The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PG

Fri. Aug 28, 2015 10:00 AM - 12:00 PM メインホールA (2階)

[PG049] 保育者養成における学生の省察力育成の試み(1)

AIミニ・インタビュー

利根川智子1, 音山若穂2, 三浦主博3, 井上孝之4, 織田栄子5, 上村裕樹6 (1.東北福祉大学, 2.群馬大学, 3.東北生活文化大学短期大学部, 4.岩手県立大学, 5.聖霊女子短期大学, 6.帯広大谷短期大学)

Keywords:保育者養成, 省察尺度, 対話

問 題
保育士養成において,省察力の育成は重要な課題である。筆者らは,和田(2010)に基づき,ホールシステムアプローチを養成課程の学びの場に取り入れ,保育実習事前・事後指導を中心とした指導を行ってきた。このうち,ワールド・カフェについては,実施前後の比較により,集団雰囲気や保育者省察尺度に変化が認められ,一定の成果が確認されている(利根川ら, 2011;三浦ら,2012)。一方で,ワールド・カフェは,数人でテーブルを囲んで座席移動を繰り返しながらテーマに沿った話し合いを行うため,①実施には比較的長時間を要すること,②比較的小規模の集団では実施が困難であること,③集団的対話形式をとるために参加者によっては十分に会話が引き出されず個々の学びにつながらない可能性があることといった課題が明らかになってきている(音山, 2015)。特に,実習の振り返りのような場面では,自らの経験をうまく言語化できず,省察が深まらない可能性も考えられ,より個人の経験や気付きを積極的に引き出す対話アプローチが求められていた。
そこで,本研究ではワールド・カフェに加えて,ホールシステムアプローチの一手法であるAI (Appreciative Inquiry; Whitney et al., 2002)の中から,AIミニ・インタビューを取り上げ,実習事後指導に活用し,保育者省察尺度を用いてその効果を検証することとした。
方 法
1)対象:A大学の3年生136名を対象とした。
2)測定時期 参加者は3年次の6月および8~9月に保育実習をおこない,10月(保育実習終了1か月後)にワールド・カフェに連続3回参加し,1月(保育実習終了4か月後)にAIに参加した。測定は,ワールド・カフェの前後およびAI後に行った。3)尺度 保育者省察尺度(杉村, 2006; 2009)を用いた。「保育者自身に関する省察項目,子どもに関する省察項目,他者を通した省察項目,各12項目計36項目。「今回の対話を通してどの程度意識したか」について,1:全くしない~4:強く意識した」の5件法で回答を求めた。4)手続き ワールド・カフェの前週の保育実習後期第一回目(t1),ワールド・カフェ後にその場で回答を求めた(t2)。また,AI終了後にその場で回答を求めた(t3)。AIは,「実習を振り返って,保育者としての将来を思い描こう」というテーマで,2コマ分の授業時間を使って行った。1コマ目でペアをつくり,「あなたが実習によって経験した,「最もワクワクした(素敵な,素晴らしい,価値のある,大きな学びを得た)出来事」を話してください」および「「最もワクワクした出来事」から得た学びを,保育実践に活かすことができますか?」のインタビューを実施した。2コマ目で,8人グループでの共有とキーワードの発見などの話し合い,参加者全員での共有を行った。
結果と考察
カフェ前・カフェ後・AI後の3時点のデータを用いて,1要因被験者内分散分析を行った。その結果,カフェ前からAI後にかけて得点が上昇傾向を示した項目は,「3.子どもが何か言う前に自分の言動の影響を考える」「4.子どもに何か言った後,その時の自分の感情について考える」「11.保育者としての信念について考える」「15.子どもにとって何が必要か考えながら育てる」「18.子どもに関する長期的見通しについて考える」「19.保育の出来事から「子ども」の本質について考える」「20.子どもと話す前に,子どもの受け止め方について考える」「30.他の人と話しているうちに,保育に関する疑問が解決する」「36.教科書や子育てに関する雑誌,本などを読み,自分の保育観と照らし合わせる」などであった。得点が下降傾向を示した項目は,「12.子どもに対する自分の言動に気をつける」「21.子どもと一緒にいるとき,子どもの行動に注意を向ける」「24.子どもと話しているとき,子どもの表情や態度に注意する」「25.他の人と保育の話をして,自分の保育の方針を改める」「26.他の人の保育を見て,今の自分の保育に必要なことに気づく」「33.他の保育者の子どもに対する話し方に注意する」「34.他の人が子どもにどのように接しているか注意深く見る」などであった.その他3時点での得点差が出る傾向にあった項目は,「1.子どもと話した後,自分の言い方が適切かどうか考える」「18.子どもに関する長期的見通しについて考える」「28.他の人と子どもの話をすることで,自分が担当している子どもの特徴に気づく」「31.他のクラスの子どもが保育者とかかわる様子を注意深く見る」「32.他のクラスの子ども達と保育者が話す様子を注意深く見る」であった。
以上のように,項目によって異なる傾向が認められた。必ずしも,AIミニ・インタビュー後に得点が向上していない理由として,以下のことが考えられる。まず,ワールド・カフェからAIミニ・インタビューまでの間に事後指導が進められていたため,学生自身の要求水準が高まり,評価が厳しくなった可能性が考えられる。次に,全体にかける時間の不足など,学生のペースで進められなかった可能性がある。そして,内容への学生の取組に温度差があったことが挙げられる。AIミニ・インタビューの進め方については,例示をして学生に進行の見通しが立てられるようにするなど,今後検討の余地があるだろう。
*本研究は平成26年度日本学術振興会科学研究費(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)24500887の助成を受けた。