日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PH

2015年8月28日(金) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PH025] レジリエンスと運動習慣

教育心理学的応用について

池田行伸, 菅谷柾博# (国学院大学)

キーワード:レジリエンス, 精神的回復, 運動

近年,苦難を乗り越える力といわれるレジリエンスが注目を浴びている。災害などからの立ち直りに必要なものだと考えられているが,その本質についてはまだよく分かっていない。レジリエンスは遺伝によって規定される気質と環境によって形成される性格の両方を含むと考えられている(平野,2010)。そうであればレジリエンスを後天的に強めることも可能かもしれない。スポーツに傾倒している学生を対象にした研究では,心身に不調を伴う活動に自発的に向かう傾向と心理的幸福感とが一致することが示されている(羽島,2008)。これらのことから,習慣的に運動を行う人はレジシエンスが高いのではないかと推測される。本研究は質問紙を用いてこのことを明らかにしようとした。
方 法
調査対象者
神奈川県内の大学の学生197名。内訳は男子69名,女子128名。
質問紙
小塩ら(2002)が作成した精神的回復力尺度をレジリエンスの指標として用いた。この尺度に運動習慣の有無,運動に対する認識を尋ねる4項目を付け加えた質問紙を用いた。
結 果
精神的回復力尺度の25項目に対し5件法で回答させた。はい(5点)からいいえ(1点)までを点数化し,精神的回復力得点を算出した。この得点を運動習慣の有無等によって分類し検討した。
男性(69名)の精神力回復力得点83.0と女性(128名)の82.3の間に統計的な有意差は見られなかった(t=0.35,df=195)。過去に週3日以上定期的に運動していたと回答した者(161名)の得点85.6は,運動していなかったと回答した者(36名)の得点78.0より有意に高かった(t=2.6, df=195, p<0.01)。スポーツ等で体を動かすのが好きだと回答した者(143名)の得点85.0は,好きだと回答しなかった者(27名)の得点74.5より有意に高かった(t=4.5, df=195, p<0.01)。どちらかと言えばゲームや読書で時間を過ごすのが好きだと回答した者(72名)の得点79.7は,好きだと回答しなかった者(75名)の得点84.3より有意に低かった(t=2.3, df=145, p<0.05)。受験等大きな失敗のあと長く落ち込むことがあったと回答した者(71名)の得点82.1と,落ち込むことがあったと回答しなかった者(88名)の得点83.5の間に統計的に有意な差は得られなかった(t=0.7, df=157)。
考 察
精神的回復力得点に性差は見られず,過去に運動経験があった者,スポーツ等で体を動かすのが好きな者の得点が有意に高かった。さらにゲームや読書で過ごすのが好きな人の精神的回復力得点が低かった。これらのことは運動を志向する人がそうでない人より精神的回復力が高い,つまりレジリエンスが高いという仮説を支持しているように思える。受験等の失敗による長い落ち込みがあった人となかった人との間の精神的回復力に差がなかったのは,大学生の受験等での失敗が負の人生経験と呼べるようなものではないのではないかと考えられた。スポーツを人格形成に生かす方法を考える必要がある。
引用文献
羽島健司(2008)自己陶冶志向性尺度作成の試み:レジリエンス,心理的well-beingとの関連から 東京成徳大学臨床心理学研究,8,91-97.
平野真理(2010)中高生における二次元レジリエンス要因尺度(RBS)の妥当性-双生児法による検討 パーソナリティ研究,20,50-52.
小塩伸司・中谷素之・金子一史・長峰伸治(2002)ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性・精神的回復力尺度の作成 カウンセリング研究,35,57-65.