日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PG

2015年8月28日(金) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PG042] 「誤前提課題」を活用した授業実践の展開

大学院生の「重さ」のルール適用に着目して

吉國秀人 (兵庫教育大学大学院)

キーワード:ルール, 重さ, 誤前提課題

問題と目的
教授学習過程の心理学研究では,知識適用場面での学習者の推論過程に注意が向けられている。工藤(2008)は,「推論過程それ自体を制御する能力」の必要性を指摘し,「知識の適用過程」を制御する水準と区別した上で,対応する評価課題として「誤前提課題」すなわち「学習材料の内容と矛盾する誤った前提にもとづく質問に対して答えるよう,学習者に求める形式の課題(p.40)」を定義した。本研究の目的は「誤前提課題」を取り入れた授業実践を行い,大学院生が「重さ」のルールを制御的に適用する様相を検討することである。
方法
実践は,事前調査→授業1→授業2→事後調査→授業3の順に行われた。大学院の講義にて,「学習者の誤った知識の修正を目指した教授方略の工夫」の実習として位置づけられた。実習結果を学内外で実践発表する,個人名は伏せて授業記録を作成する等を明記し説明した。調査用紙の提出は,匿名かつ任意とした。実践時期は2014年12月~2015年1月。事前調査は,極地方式研究会編テキスト「重さ」より抜粋した11個の発問について,実験結果を予想する選択式の課題であった。授業1及び授業2では,11個の発問を取り上げ,実際に「重さ」の変化の有無を確かめる演示実験を行った。演示実験における発問の系列は,事前調査結果に基づき,今回の受講生が予想しやすかった場面群から,予想しにくかった場面群の順に配列する工夫がなされていた。事後調査では,竹竿課題,ヘリウム課題,感想の記入を求めた。ヘリウム課題は,「誤前提課題」に位置づけられていた。中学生から「ボンベの中にヘリウムガスを入れると,ボンベ全体の重さは軽くなるでしょう,ボンベ全体の重さが重くならないのはどうしてか?」と質問されたらどう答えるかという概要であった。授業3では,ヘリウム課題に関連した演示実験を行い,結果を確認した。
結果と考察
事前調査の提出に応じた22名の結果を表1に示す。授業前に,食塩水(2)で「重さ」は変わらないと,全員が正しく予想した。他方,バブの溶解前後の「重さ」を尋ねた課題では,正予想者は4割に留まった。「重さ」のルールに基づく判断は,場面が異なれば,成人であっても必ずしも容易ではない実態が示唆された。授業では,受講生自身に「重さ」のルールを考えてもらう活動(授業1)や,教師が提示した「重さ」についてのルール1「姿形が変わっても,ものの出入りがなければ,重さは変わらない」を適用するのみならず,受講生が「関係操作的思考」を行い,ルール1とは別のルールを導いてみる活動も展開された(授業2)。
事後調査の提出に応じた21名のうち17名が,授業で演示実験しなかった竹竿課題に,「重さは変わらない」と正答できた。他方,ヘリウム課題では,ヘリウムを入れた後のボンベ全体の「重さ」は「重くなる」こと,つまり課題に登場する質問者の前提が誤っていることを正しく指摘した者は21名中4名に留まった。他には,「重さ」は「ほぼ変わらない」という回答のタイプが5名,「軽くなる」のタイプが3名,「その他」のタイプが9名見られた。授業前後の調査と授業ワークシートいずれも提出した者に着目し,誤前提課題の回答タイプと,授業前や授業中の予想活動との関連性の詳細分析を行うことが,今後の課題である。