The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PG

Fri. Aug 28, 2015 10:00 AM - 12:00 PM メインホールA (2階)

[PG063] 学習に困難を示す高校生のDN-CAS評定

幼児英才教育の功罪?

藤本浩一 (神戸松蔭女子学院大学)

Keywords:学習障がい, 図形の推理, 英才教育

DN-CASとは
ダス(D)とナグリエリ(N)による認知評価システム(Cognitive Assessment System)は,単に知能指数を知るのではなく,「プラニング」,「注意」,「同時処理」,「継次処理」の4つの過程から個人の情報処理能力を調べるもので,前2者は大脳前頭前野の実行機能に,後の2つは主に記憶に関連すると言えよう。
本研究では,認知能力にアンバランスがある男子高校生にDN-CASを実施して,その不思議さについて解釈を試みた。
被験者について
A県B市C高校で当時18歳の男子高校生D君は,対人的な印象がよく,礼儀正しくて受け答えも明瞭さわやかな好青年である。両親は教育熱心で,いわゆる幼児英才教育を本人に施し,おかげで幼児期に×××記憶××を達成し,小説「××」を全文暗唱できた。高校では系列校のプレゼン大会で参加者数百名中かなり上位の成績を修めたが,その反面,中学校あたりから成績には苦労し,英語やリスニングは良く出来るものの,他の教科は軒並み下位に低迷していて,成績だけでは大学推薦を受けられない状況であった。高校では彼の能力のアンバランスから,サボッている,勉強の好き嫌いが激しい等の非難も聞かれ,正しい理解の必要性が痛感されて今回の検査に至った。
DN-CAS評価点から
標準得点ではプラニング128,同時処理98,注意117,継次処理127で4つの処理過程に特に問題はなく,全検査は124で優れていた。
情報を手に入れて順に積み上げ,それらの関係を理解したり相互に関連づけて推理したりする能力にも長けている(継次処理)。
図形の推理
ところが「同時処理」の下位項目である「図形の推理」は平均から著しく低く,次のような問題につまずいた。例えば次のように,行と列のタテヨコの図形相互の関係を見出し,その関係に合致するような図形を1つ選択することが難しい。
彼は同時に目の前に提示された事柄の間に,一定の法則・ルールといった関係性を自ら発見し,それを次の状況に当てはめるという認知的な理 解力がやや不足した。取得した材料についての推論などの論理操作が良好なことと対照的である。
アンバランスの原因
個人的なもの(個性)か,あるいは幼少期からの○○○を始めとした集中的な塾通いの恩恵と弊害かも知れない。後者ならその恩恵は単純な記憶やワーキング・メモリが良好,そして英会話やリスニング成績も該当するだろう。弊害として英才教育の豊富な教材は,記憶すべき材料として予め与えられたもので,「おや,何だろう?」という不思議・発見を伴わず,材料相互の関係性を自ら理解してルールを発見するような活動は省略されている。集中的な塾通いで与えられるのは,比ゆ的にいうと栄養剤であり,目の前にある教材相互の関係性を見抜いて応用する力が未発達であると考えられる。学習内容の意味づけについても同様のことが言える。文法規則の「発掘」や数学の整合性に気づく訓練が必要であろう。もっとも,彼の得意を伸ばすことはそれよりも大切であろう。