The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PH

Fri. Aug 28, 2015 1:30 PM - 3:30 PM メインホールA (2階)

[PH028] フリーダ・カーロの患者性についての伝記分析

自分を描くということ

今井美智子 (立教大学大学院)

Keywords:伝記分析, 患者性

【目 的】
フリーダ・カーロ(1907-1954)はメキシコの現代絵画を代表する女性画家である。彼女は47年の生涯のうち,200を超える作品を残している。生涯画家として絵を書き続けた彼女だが,18歳の時にあった事故による後遺症に苦しみ続けた身でもあった。事故により瀕死の重傷を負い,亡くなるまでに30数回の手術を受けた。そんな中で残した作品の大半は自画像であるといわれている。
フリーダは絵を描くことや自分を描くことについて,「わたしは夢を描いたことはありません。わたし自身の現実を描いてきた」「私の絵は苦悩という言葉の表現」と語っており,彼女の絵は,自己の表現,自身の苦痛,苦悩の表現であったことがみてとれる。
自分自身の苦悩を表現することについて,エリクソン(1958)は「患者性」という概念を提出した。エリクソンは患者性を“「苦悩を背負っていること」,「癒されたいという強い願い」,「自らの苦悩を表現し記述する情熱」などを含んだ「ライフスタイル」”であると述べている。
そこで本研究では,フリーダの絵を描くこと,自分を描くことについて,伝記や日記,作品にあらわれている表現に注目し,「患者性」の概念を用いて検討をおこなう。
【方 法】
分析対象はフリーダ・カーロ。分析には,彼女の伝記資料を用いる。伝記分析の方法,手順は西平(1983, 1990, 1996, 2004),大野(1996, 1998)に従う。
【結果と考察】
(以下「」は引用,『』は作品名)
1.事故
18歳のとき,恋人と乗っていたバスが路面電車と衝突する事故に巻き込まれる。バスの手すりが彼女の体を貫通し,10数カ所の骨折,瀕死の重傷を負う。一時は誰もが彼女は助からないと思う程ひどい状態であった。「毎晩,死が私の周りをダンスするの」と語る程の死の恐怖にさらされる。一命をとりとめるも,以降この後遺症,苦痛に苦しむこととなる。後遺症により彼女は生涯30数回の外科手術を受けた。そして子どもを産むことを切望し,4回も妊娠するがすべて流産し,それは叶わなかった。
2.絵を描くこと
「気がついたら絵筆をとっていた」。事故後、彼女は病床で絵を描き始める。はじめに描いたのは,事故であえなくなった恋人へ送る自画像であった。その後「生活費を稼ぐために働く」職業として画家になることを決意。当時壁画画家として有名であったディエゴ(後に彼女の夫となる)のもとに絵を見せにいく。「私は働いて生計を立てなきゃならないんです。私の描いた絵をプロの目で見てください」。そこから絵は彼女のライフワークとなる。そして晩年彼女はこう語る。「私は病気ではありません。骨が折れただけ。でも絵筆をとれる限り,生きていることに喜びを感じる」。
3.自分を描くこと
「私が自分を描くのは,それが私の一番良く知っているテーマだからです」。彼女は数回の流産により『フリーダと流産』,夫の浮気に悲しみ『断髪の自画像』,事故の後遺症により背骨で体を支えられなくなり手術を受けた際『折れた背骨』という作品を残している。作品は自画像のような自身がモチーフとなるものが多く,事故の後遺症による苦痛や愛する夫に対する苦悩が至る所にあらわれている。自画像の多い彼女であるが,静物画『生命万歳』が彼女の遺作となった。
彼女が絵を描くこと,自画像を描くことは,単に画家であるからだけでなく,自身の苦悩の表現でもあり,時に苦悩から癒されたい願いをも映し出す。このことから,フリーダ・カーロの絵を描くこと,自分を描くことは,患者性の側面からの解釈ができると考える。