日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PH

2015年8月28日(金) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PH006] 小学校教員のユーモア度と児童のスクール・モラールとの関連

河村昭博1, 河村茂雄2 (1.早稲田大学大学院, 2.早稲田大学)

キーワード:ユーモア, スクール・モラール, 小学生

【問題と目的】
現在の教育現場で表出するさまざまな問題に対処するため,文部科学省(2008)は教員のコミュニケーション能力のさらなる向上の必要性を指摘している。学級集団づくりを含めた学級経営,授業の展開,児童への対応などの教員の指導行動の問題が中心であり,何を行ったのかという内容だけではなく,どのようになされたのかという質の問題をも含んでいると考えられる。例えば,河村・田上(1997)は教員の勢力資源をもとに,児童が教員の指導行動に「罰・強制性」の勢力資源を感じてやらされている状況よりも,「親近・受容性」や「準拠性」,「熟練度」の勢力資源を感じて自ら取り組んでいる状況の方が,スクール・モラールが高くなると指摘している。同じ内容の指導行動をしても,児童が相手の教員に抱く勢力資源の種類によって,そのメッセージは異なるのである。
Cornett(1986)はユーモアを教員のもっとも強力な教育資源であるとし,難読を矯正したり,行動的な問題を抑制したりと,様々な目的に使用することができるとし,瀧野(1995)は小学生ではやさしくてユーモアがあり一緒に遊んでくれる親和的な教員が好まれると指摘している。児童にとって教員の表出するユーモアと指導行動には関連があることが想定される。他にも教室内で使用されるユーモアの全般的な効果として,緊張やストレス,不安,退屈の低減,児童-教員関係の向上,学習に対する楽しさやポジティブ感情の生起,教育的なメッセージへの関心,注意を向けることの喚起,理解や記憶力の向上やテスト事前不安の除去,創造性の促進などが挙げられる(e.g., Berk&Nanda, 1998,2006)。つまり,教員の指導行動の中にユーモアを適切に取り入れることは,教育実践の向上につながる可能性が推測できる。本研究は,教員の指導行動を行使する中でのユーモアの活用度と児童のスクール・モラールとの関連を検討することを目的とした。
【方 法】
調査時期 2013年6月に調査を実施した。
調査対象 首都圏の公立小学校3校1095名(男子551,女子554名)を調査の対象とした。
測定用具:小学校へ2種類の質問紙による調査を行った。種類は以下の通りである。
A:教員のユーモア行動測定尺度
児童が教員の表出するユーモアをどのように認知しているかを測定するための尺度(河村・武蔵・河村,2015)である。教員のユーモアを「楽しさ喚起ユーモア」「皮肉・風刺ユーモア」「元気づけユーモア」の3つの因子で測定するもので,評定は「1:まったくない」から「5:よくある」までの5件法である。
B:「学校生活意欲尺度」
児童生徒のスクール・モラールは河村(1998)の「学校生活意欲尺度」(School Morale Scale:以下SMSと記す)を用いた。測定する領域は,友人との関係,学習意欲,学級との関係の3領域で,それぞれの下位尺度は4件法(4:とてもあてはまる~1:全くあてはまらない)であり,各下位尺度の加算平均によって得点化される。
【結果と考察】
教員のユーモア行動測定尺度をもとに,児童生徒が認知する教員のユーモア行動を3因子ごとに集計し,各平均値と標準偏差をもとに高い群から低い群へとH, M, L群の3群に分類した。そして3群ごとの児童生徒のSMSの友人との関係,学習意欲,学級との関係の各得点を集計し,3群間で分散分析を行い,有意差が認められた場合はTukey法による多重比較を行った。その結果,教員の「楽しさ喚起ユーモア」と「元気づけユーモア」を高く認知しているほど,SMSの友人との関係,学習意欲,学級との関係の各得点に,ほぼプラスの関連があることが認められた。よって,教員が指導行動に「楽しさ喚起ユーモア」と「元気づけユーモア」を取り入れることで,児童生徒のスクール・モラールを高める可能性が示唆された。
キーワード:ユーモア,スクール・モラール,小学生