[PG072] 児童養護施設退所児童への支援
「アフターケア」の課題の検討
キーワード:児童養護施設, アフターケア, 相談者
【問題と目的】
本研究は,児童福祉施設である児童養護施設の入所児童(~18歳まで)が,児童福祉法に基づいて18歳で退所した後の支援の不足の課題に着眼し,その対応策をパイロット的に実践していることについて検討し,報告するものである。
わが国においては,重大な社会問題の一つとされる「児童虐待」の被害児童への支援の実践を行う公的機関の一つの児童養護施設(以下,施設と略記)では,18歳で児童は「措置解除」という扱いとなり,施設を退所しなければならない。しかし,その後の公的支援は十分でなく,こうした退所児童への心理面と生活面の支援(以下,アフターケアと認識する)については,民間のNPO法人などに頼らざるを得ないというのが現状である。筆者は施設職員と共に退所児童の支援も長く続けているが,2012年度より「私的支援」の位置づけとしか言えない現支援を越えた枠組みを確立する目的で,恵泉女学園大学内の研究助成金を得て取り組み始めた。そこで明らかになってきた本テーマにおける課題について検討する。実施したことは以下のとおりである。
① 「18歳での独り立ちに対する認識の把握―aアンケート法とb.個別インタビュー」
② 退所時のアセスメントの取り組み
③ 個別に仮説を立てての支援の方針の立案
④ 個別の心理面接の実施
⑤ 生活支援の取り組みの実施と検討
⑥ 当該者各自の振り返りの把握
本稿では,①aと②を中心に報告する。
【本課題における「アフターケア」の仮説】
① 退所者(以下,退所した児童を退所者という表現で統一する)へのアフターケアでは,退所直後には量的な多さが必要である。
② 「独り立ち」への支援の認識では,経済支援,生活・社会的スキルへの支援の要望も高いが,心理的側面への期待は継続的に高い。
【方 法】
以上を元に,高校を卒業したくらいの時期の『一人暮らし』に『必要なこと』『危機』を女子大生に予備調査を行った。(N=23)その中で多く挙げられたものは,前者は①生活スキル②金銭管理③体調管理。後者では①不安,孤独感,寂しさ②人づき合いなどであった。その結果から「独り立ち」をめぐる調査項目を作成した。退所する児童にはこの調査の実施を開始した1年後にも行った。また退所する児童(N=5)へのアセスメントを退所時に筆者が行った。そのアセスメント項目には,この結果を採用した。ここにおいて,仮説である「退所直後の量的に多くするアフターケアの方法は有効であること」が支持される結果が見られている。
さらに「独り立ち」の認識について「青年の自立に関する意識調査」(多肢選択法と自由記述)として調査を行った。(調査(2), N=70,平均年齢18.9歳)自由記述については,テキストマイニングRにて分析を行った。
【結 果】
(1) 退所に際し,当該者の「独り立ち」には,当該者の家族の問題を切り離すことができないということが改めて明らかになった。
(2) 「青年の自立に関する意識調査」では,一人暮らし・寮生活の経験者は,15%程度であり,想像しての回答であることが前提となった。『一人暮らしに必要な能力』では,多い順に“金銭管理” “危機管理意識”“地域生活のルール”“相談できる人がいること”である。
退所者は,“金銭管理”“料理・洗濯などの生活スキル”を挙げていた。
(3) 同アンケート『気持ちの面で困った時の対処法』では,多い順に“友達に相談する”“親に話す”が群を抜いて高い回答であった。退所者は,“友達に相談する”“一人で考え込んでしまいそう”“施設職員に相談する”といった回答であった。
【考 察】
施設出身者も非施設出身者も,『一人暮らし』『独り立ち』には高い不安や寂寥感を持っていること,心理的な面への危機感,生活面・距離の近い他者との交友の仕方のスキル・相談者の必要性を認識しており,心理面での支援を必要としていることが分かった。中でも非施設出身者は,友人と親への相談が圧倒的に多い。が,施設出身者は親への相談は求めにくいことがあり,その上相談者を得られないとその問題を放棄してしまう現状がある。また,非施設出身者が危機管理や地域・近隣との関係に着眼できているのに比して,施設出身者にはその視点が少ない。対人スキルも重要と考えられる。そして当該者個人の心理面での支えの中に,対他者との関係で“予測”がある程度できるようになることを含む必要があることも示唆された。
本研究は,児童福祉施設である児童養護施設の入所児童(~18歳まで)が,児童福祉法に基づいて18歳で退所した後の支援の不足の課題に着眼し,その対応策をパイロット的に実践していることについて検討し,報告するものである。
わが国においては,重大な社会問題の一つとされる「児童虐待」の被害児童への支援の実践を行う公的機関の一つの児童養護施設(以下,施設と略記)では,18歳で児童は「措置解除」という扱いとなり,施設を退所しなければならない。しかし,その後の公的支援は十分でなく,こうした退所児童への心理面と生活面の支援(以下,アフターケアと認識する)については,民間のNPO法人などに頼らざるを得ないというのが現状である。筆者は施設職員と共に退所児童の支援も長く続けているが,2012年度より「私的支援」の位置づけとしか言えない現支援を越えた枠組みを確立する目的で,恵泉女学園大学内の研究助成金を得て取り組み始めた。そこで明らかになってきた本テーマにおける課題について検討する。実施したことは以下のとおりである。
① 「18歳での独り立ちに対する認識の把握―aアンケート法とb.個別インタビュー」
② 退所時のアセスメントの取り組み
③ 個別に仮説を立てての支援の方針の立案
④ 個別の心理面接の実施
⑤ 生活支援の取り組みの実施と検討
⑥ 当該者各自の振り返りの把握
本稿では,①aと②を中心に報告する。
【本課題における「アフターケア」の仮説】
① 退所者(以下,退所した児童を退所者という表現で統一する)へのアフターケアでは,退所直後には量的な多さが必要である。
② 「独り立ち」への支援の認識では,経済支援,生活・社会的スキルへの支援の要望も高いが,心理的側面への期待は継続的に高い。
【方 法】
以上を元に,高校を卒業したくらいの時期の『一人暮らし』に『必要なこと』『危機』を女子大生に予備調査を行った。(N=23)その中で多く挙げられたものは,前者は①生活スキル②金銭管理③体調管理。後者では①不安,孤独感,寂しさ②人づき合いなどであった。その結果から「独り立ち」をめぐる調査項目を作成した。退所する児童にはこの調査の実施を開始した1年後にも行った。また退所する児童(N=5)へのアセスメントを退所時に筆者が行った。そのアセスメント項目には,この結果を採用した。ここにおいて,仮説である「退所直後の量的に多くするアフターケアの方法は有効であること」が支持される結果が見られている。
さらに「独り立ち」の認識について「青年の自立に関する意識調査」(多肢選択法と自由記述)として調査を行った。(調査(2), N=70,平均年齢18.9歳)自由記述については,テキストマイニングRにて分析を行った。
【結 果】
(1) 退所に際し,当該者の「独り立ち」には,当該者の家族の問題を切り離すことができないということが改めて明らかになった。
(2) 「青年の自立に関する意識調査」では,一人暮らし・寮生活の経験者は,15%程度であり,想像しての回答であることが前提となった。『一人暮らしに必要な能力』では,多い順に“金銭管理” “危機管理意識”“地域生活のルール”“相談できる人がいること”である。
退所者は,“金銭管理”“料理・洗濯などの生活スキル”を挙げていた。
(3) 同アンケート『気持ちの面で困った時の対処法』では,多い順に“友達に相談する”“親に話す”が群を抜いて高い回答であった。退所者は,“友達に相談する”“一人で考え込んでしまいそう”“施設職員に相談する”といった回答であった。
【考 察】
施設出身者も非施設出身者も,『一人暮らし』『独り立ち』には高い不安や寂寥感を持っていること,心理的な面への危機感,生活面・距離の近い他者との交友の仕方のスキル・相談者の必要性を認識しており,心理面での支援を必要としていることが分かった。中でも非施設出身者は,友人と親への相談が圧倒的に多い。が,施設出身者は親への相談は求めにくいことがあり,その上相談者を得られないとその問題を放棄してしまう現状がある。また,非施設出身者が危機管理や地域・近隣との関係に着眼できているのに比して,施設出身者にはその視点が少ない。対人スキルも重要と考えられる。そして当該者個人の心理面での支えの中に,対他者との関係で“予測”がある程度できるようになることを含む必要があることも示唆された。