[PG077] 質的研究における思考過程の可視化と時間・空間的な地図化の試み
エコー・スマートペンを活用した質的データ収集実践
キーワード:エコー・スマートペン, 質的データ収集, 可視化
【問題の所在】
質的研究方法においては質の高さという意味での「分厚い記述」(佐藤,2008)が求められる。その際どのように対象者の意味世界を映し出していくかが重要となる。したがって対象者の意味世界を場の臨場感や思考過程の可視化という形でどのようにして描き出していくのかが質的データ収集方法における重要な課題となってくる。そこで本研究では,音声と文字・描画を同期させて保存し共有することが可能なエコー・スマートペン(以下,ペンと略記)を質的研究データ収集方法として活用することで,どのように対象者の意味世界に迫ることができるのか,質的データ収集実践事例をもとに明らかにすることを目的とする。
【方 法】
平成23年2月から平成27年2月までの4年間に渡って実施された以下4つの質的データ収集実践(倫理委員会承認)を本研究の分析対象とした。
1.1対1のインタビュー調査
2.フォーカスグループ・インタビュー調査
3.記録メモの共有とふり返り過程の分析
4. ノートテイキング時の発話分析
1および2のインタビュー調査は,深層的・半構造的・自由回答的調査面接によってインタビューを行う際にペンを活用して実施したものを分析対象とした。また,3のメモの共有とふり返りでは,対象者全員が約15分間のセミナーを受講する際にそれぞれペンを使用して音声と文字・描画によるメモを記述し,そのメモをweb上で参加者同士共有した上で,web上でそれぞれにコメントを書き込む実践である。4のノートテイキング時の発話分析では,指導者がペンを用いてノートに練習結果のふり返りと次の指導内容の説明を発話と共に記述し,PDF化してweb上で学習者と共有する実践である(図1参照)。
【結果および考察】
インタビュー調査でのペン活用事例においては,発話者の位置と発話内容を同期させる形で記録することが可能となる点で,インタビュー場面の空間的な地図化がなされている。また,複数の対象者の発話順や相互作用の記録がなされることにより,インタビュー場面の時間的な地図化がなされている。
記録メモの共有とふり返り過程でのペンの活用事例においては,同じ情報を共有した他者がどのタイミングで何をどのように記録したのかを共有することで,他者の考える過程を描かれたメモの中に見出すことが可能となっている。Web上に書かれたコメントの中の「こういう図にまとめるとわかりやすい」「ここで先の展開を予測しながらメモをとっている」といった記述からも他者の聞きながら考えて書く過程が可視化され,共有することにより,自身の認知をメタ的にふり返るきっかけとなり,メタ認知的なデータ収集につながっている点が推察される。
ノートテイキング時の発話でのペンの活用事例においては,考えながら書くあるいは書きながら考える過程が音声と文字や描画によって記録されることにより,自らの思考を語りながら表出する過程が記録されている点が示された(図2参照)。
【結 語】
エコー・スマートペンを質的データ収集に活用することにより,調査の場の時間的な地図化,空間的な地図化,メタ認知的データの契機(刺激再生法的役割),思考過程の表出化といった点で,対象者の意味世界の可視化に有効である点が示唆された。
【参考文献】
北村勝朗ほか(2012)高校生の学習活動におけるICレコーダー内蔵デジタルペン(SMARTPEN)の活用取組みとその効果に関する質的分析,日本教育工学会第28回大会発表抄録,355.
佐藤郁也(2008)質的データ分析法.新曜社
質的研究方法においては質の高さという意味での「分厚い記述」(佐藤,2008)が求められる。その際どのように対象者の意味世界を映し出していくかが重要となる。したがって対象者の意味世界を場の臨場感や思考過程の可視化という形でどのようにして描き出していくのかが質的データ収集方法における重要な課題となってくる。そこで本研究では,音声と文字・描画を同期させて保存し共有することが可能なエコー・スマートペン(以下,ペンと略記)を質的研究データ収集方法として活用することで,どのように対象者の意味世界に迫ることができるのか,質的データ収集実践事例をもとに明らかにすることを目的とする。
【方 法】
平成23年2月から平成27年2月までの4年間に渡って実施された以下4つの質的データ収集実践(倫理委員会承認)を本研究の分析対象とした。
1.1対1のインタビュー調査
2.フォーカスグループ・インタビュー調査
3.記録メモの共有とふり返り過程の分析
4. ノートテイキング時の発話分析
1および2のインタビュー調査は,深層的・半構造的・自由回答的調査面接によってインタビューを行う際にペンを活用して実施したものを分析対象とした。また,3のメモの共有とふり返りでは,対象者全員が約15分間のセミナーを受講する際にそれぞれペンを使用して音声と文字・描画によるメモを記述し,そのメモをweb上で参加者同士共有した上で,web上でそれぞれにコメントを書き込む実践である。4のノートテイキング時の発話分析では,指導者がペンを用いてノートに練習結果のふり返りと次の指導内容の説明を発話と共に記述し,PDF化してweb上で学習者と共有する実践である(図1参照)。
【結果および考察】
インタビュー調査でのペン活用事例においては,発話者の位置と発話内容を同期させる形で記録することが可能となる点で,インタビュー場面の空間的な地図化がなされている。また,複数の対象者の発話順や相互作用の記録がなされることにより,インタビュー場面の時間的な地図化がなされている。
記録メモの共有とふり返り過程でのペンの活用事例においては,同じ情報を共有した他者がどのタイミングで何をどのように記録したのかを共有することで,他者の考える過程を描かれたメモの中に見出すことが可能となっている。Web上に書かれたコメントの中の「こういう図にまとめるとわかりやすい」「ここで先の展開を予測しながらメモをとっている」といった記述からも他者の聞きながら考えて書く過程が可視化され,共有することにより,自身の認知をメタ的にふり返るきっかけとなり,メタ認知的なデータ収集につながっている点が推察される。
ノートテイキング時の発話でのペンの活用事例においては,考えながら書くあるいは書きながら考える過程が音声と文字や描画によって記録されることにより,自らの思考を語りながら表出する過程が記録されている点が示された(図2参照)。
【結 語】
エコー・スマートペンを質的データ収集に活用することにより,調査の場の時間的な地図化,空間的な地図化,メタ認知的データの契機(刺激再生法的役割),思考過程の表出化といった点で,対象者の意味世界の可視化に有効である点が示唆された。
【参考文献】
北村勝朗ほか(2012)高校生の学習活動におけるICレコーダー内蔵デジタルペン(SMARTPEN)の活用取組みとその効果に関する質的分析,日本教育工学会第28回大会発表抄録,355.
佐藤郁也(2008)質的データ分析法.新曜社