日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PH

2015年8月28日(金) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PH044] 幼児期の情動調整と社会性の発達との関連性

エフォートフルコントロールに着目して

小川和美 (明治学院大学大学院)

キーワード:幼児期, 情動調整, 社会性の発達

問題と目的
本研究の目的は,幼児期のエフォートフルコントロール(EC)と社会性の発達との関連性について調べることであった。ECとは,実行注意(executive attention)の効率を表す概念で,優位な反応を抑制して,非顕在的な反応を活性化する能力(Rothbart & Bates, 2006)であり,情動調整において重要な役割を果たしていると考えられている。幼児期は,衝動性や感情をコントロールする情動調整力を発達させ,社会性を身につける重要な時期である。レジリエンスとは環境に対して柔軟に対応する能力(Block & Block, 1980)であり,ECとの関連があるとされている(Hofer, Eisenberg & Reiser, 2010)。
本研究ではHofer et al.(2010)の青年期を対象に行った調査をモデルに,幼児期のECおよびレジリエンスと社会性との関連性について検討し,幼児期におけるECと社会性との関連性を明らかにすることを目的とする。
方 法
対象:首都圏近郊都市の幼稚園と保育所(3~5歳児クラス)の保育者と養育者に質問紙調査を行った。
調査内容:保育者と養育者に対し,EC尺度18項目。保育者のみに対し子どもの社会的スキル16項目と子どもの問題行動16項目および幼児用レジリエンス尺度17項目。すべて5件法で回答。全回答を得られた139部について分析を行った。対象児の内訳は年少児51名,年中児47名,年長児41名であった。
結 果
EC得点と,社会的スキル得点および問題行動である内在化問題得点と外在化問題得点との関連について,相関分析を行った。ECとレジリエンスを独立変数,社会的スキルと内在化問題,外在化問題を従属変数として,重回帰分析を行った結果,(1)社会的スキルにはECとレジリエンス(F (2,136)=130.29 (p<.01)),(2)内在化問題にはレジリエンス(F (2,135)=33.11(P<.01)),(3)外在化問題にはEC(F (2,136)=60.39 (p<.01))が影響していた。Figure 1に(1)から(3)の結果をまとめた。
考 察
結果から,ECは外在化問題に直接関連しており,ECが高いと外在化問題は低くなることが示された。また,レジリエンスが高いと,社会的スキルは高く内在化問題は低くなるが,レジリエンスと外在化問題には関連性が見られなかった。これらはHofer et al.(2010)の結果と一致しており,Eisenberg et al.(2004)や多くの先行研究とも一致している。
しかし,ECの高さが社会的スキルの高さに直接関連することを示す結果は,Hofer et al.(2010)のモデルとは異なっていた。さらにレジリエンスがECとピアコンピテンスや内在化問題を媒介するとしたモデルは支持されなかった。これらには,幼児期と青年期といった研究対象の差に加え,ECと関連する社会性を表す概念の差(社会的スキルとピアコンピテンス)の影響が考えられ,今後の検討を要することとなった。