの直接的パスは有意とはならなかった。
考 察
以上の結果から,物語への没入体験はマインドリーディングと関連する傾向が示された。これは,物語読解中の体験が実際の対人的行動に効果を持つ可能性を示唆している。一方で,相関分析の結果,物語読書量とマインドリーディング能力との関連があるとするMar et al.(2006, 2009)の結果は再現されなかった。しかしSEMの結果からは,物語読書量は読解時の没入体験を介してマインドリーディングに効果を与えている可能性が考えられる。