The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PG

Fri. Aug 28, 2015 10:00 AM - 12:00 PM メインホールA (2階)

[PG052] 園生活における怒りの表出について幼児はいかに語るか

年中時点から年長時点にかけての変化

久保ゆかり (東洋大学)

Keywords:幼児期, 感情表出, 語り

背景・目的
幼児期における,怒りの表出についての認識には多様性があることが示唆されている(坂上,2000)。そこで本研究では,5歳時点から6歳時点にかけての一人ひとりの変化に着目して分析し,怒りの表出についての認識の内容が,1年の間にどのように発達していくのか,探索的に検討する。
方 法
参加者;幼稚園年中組(5歳)児26名。手続き;年中組時点とその1年後の年長組時点に実施した。園生活における自他の感情表出について尋ねた。本研究で,分析の対象とした質問は次の通り: 幼稚園でお友達が怒ったりすること,あるかな?○○ちゃんは,怒ったりしている友だちをみたら,どうするかな? 分析方法;子どもたちの回答を坂上(2000)と久保(2007)に沿ってカテゴリに分類した。さらに1年間の変化の仕方が類似しているものをまとめ,変化の経路を抽出した。
結果と考察
全体的な変化;友だちの怒り表出に対して自分は,「怒る,やな気持ち,悲しい,泣く,逃げる等」の否定的反応をすると語ったのは,年中時点では4割(11名)だったが,年長時点では半減した(2割5名)。一方,「なんで怒ってんのってきく」といった問題解決を意図した反応を語ることは,年中時点では1割(3名)だったが,年長時点では4割(11名)に増えた。また,「わからない」「覚えてない」と語ること・何も語らないことは,年中時点(1割2名)よりも年長時点(2割6名)で多くなっていた。
1年間の変化の経路;6つの経路(21名)と,それ以外(5名)の変化が見出された。ここでは,6つの経路について記述する。
1)年中時点からずっと否定的反応を語る経路;4名が該当。例えば,年中時点で「悲しい」,年長時点には,「自分が怒ったことないから,(友だちが怒ると)悲しくなっちゃう」と語った。年中時点から一貫して,怒り表出は,否定的な反応を引き出すと認識している発達経路があることが覗える。
2)年中時点では否定的反応,年長時点では問題解決を意図した反応を語る経路;例えば,年中時点では「やな気持ち」,年長時点では「ちょっとどきどきするけど,どうしたのって聞いてみる」。6つの経路のなかで最多の6名が該当した。主要な経路であることが覗える。
3)年中時点では否定的反応を語るが,年長時点では何も語らなくなる経路;3名が該当した。
4)年中時点では表出の抑制を語るが,年長時点では何も語らなくなる経路;3名が該当した。例えば,年中時点では「それをやめろって言う」,年長時点では「いろんなこと言ってる,覚えてない」。この例からは,年長になると怒り表出はもはや単に抑制すべきものではないと気づくが,抑制に代わる,より複雑な対応を創出したり,それを表現したりするのは難しいのかもしれないと思わせられる。3)の経路でも同様に,年長になると怒り表出はもはや単に否定的反応を惹起するものではないと気づくが,それに代わるものを創出したり表現したりすることが難しいということがあるのかもしれない。
5)年中時点では表出の抑制を語り,年長時点では問題解決を意図した反応を語る経路;例えば,年中時点では,「だめだよって言う」,年長時点では「何したの?とか言うの」。2名が該当した。
6)年中時点からずっと問題解決を意図した反応を語る経路;3名が該当。例えば,年中時点で「ごめんねって,二人で言った」,年長時点には「『これは○○ちゃんが作ったんだよ』って優しく言ったげる(勘違いで怒っている友だちに勘違いであることを伝えるということ)」。年中時点から一貫して,怒り表出は,問題解決を意図した反応を引き出すと認識している発達経路があることが覗える。
以上から,年中時点から年長時点の園生活における怒りの表出についての認識の発達には,多様な経路のあることが示唆される。特に,年中時に何らかの機能を語っていたのに,1年後には語らなくなってしまったという変化は,この時期の発達が,加齢とともに直線的に変化するといった単純なものではないことを示唆しており,今後,分析をさらに深めることが必要である。
坂上裕子(2000) 情動表出に関する幼児の認識 日本発達心理学会第11回大会発表論文集 p348
久保ゆかり(2007) 幼児期における感情表出についての認識の発達:5歳から6歳への変化 東洋大学社会学部紀要,44,89-106.
付 記
本研究の分析の一部に平成26年度日本学術振興会科学研究費補助金(基盤C課題番号23530868)の助成を受けた。