[PH014] 高校生の英語の学習観と学習方略,学業成績との関連
学習観と学習方略の階層性に着目して
Keywords:学習観, 学習方略, 英語学習
問題と目的
学習観とは,学習者が学習に対してもつ信念を指し(植木,2002),近年は特定教科の枠組みで学習方略等の他要因との関連を検討する重要性が指摘されている。
英語の学習観を扱った研究では,どの教科にも共通する「学習量重視か方略重視か環境重視か」などの考え方を測定したもの(山口,2012)と,英語に独自の「訳読重視か話すこと重視か」などの考え方を測定したもの(中山,2005)があるが,これらの学習観を同時に扱い,方略使用や学業成績との関連を検討した研究は見当たらない。実際には,どの教科にも共通する考え方が教科独自の考え方に影響を与え,使用する方略や成績が変化することが仮定される(Figure 1)。学習方略においても,記憶処理に直接的に関わる方略と,その方略を支える計画や相互学習などの間接的な方略があることが示されている(Oxford,1990)。本研究では,英語科の枠組みで,学習観と学習方略の階層性に注目し,成績を含めてこれらの関連を検討した。
方 法
調査協力者 大阪府の公立高校に在籍する生徒733名(うち有効回答数は723名)を対象とした。
①英語学習観尺度 中山(2005)や山口(2012)などを参考に作成した。7件法。「学習量志向」「方略志向」「伝統志向」「活用志向」からなる。
②英語学習方略尺度 堀野・市川(1997)や中山(2005),Oxford(1990)などを参考に作成した。7件法。「メタ認知的方略」「社会的方略」「体制化方略」「イメージ化方略」「反復方略」「音韻方略」からなる。
③学業成績 英語科の前期成績が10段階のどの得点領域にあてはまるか評定を求めた。
結果と考察
欠損値の処理 探索的因子分析では完全情報最尤法,構造方程式モデルでは多重代入法を用いた。
パス解析の結果 学習観と学習方略,学業成績との関連を検討するために,パス解析を行なった(Table 1)。学習観から学習方略と成績,学習方略から成績へのパスを仮定した。学習観において教科共通の学習観から教科独自の学習観,学習方略において間接的方略から直接的方略のパスを仮定したモデルを組み,許容できる適合度が得られた。教科共通の学習観から教科独自の学習観と間接的方略に正のパス,教科独自の学習観から直接的方略の多くに正のパスがみられた。間接的方略からは直接的方略に全て正のパスがみられた。学業成績には,イメージ化方略と音韻方略から正のパスがみられた。また,活用志向と伝統志向からそれぞれ正と負のパスもみられた。
考察 本研究では,学習観と学習方略の階層性に着目し分析を行なうことで,以下のことが明らかになった。第一に,学習方略において,間接的方略が直接的方略の使用を促進し,直接的方略であるイメージ化方略と音韻方略が学業成績を規定することである。第二に,教科共通の学習観は間接的方略の使用を促進し,教科独自の学習観は直接的方略の使用を促進することである。第三に,学業成績へは,教科独自の学習観である活用志向と伝統志向からそれぞれ正負のパスがみられたことである。
従来の研究では,有効な方略の使用を促進する方略志向の重要性が示唆されてきた。本研究で得られた結果から,英語科において有効な方略使用の促進と学業成績向上のためには,方略志向のみではなく,英語科という枠組みに独自の学習観を育む必要があることが示唆された。
学習観とは,学習者が学習に対してもつ信念を指し(植木,2002),近年は特定教科の枠組みで学習方略等の他要因との関連を検討する重要性が指摘されている。
英語の学習観を扱った研究では,どの教科にも共通する「学習量重視か方略重視か環境重視か」などの考え方を測定したもの(山口,2012)と,英語に独自の「訳読重視か話すこと重視か」などの考え方を測定したもの(中山,2005)があるが,これらの学習観を同時に扱い,方略使用や学業成績との関連を検討した研究は見当たらない。実際には,どの教科にも共通する考え方が教科独自の考え方に影響を与え,使用する方略や成績が変化することが仮定される(Figure 1)。学習方略においても,記憶処理に直接的に関わる方略と,その方略を支える計画や相互学習などの間接的な方略があることが示されている(Oxford,1990)。本研究では,英語科の枠組みで,学習観と学習方略の階層性に注目し,成績を含めてこれらの関連を検討した。
方 法
調査協力者 大阪府の公立高校に在籍する生徒733名(うち有効回答数は723名)を対象とした。
①英語学習観尺度 中山(2005)や山口(2012)などを参考に作成した。7件法。「学習量志向」「方略志向」「伝統志向」「活用志向」からなる。
②英語学習方略尺度 堀野・市川(1997)や中山(2005),Oxford(1990)などを参考に作成した。7件法。「メタ認知的方略」「社会的方略」「体制化方略」「イメージ化方略」「反復方略」「音韻方略」からなる。
③学業成績 英語科の前期成績が10段階のどの得点領域にあてはまるか評定を求めた。
結果と考察
欠損値の処理 探索的因子分析では完全情報最尤法,構造方程式モデルでは多重代入法を用いた。
パス解析の結果 学習観と学習方略,学業成績との関連を検討するために,パス解析を行なった(Table 1)。学習観から学習方略と成績,学習方略から成績へのパスを仮定した。学習観において教科共通の学習観から教科独自の学習観,学習方略において間接的方略から直接的方略のパスを仮定したモデルを組み,許容できる適合度が得られた。教科共通の学習観から教科独自の学習観と間接的方略に正のパス,教科独自の学習観から直接的方略の多くに正のパスがみられた。間接的方略からは直接的方略に全て正のパスがみられた。学業成績には,イメージ化方略と音韻方略から正のパスがみられた。また,活用志向と伝統志向からそれぞれ正と負のパスもみられた。
考察 本研究では,学習観と学習方略の階層性に着目し分析を行なうことで,以下のことが明らかになった。第一に,学習方略において,間接的方略が直接的方略の使用を促進し,直接的方略であるイメージ化方略と音韻方略が学業成績を規定することである。第二に,教科共通の学習観は間接的方略の使用を促進し,教科独自の学習観は直接的方略の使用を促進することである。第三に,学業成績へは,教科独自の学習観である活用志向と伝統志向からそれぞれ正負のパスがみられたことである。
従来の研究では,有効な方略の使用を促進する方略志向の重要性が示唆されてきた。本研究で得られた結果から,英語科において有効な方略使用の促進と学業成績向上のためには,方略志向のみではなく,英語科という枠組みに独自の学習観を育む必要があることが示唆された。