日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PG

2015年8月28日(金) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PG061] 自閉症の描画と立体作品

立体作品ができる時

永井弘人 (愛知県立小牧特別支援学校)

キーワード:自閉症, 描画, 立体作品

はじめに
障害を有しながらも,特定の分野で目を見張るほどの卓越した能力示すことやその人を「イディオサバン(Idiot Savant)」と呼び,耳目を集めて既に100年余が経過している。
日本では,山下清等の例があり,知的障害であっても,作品の精緻さや根気よく最後まで仕上げようとする情熱において,みごとに才能を開花した例である。この様な,大衆の耳目を集めた例ばかりでなく近年は,自閉症に起きる事例を取り上げた報告が多い。
自閉症は,カレンダー計算や音楽的能力などの様々な分野で驚異的な能力を示してきた。中でも,美術的な才能については,報告されている数こそ少ないが,自閉症の脳機能とイディオサバンの脳機能との関連性に関心が集まっており,その現象解明の一端として自閉症の描画について多くのことが明らかになってきた。
しかし,これまでの知見は平面的な描画に集中しており,立体作品や描画能力との関係はいまだ十分とは言えず,今回取り上げる事例は,これまでの研究を援用し立体作品について考察したものである。
先行研究における自閉症の描画・立体表現の特徴
① 認知特性
IQなどの知的水準を表す指標からは想像を超えた独自な世界が展開される。
② 独特な視線
独特な周辺視野を好むことにより表現され,画面に全体としてのまとまりがない。
③ ファンタジーへの没頭
④ 限られた対象への関心の強さ
同じ対象物を繰り返す。あるいは,身近で慣れたもののみを描く。
⑤ 感情の表出
絵で感情を表現する。(廣澤・大山 2007)
⑦ 社会性の伸長とともに直感したもの(立体物)を具現化する能力の出現
(久保・牧原 2013)
対 象
対象:広範性発達障害と診断され,中学校までは特別支援学級に在籍し,高等部より特別支援学校に在籍。IQ60程度
家族は,両親,姉,兄,本対象の4人家族であり,家族に特記する事項はない。
行動の特徴としては,慣れないところでの多動もしくは,独り言を繰り返して外界との関係を遮断する。視線回避するために,挨拶や返事などは,17歳になる頃から可能になった。パターン化された行動が多く,気温の変化に対応して衣服の調整が困難である。
表出された物の特徴
描画・立体作品の特徴
① 記憶による描写は困難であった。
修学旅行で見た風景が描けない。教師による「スカイツリーから富士山が見えたね。」などの教示にあれば,ステレオタイプの富士山を描いた。また,スカイツリーの全体像は描けないが,格子状の鉄骨については細密に描くことはできた。
② 写真を見ても描けないが,イラストなどは巧みな模写が可能である。特に,自分がなりきって独り言にもよく出てくるルパン三世については,描画に非常に熱心に取り組み,特に際立った。
③ 社会性の伸長と突然の立体表現
写真1.2.の立体作品は,18歳になって社会性の伸長が見られるようになった頃,授業中に教師の目がしばらく届かない時間を縫って,制作したものである。モデルがあるわけではない。
④ 直感による具現化
立体作品は,三角法のような手掛かりもなく,直観によるものである。細部まで丁寧に作りこまれており精緻な印象を受ける。
考 察
断片的な描写ではあるが,対象の行動は,自閉症の典型的な行動特性を示している。また,描画についても,ファンタジーへの没頭など,先行研究で整理された特徴を有している。特に,立体表現については,社会性の伸長とともに,突然に表出されたものであり。これも先行研究の事例と共通する点である。
わずかな例ではあるが,平面から立体への変化もしくは飛躍の背景に,先行研究にもあるように社会性の伸長と突然の立体表現が出現することに関連性があるものと推察される。
文 献
廣澤愛子 大山 卓(2007)愛知教育大学教育実践総合センター紀要, 第10号 pp25~34
久保りつ子 牧原広之(2013) 教心第55回総会発表論文集 p458