[PH022] 大学間の「つながり格差」と 学生の主観的ウェルビーイングのマルチレベル分析
ソーシャル・キャピタル論から
Keywords:ソーシャル・キャピタル, 主観的ウェルビーイング, 大学生
【問題と目的】
近年,教育現場における「つながり格差」が問題視され,学校におけるソーシャル・キャピタル(社会関係資本;Social Capital; SC)の向上が求められている(志水,2014)。SCとは,人と人との間で形成される信頼,支え合い,ネットワークに代表される社会関係や構造の特徴の一部を,個人によって蓄積し,利用することのできる資源と考え,それを経済活動における資本に例えた概念である。また,ある1つの学校に所属する学生は皆同じ量のSCが蓄積された環境下にあると考えられるが,学生間でSCの認知の程度には個人差があり,これを認知されたSCと呼ぶ。
一般住民を対象とした先行研究において,SCや認知されたSCは,抑うつや満足感を予測することが示唆されている。つまり,信頼や支え合い(つながり)がある環境下にいる,または信頼や支え合いがあると感じている個人は,主観的ウェルビーイング(主観的WB)を感じやすいと考えられる。一方で,大学のSCと主観的WBの関連については検討されていない。芳賀・高野・坂本(2012)は,大学生活において学生に認知されたSCは,仲間,クラス,教員の3つに分かれ,抑うつや満足感と関連することを報告している。そのため,SCもまた,類似した性質をもつと予測される。
本研究では,上記について確認することを目的として,マルチレベル因子分析とマルチレベル相関分析を用いた検討を行うこととした。
【方 法】
2012年9月から翌年1月まで行われた調査に参加した大学38校の学生2021名(男性617名,女性1404名)を対象に調査を行った。調査材料は次の通りであった。(a)人口統計データ:性別・学年 (b) SC / 認知されたSC:PSCS-U(芳賀他,2012)33項目,5段階評定 (c)抑うつ:K6(Kessler, et al. (2002 古川他訳 2002)) 6項目5段階評定α=.87 (d)大学満足感:Benesse (2008)を参考に作成した。7項目5段階評定α=.87(e)人生満足感: Satisfaction With Life Scale(Diener et al. (1985 大石訳 2009)) 5項目7段階評定α=.86統計解析はMplusver 6.11(Muthen et al., 2012)を用いた。
【結 果】
まず,SCと認知されたSCの因子構造を確認するためにマルチレベル因子分析を行った。その結果,SCと認知されたSCが,共に仲間,クラス,教員に分かれるとするモデルの適合度はχ2=558.69,RMSEA=0.00,CFI=1.00,TLI=1.01,SRMR(大学レベル)=0.04,SRMR(学生レベル)=0.00であり,良好であると考えられた。
次に,測定段階における各変数の記述統計量のほか,各変数間の関連について把握するために,マルチレベル相関分析を行った結果,Table 1のようになった。SCの級内相関係数はすべて統計的に有意であった。
【考 察】
結果から,大学生活におけるSCは,仲間,クラス,教員の3つから構成され,大学間に差があること,また,それらは主観的WBと関連することが分かった。以上の知見は,仲間,クラス,教員との「つながり格差」が大学間にあること,仲間,クラス,教員のSCは主観的WBと関連があることを示唆している。
近年,教育現場における「つながり格差」が問題視され,学校におけるソーシャル・キャピタル(社会関係資本;Social Capital; SC)の向上が求められている(志水,2014)。SCとは,人と人との間で形成される信頼,支え合い,ネットワークに代表される社会関係や構造の特徴の一部を,個人によって蓄積し,利用することのできる資源と考え,それを経済活動における資本に例えた概念である。また,ある1つの学校に所属する学生は皆同じ量のSCが蓄積された環境下にあると考えられるが,学生間でSCの認知の程度には個人差があり,これを認知されたSCと呼ぶ。
一般住民を対象とした先行研究において,SCや認知されたSCは,抑うつや満足感を予測することが示唆されている。つまり,信頼や支え合い(つながり)がある環境下にいる,または信頼や支え合いがあると感じている個人は,主観的ウェルビーイング(主観的WB)を感じやすいと考えられる。一方で,大学のSCと主観的WBの関連については検討されていない。芳賀・高野・坂本(2012)は,大学生活において学生に認知されたSCは,仲間,クラス,教員の3つに分かれ,抑うつや満足感と関連することを報告している。そのため,SCもまた,類似した性質をもつと予測される。
本研究では,上記について確認することを目的として,マルチレベル因子分析とマルチレベル相関分析を用いた検討を行うこととした。
【方 法】
2012年9月から翌年1月まで行われた調査に参加した大学38校の学生2021名(男性617名,女性1404名)を対象に調査を行った。調査材料は次の通りであった。(a)人口統計データ:性別・学年 (b) SC / 認知されたSC:PSCS-U(芳賀他,2012)33項目,5段階評定 (c)抑うつ:K6(Kessler, et al. (2002 古川他訳 2002)) 6項目5段階評定α=.87 (d)大学満足感:Benesse (2008)を参考に作成した。7項目5段階評定α=.87(e)人生満足感: Satisfaction With Life Scale(Diener et al. (1985 大石訳 2009)) 5項目7段階評定α=.86統計解析はMplusver 6.11(Muthen et al., 2012)を用いた。
【結 果】
まず,SCと認知されたSCの因子構造を確認するためにマルチレベル因子分析を行った。その結果,SCと認知されたSCが,共に仲間,クラス,教員に分かれるとするモデルの適合度はχ2=558.69,RMSEA=0.00,CFI=1.00,TLI=1.01,SRMR(大学レベル)=0.04,SRMR(学生レベル)=0.00であり,良好であると考えられた。
次に,測定段階における各変数の記述統計量のほか,各変数間の関連について把握するために,マルチレベル相関分析を行った結果,Table 1のようになった。SCの級内相関係数はすべて統計的に有意であった。
【考 察】
結果から,大学生活におけるSCは,仲間,クラス,教員の3つから構成され,大学間に差があること,また,それらは主観的WBと関連することが分かった。以上の知見は,仲間,クラス,教員との「つながり格差」が大学間にあること,仲間,クラス,教員のSCは主観的WBと関連があることを示唆している。