The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PG

Fri. Aug 28, 2015 10:00 AM - 12:00 PM メインホールA (2階)

[PG067] 行動が乱れがちな重複障害事例における共同的活動の拡大と行動調整の促進

子どものイニシアチブに視点をおいた係わり合いからの考察

岡澤慎一 (宇都宮大学)

Keywords:重複障害, イニシアチブ, 行動調整

1 目的
障害の重い子どもの行動の乱れ(国立特殊教育総合研究所重複障害教育研究部,1996)に対して,従来,それらを特定の障害に特有な行動とみたり,「問題行動」として変容を期待し,直接的・技法的な対処を求められたりすることが多く(土谷,1994),こうした傾向は現在においても大きくは変わらないように思われる。しかしながら,こうした対応においては行動の意味を係わり合いの文脈のなかからとらえる観点が希薄であるように思われ,実践の蓄積は少なく限られている。ここでは,行動の乱れが著しかった重複障害事例と共同的活動を重ねるなかで行動調整が促進された経過について,生命活動の調整度(梅津,1976)と子どものイニシアチブ(土谷,2012)の観点を踏まえ,経過に関わった条件を検討することを目的とする。
2 方法
対象児は,筆者ら(以下,Aと略記)との係わり合い開始当初(2011年1月)11歳9ヵ月で知的障害特別支援学校小学部重複障害学級に通学する6年生の男児(以下,Yと略記)であった。2015年3月の現在まで筆者が大学において実施している教育相談の場で月に1~2回,90~120分程度の係わり合いを重ねている。2回目以降の教育相談の様子が映像資料に残されている。当初の教育相談の主訴は,「おたけび」と「自傷」への対応であった。「おたけび」は,掌を耳元に当てながら,喉の奥から絞り出すような「あ゛ー」という声を発するもので小学校中学年頃からひどくなった。「自傷」は,掌で自身の頬を激しく打つ(以下,頬叩きと略記)ものが多く,その他には,こぶしで鼻骨を打つ,指を自身の眼に入れる,頭を床に打つ,などがある。その後,それらが軽減する様子は見られなかったとのこと。学校では,設定された活動に取り組ませることなどを契機として,「おたけび」,「自傷」がひどくなり,下唇の左右を繰り返し噛んで出血する様子が見られた。筆者との係わり合い開始当初の行動の様子は以下の様であった。手を支えられて歩行が可能であるが,不安定でまもなく座り込むことが顕著。Aが抱っこをしてプレイルームに向かうが,その間,「おたけび」を繰り返し発する。また,掌で自身の頬を激しく打つ。母親が与えているタオルは唾液ですぐにぐっしょりする。音声言語による発信はない。その他,人に対する構成的な発信も少なく,回避的行動が優位。周囲の人やモノに対して,一瞥的に視線が向いたり,ときにさらに接近して触れたりすることがあるものの,その後の交渉は長く続かない。こうした様子を受けてYとの係わり合いの方針を以下の様に仮設した。①「おたけび」や「自傷」を生命活動の調整上の働きを有するものととらえ,係わり合いの文脈のなかでその意味を見出すよう努め,直接的な対処の対象とはしない,②Yの興味・関心あるいは注意の方向性および焦点をとらえる,③Yの自発した行動が十分な展開を経て終止に至るよう働きかける。④やりとりの活発化を見計らい,Aからの活動の提案も打診的に重ねる。
3 結果と考察
経過1:「おたけび」や「自傷」,泣きが頻発する。移動場面においては,Aにもたれ掛ってなし崩し的に抱っこのかたちになることがほとんど。一方,プレイルームにおいて発声と泣き,自傷を繰り返しつつ一瞥的に玩具などに接近するYに対してAは,状況説明の叙述を重ねつつ追従する。Aを一瞥するときには柔らかく微笑み返し,時折接近したりAに求めたりする手叩きやキーボードの音出し,トランポリンの跳躍には積極的に応じ,やりとりの契機とした。少しずつAの接近に対する回避様の行動が少なくなる(2011年2月)。経過2:次第にAへの接近が活発化し,「おたけび」(発声),「自傷」が少なくなる(2012年4月)(Fig.1)。また,喜びの情動に伴う身体表出が活発化したり,活動内容の拡がりも見られる(2012年8月)。一方で,Aからの音声言語による声掛けに対応して行動を変換する様子もよく見られるようになる。経過3:「おたけび」「自傷」は格段に減少し,激しい泣きはほとんど見られない。自発的な発信が増加し,Aからの信号が入りやすくなった(2015年3月現在まで)。以上の経過は,筆者らの方針の妥当性を補強するものといえる。