日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PG

2015年8月28日(金) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PG046] 生活経験と生活満足度との関連

ポジティブ・イベントと向社会的行動を指標として

藤井三和子1, 泉美穂2, 中間玲子3 (1.兵庫教育大学大学院, 2.兵庫教育大学大学院, 3.兵庫教育大学大学院)

キーワード:生活満足度, ポジティブ・イベント, 向社会的行動

問題と目的
生活満足度は,個人の主観的幸福感の中核概念とされており(Gilman & Huebner, 2006),適応のみならず生活の質全体を考える上で重要なものとされる。青年期には,自己や将来に対する意識が否定的なものになることが知られているが,生活全般に対する意識も同様に,青年期には否定的なものになってしまうのだろうか。近年,青年期における親子葛藤の低下など,青年期の様相は以前と比べて穏やかなものとなったと報告されている(Santrock, 2012)。友人関係に対する満足度も以前より高いとされる(辻, 2005)。
そこで本研究では,小学生から高校生における生活満足度の比較を行うことを第一の目的とする。
また,それが何によって規定されるのかを検討することを第二の目的とする。この問題について吉武(2010)は,ポトムアップ理論(Diener, 1984)とトップダウン理論(Costa & McCrae, 1980)の双方をふまえた検討を行った。中学生を対象とした調査から,ボトム・アップ的に検討することの有用性を示唆しうる結果を報告している。ただしそこでは,いかなる経験が特に生活満足度を規定する上で重要なのかという点までは検討されていない。同じく中学生を対象とした三浦(2013)は,生活経験の重要な領域は,部活動,友人からの援助的かかわり,友人との余暇的かかわり,学業・授業,教師とのかかわり,恋愛の6つに分かれることを報告しているが,それぞれのイベントの個別の意味までは検討していない。そこで本研究では,ポジティブ・イベント経験の様相を分けながら,生活満足度との関連を検討することとする。加えて,個人の行動経験も生活経験として考慮することとし,向社会的行動の程度との関連も併せて検討する。なお,生活における重要な領域は個人によって異なるため個性記述的な検討が求められるところであろうが(Moretti & Higgins, 1990),学校段階の移行に伴う生活世界の変化と自己意識や友人関係の変化とが相互に作用しあう青年期発達の過程においては,ある程度,重要な生活経験の領域をとらえうると考え,法則定立的方法によって検討する。
方法
泉・藤井・中間(2015, 日教心)と同様。③生活満足度はHuebner(1991; 吉武, 2010訳)のStudents' Life Satisfaction Scale,7項目,6件法。
結果
生活満足度の性差・学年差 生活満足度を従属変数,性および学校段階を独立変数とした二要因分散分析を行った。その結果,学校段階による主効果が有意であり(F(2,867)=32.65, p<.001),高校生が小・中学生よりも有意に得点が低かった。
ポジティブ・イベントおよび向社会的行動が生活満足度に及ぼす影響 生活経験と生活満足度との関係を検討するため,ポジティブ・イベントの項目および向社会的行動の項目を説明変数,生活満足度を目的変数とした重回帰分析を性・学校段階ごとに行った(Table 1)。ポジティブ・イベントおよび向社会的行動の項目については因子分析(最尤法,promax回転)の結果からそれぞれ,“効力感経験”,“娯楽経験”,“有用感経験”の3因子,“対友だち行動”,“対知らない人行動”,“対家族行動”,“勉強関係行動”の4因子を抽出し,そこから下位尺度得点を算出して分析に用いた。
性別・学校段階を問わず娯楽経験からの正の影響,高校生女子以外における効力感経験からの正の影響が有意であった。女子においては男子よりも,高校生においては他の学校段階の者よりも説明率が低いことも示され,それらの群においては今回検討しなかった変数からの寄与が想定された。なお,全対象者を併せ,学校段階および性も説明変数に入れて重回帰分析を行った場合,学校段階からの負の影響も有意であった(β=-.14, p<.001)。