[PG050] 保育者養成における学生の省察力育成の試み(2)
対話後の自己評価と省察尺度との関係
キーワード:保育者養成, 省察尺度, 対話
問 題
保育における省察力育成を目的とした和田(2010)以降の一連の実践のうち,ワールドカフェを活用した実践においては,参加者はカフェ形式の対話をおおむね肯定的に捉えており,実践の前後で木本(2011)の集団雰囲気を比較した結果では,カフェの雰囲気が肯定的であったことが示されてきた(eg., 利根川ら, 2011;三浦ら, 2012;音山ら, 2013)。一方,学生を対象にカフェ形式の対話を取り入れた演習を行う際にしばしば問題となるのは,学生によって意欲や取り組み姿勢にばらつきがあり,こうした集団的な対話に消極的な学生については十分な教育的効果が得られないおそれがあるという点である。対話に対する意欲や取り組みの姿勢は,対話後の自己評価にも反映するものと考えられる。そこで本研究では,カフェ形式と,AI(Whitney, et al.,2002)をベースとしたミニ・インタビュー形式によって行われたそれぞれの対話について,対話後の学生の自己評価と省察尺度との関係を検討することを目的とした。
方 法
1)対象 A大学の3年生136名(報告1に同じ)。
2)測定時期 報告1に示した測定時点のうち,保育実習終了1か月後に行われたワールドカフェ終了後(カフェ後),およびAIミニ・インタビュー終了後(AI後)。
3)尺度 ①保育者省察尺度(杉村ら, 2006, 2009):報告1に同じ。 ②対話後の自己評価:利根川ら(2013)によるカフェ事後評価項目20項目の中から,「いろいろな人と,話をすることができた」「自分が経験していない出来事や状況を知ることができた」「自分の考えや意見を,見つめ直すことができた」など,主要な11項目を抽出して使用した。「今回の対話を終えてどのように考えるか」との設問に,そう思う⑸~そう思わない⑴の5件法により,いずれも授業後にその場で回答を求めた。
結 果
1)対話形式による自己評価の差:カフェ後と,AI後において,それぞれ自己評価を求めた結果を比較した。Paired-t testの結果,「1いろいろな人と,話をすることができた」,「2自分の話をたくさんの人に聞いてもらえた」,「3たくさんの人の話を聞くことができた」,「6自分が経験していない出来事や状況を知ることができた」,「8自分自身について見つめ直すことができた」,「9会話を通して,自分の意見や考えを,深いものにすることができた」の6項目,および11項目の合計値について有意差が認められ,いずれもカフェ後の評価のほうが,AI後よりも高いことが示された。
2)カフェ後の自己評価と省察尺度の関係:カフェ後の事後評価の中央値(Md=50)を基準として高低2群(L群/H群)に分け,両群間で省察尺度の平均値を比較した。t-testの結果,「保育者自身に関する省察項目(L群: Mean=40.08, SD=6.96; H群: Mean= 45.35, SD=5.51; t=4.841, df=130, p<.01)」,「子どもに関する省察項目(L群: Mean=40.24,SD=6.82; H群: Mean= 45.76,SD=5.77; t=5.054, df=131, p<.01)」,「他者をとおした省察項目(L群: Mean=42.81,SD=7.18; H群: Mean= 48.25, SD=5.44; t=4.992, df=133, p<.01)」いずれにおいても有意差が認められ,いずれも自己評価が高い群(H群)のほうが自己評価の低い群(L群)に比べて省察尺度の平均値が高いことが示された。下位項目についても同様の傾向が示され,36項目中30項目で有意差が認められ,いずれもH群のほうがL群よりも高平均であることが示された。
3)AI後の自己評価と省察尺度の関係:AI後の事後評価の中央値(Md=48)を基準として高低2群(L群/H群)に分け,両群間で省察尺度の平均値を比較した。t-testの結果,「保育者自身に関する省察項目(L群: Mean=41.08, SD=7.26; H群: Mean= 46.03, SD=6.15; t=4.221, df=129, p<.01)」,「子どもに関する省察項目(L群: Mean=41.47, SD=7.10; H群: Mean= 45.39, SD=6.54; t=3.317, df=131, p<.01)」,「他者をとおした省察項目(L群: Mean=41.68, SD=6.98; H群: Mean= 46.71, SD=5.78; t=4.489, df=128, p<.01)」いずれにおいても有意差が認められ,いずれも自己評価が高い群(H群)のほうが自己評価の低い群(L群)に比べて省察尺度の平均値が高いことが示された。下位項目についても同様の傾向が示され,36項目中27項目で有意差が認められ,いずれもH群のほうがL群よりも高平均であることが示された。
考 察
以上の結果は,ワールドカフェ,AIミニ・インタビューともに,対話後の学生の自己評価が省察力の習得に関係する可能性を示唆している。全ての学生が意欲的に取り組める対話となるよう,テーマや進行に工夫が必要であろう。対話形式の違いについてみると,カフェ後よりもAI後の自己評価が低かった。AIは2人1組のインタビューが中心で,「いろいろな人と話をすることができた」といった実感が必ずしも得られるものではないが,「会話を通して自分の意見や考えを深いものにすることができた」の評価も低いなど,総じて学生にとって対話の成果を感じ難かった様子を見て取ることができる。この点については報告1にも示したように,限られた時間内で納得のいくインタビューが行えるよう工夫したり,例を示して学生自ら見通しのつくような配慮が必要と思われる。
*本研究は平成26年度日本学術振興会科学研究費(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)24500887の助成を受けた。
保育における省察力育成を目的とした和田(2010)以降の一連の実践のうち,ワールドカフェを活用した実践においては,参加者はカフェ形式の対話をおおむね肯定的に捉えており,実践の前後で木本(2011)の集団雰囲気を比較した結果では,カフェの雰囲気が肯定的であったことが示されてきた(eg., 利根川ら, 2011;三浦ら, 2012;音山ら, 2013)。一方,学生を対象にカフェ形式の対話を取り入れた演習を行う際にしばしば問題となるのは,学生によって意欲や取り組み姿勢にばらつきがあり,こうした集団的な対話に消極的な学生については十分な教育的効果が得られないおそれがあるという点である。対話に対する意欲や取り組みの姿勢は,対話後の自己評価にも反映するものと考えられる。そこで本研究では,カフェ形式と,AI(Whitney, et al.,2002)をベースとしたミニ・インタビュー形式によって行われたそれぞれの対話について,対話後の学生の自己評価と省察尺度との関係を検討することを目的とした。
方 法
1)対象 A大学の3年生136名(報告1に同じ)。
2)測定時期 報告1に示した測定時点のうち,保育実習終了1か月後に行われたワールドカフェ終了後(カフェ後),およびAIミニ・インタビュー終了後(AI後)。
3)尺度 ①保育者省察尺度(杉村ら, 2006, 2009):報告1に同じ。 ②対話後の自己評価:利根川ら(2013)によるカフェ事後評価項目20項目の中から,「いろいろな人と,話をすることができた」「自分が経験していない出来事や状況を知ることができた」「自分の考えや意見を,見つめ直すことができた」など,主要な11項目を抽出して使用した。「今回の対話を終えてどのように考えるか」との設問に,そう思う⑸~そう思わない⑴の5件法により,いずれも授業後にその場で回答を求めた。
結 果
1)対話形式による自己評価の差:カフェ後と,AI後において,それぞれ自己評価を求めた結果を比較した。Paired-t testの結果,「1いろいろな人と,話をすることができた」,「2自分の話をたくさんの人に聞いてもらえた」,「3たくさんの人の話を聞くことができた」,「6自分が経験していない出来事や状況を知ることができた」,「8自分自身について見つめ直すことができた」,「9会話を通して,自分の意見や考えを,深いものにすることができた」の6項目,および11項目の合計値について有意差が認められ,いずれもカフェ後の評価のほうが,AI後よりも高いことが示された。
2)カフェ後の自己評価と省察尺度の関係:カフェ後の事後評価の中央値(Md=50)を基準として高低2群(L群/H群)に分け,両群間で省察尺度の平均値を比較した。t-testの結果,「保育者自身に関する省察項目(L群: Mean=40.08, SD=6.96; H群: Mean= 45.35, SD=5.51; t=4.841, df=130, p<.01)」,「子どもに関する省察項目(L群: Mean=40.24,SD=6.82; H群: Mean= 45.76,SD=5.77; t=5.054, df=131, p<.01)」,「他者をとおした省察項目(L群: Mean=42.81,SD=7.18; H群: Mean= 48.25, SD=5.44; t=4.992, df=133, p<.01)」いずれにおいても有意差が認められ,いずれも自己評価が高い群(H群)のほうが自己評価の低い群(L群)に比べて省察尺度の平均値が高いことが示された。下位項目についても同様の傾向が示され,36項目中30項目で有意差が認められ,いずれもH群のほうがL群よりも高平均であることが示された。
3)AI後の自己評価と省察尺度の関係:AI後の事後評価の中央値(Md=48)を基準として高低2群(L群/H群)に分け,両群間で省察尺度の平均値を比較した。t-testの結果,「保育者自身に関する省察項目(L群: Mean=41.08, SD=7.26; H群: Mean= 46.03, SD=6.15; t=4.221, df=129, p<.01)」,「子どもに関する省察項目(L群: Mean=41.47, SD=7.10; H群: Mean= 45.39, SD=6.54; t=3.317, df=131, p<.01)」,「他者をとおした省察項目(L群: Mean=41.68, SD=6.98; H群: Mean= 46.71, SD=5.78; t=4.489, df=128, p<.01)」いずれにおいても有意差が認められ,いずれも自己評価が高い群(H群)のほうが自己評価の低い群(L群)に比べて省察尺度の平均値が高いことが示された。下位項目についても同様の傾向が示され,36項目中27項目で有意差が認められ,いずれもH群のほうがL群よりも高平均であることが示された。
考 察
以上の結果は,ワールドカフェ,AIミニ・インタビューともに,対話後の学生の自己評価が省察力の習得に関係する可能性を示唆している。全ての学生が意欲的に取り組める対話となるよう,テーマや進行に工夫が必要であろう。対話形式の違いについてみると,カフェ後よりもAI後の自己評価が低かった。AIは2人1組のインタビューが中心で,「いろいろな人と話をすることができた」といった実感が必ずしも得られるものではないが,「会話を通して自分の意見や考えを深いものにすることができた」の評価も低いなど,総じて学生にとって対話の成果を感じ難かった様子を見て取ることができる。この点については報告1にも示したように,限られた時間内で納得のいくインタビューが行えるよう工夫したり,例を示して学生自ら見通しのつくような配慮が必要と思われる。
*本研究は平成26年度日本学術振興会科学研究費(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)24500887の助成を受けた。