The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PH

Fri. Aug 28, 2015 1:30 PM - 3:30 PM メインホールA (2階)

[PH020] 発達の多様性を支えようとする教師のありようとその変容可能性

運動会をめぐる一斉と個のジレンマから

東海林麗香 (山梨大学大学院)

Keywords:発達の多様性, 運動会, ナラティヴ

問題
【一斉指導】と【個に応じた指導】とのジレンマに悩む教員の声は聞かれるものの,例えば一斉指導の文脈に乗り切れない子どもを「小1プロブレム」と位置づけるように,一斉指導を前提とした議論が未だ中心である。しかしながら学校には様々な背景をもつ子どもが一同に会しており,「みんなで/同じように」という前提が問い直されつつある。
本発表では,発表者の過去のフィールドワークにおける違和感体験から【学校行事をめぐる教師の「一斉」「個」に関するジレンマ】に焦点を当てる。学校行事の目標は学習指導要領によって定められているものの,その内容/方法は各学校の裁量に任されている。つまり他のやり方の実現可能性が全くないわけではないため,個人内および成員間のジレンマや葛藤を引き起こす可能性が高く,また,学校行事の教育的意義やその歴史的変遷について検討されているが,運営主体である教師の抱えるジレンマや成員間の葛藤についての研究は見あたらないことからも,検討の価値がある課題と考える。
行事の中でも特に,本発表では運動会を議論の素材とするが,それは,運動会は9割以上の小学校で行われ,実施率に地域差が少ない行事であり多くの人にとってイメージしやすい事柄であり(ベネッセ教育総合研究所,2007),また,プログラムによって手段の規模は様々であるものの全員参加が基本であり, 【一斉指導】と【個に応じた指導】とのジレンマが顕現化しやすい機会であると考えたためである。
これらの問題意識から,小学校教師が【一斉】【個】のジレンマをどのように体験してきたのか,個人間の共通点/差異を整理・モデル化することが本発表の第一の目的である。本発表ではナラティヴ・インクワイリー(Narrative inquiry: Clandinin& Connelly, 2000)の立場から,各々の豊かな教育経験をライフストーリーに位置づけて聞き取る。このアプローチでは,教師を匿名の職業人としてではなく,様々な思い/経験をもつ個人として捉え,彼らの人生についての語りの中に個人的実践知を見出そうとする。個人的実践知は一見些末で個人的なものに見えるものであるが,同じような立場にある者にとっては,より具体的で力強い知になりうるものである。二つ目に,学校行事が文化的実践としてどのように維持されているのか,学校が発達の多様性を支える環境として機能するためにはどんな変化が必要なのかについて検討することを目的とする。
方法
関東圏に勤める小中学校教師5名(30代2名,40代2名,50代1名)を対象にインタビューを行った。小学校における課題や組織運営の特性も検討事項に入れるために,中学校教師2名(30代および50代各1名)も対象とした。調査は現在も進行中である。インタビューでは,「個人としての思いも含め,先生が大切にしていることや,できればそれにまつわる葛藤を聞きたい」「大学の教員という意味では同じく学校教育に関わっているけれど,行事については驚いたり不思議だなと思うことがあったので,そのあたりから話を伺いたい」といった始め方をした。
結果と考察
学校において運動会はどう位置づけられているか,語りを整理すると,学年や全校といった大きな規模で練習等を行うことで,どのような学級経営が行われているのかが学級外に明らかになり,保護者や地域住民に公開する行事であるために,どのような学校経営を行っているかも学外に明らかになる。運動会はこのような公開性から,多くの小学校教師にとって「学級・学校経営の成果を求められる」活動として位置づけざるを得なくなる。自身や周囲のドミナント・ストーリーに気づいたり,オルタナティヴ・ストーリーを持つに至ったりした経験は語られるものの,「自分は小数派である」「全体でできないから提案してもしょうがない」などと自身の考えを他者と交流させる経験はあまり持たれない。公教育では,「特別扱いをしないこと」が重要視される。この考えは,学級内にとどまらず,学年や「以前,この学年(学校)にいた子どもたち」にまで広がり,教師間で足並みを揃える方向に彼らを向かわせる可能性があり,結果的に変革の足かせになりかねない。インタビュー協力者が本研究課題そのものについてどのように考えるかについても対話しており,この点も含め,発達の多様性を支えようとする教師のありようとその変容可能性について検討する。(この研究は山梨大学平成26年度戦略・公募プロジェクトの助成を受けて行いました。)