[PH045] 大学生の精神的弾力性に影響する発達的要因
児童期中期の精神的弾力性への大人の働きかけとの関連
キーワード:精神的弾力性(レジリエンス), 大学生, 児童期中期
【問題と目的】
苦境な状況におかれたときの精神的弾力性(レジリエンス)が人に備わるためには,早い段階での適切な養育・教育経験が必要と考えられる。本発表では大学生の精神的弾力性の実態を分析し,それに影響する児童期中期の大人からの働きかけというものを想定し,それらの関連性を見る。
【方 法】
関東地方の2大学の学生122名(男子49名,女子73名)に質問紙調査を実施した。調査は授業時間の一部を利用するという方法である。3年次必修授業での実施が多かったので,2年生24名,3年生92名,4年生6名となっている。なお,実施にあたっては,本調査が強制でないことを伝え,了承した学生のみ実施に協力してもらう形をとっている。質問紙は4つの質問から成っていたが,本発表はその中の3つの部分に触れる。
1)現在の精神的弾力性の諸要素の知覚…川原・増渕(2004)において中学生対象に実施した24項目を大学生対象に修正して質問した。評定は4段階である。これらの項目については,Brown et al.(2001)のPORTモデル(Participation〔関与〕; Observation〔観察〕; Reflection〔内省〕; Transformation〔変換〕)を念頭に置いている。
2)現在の精神的弾力性の全体的知覚…「今現在のあなたは,自分に困難なことが起きたり苦境に立たされたりしたときに,それから逃げ回るだけでなく,それに向き合い,それを乗り越えようとすることがどのくらいできていますか」という教示で,10段階で評定してもらった。
3)児童期中期の精神的弾力性への大人からの働きかけ方の回想…「だいたい10歳(小学4年生)のころ,あなたにとって大変なことや良くないことが怒るなどの悪い状況が起きたときに,親や教師などの周りの大人はだいたいどのように働きかけていましたか」という教示で,12項目について4段階で評定してもらった。
【結果と考察】
方法で呈示した1)の基礎統計と因子分析,1)と2),1)と3)との関連について検討する(川原(2015)にて,3)の基礎統計と因子分析ならびに3)と2)との関連は発表済み)。
A)精神的弾力性の諸要素各項目の平均値…平均値の最小は2.58,最大は3.16と4段階評定の理論的中央値2.50を全て超えている。今回の対象者の多くは,それなりにできているという自己知覚を持っていることが分かる。ただし,範囲を調べると,1項目を除いて全て1~4となっており,知覚の低い者も一定割合いることが分かる。
B)精神的弾力性の諸要素各項目の因子分析…探索的因子分析(主因子法,バリマックス回転)を行い,固有値>1の基準や因子の解釈可能性,当初のPORTモデルとの整合性を考えて,4因子構造とした。因子負荷量が.40未満の項目は除外し,また複数の項目に.40以上の負荷量を示すときには,より高い負荷量を示した因子に組み入れた。
第1因子は「観察」(6項目),第2因子は「判断」(3項目),第3因子は「関与」(5項目),第4因子は「表出」(3項目)と命名した。
これらの因子に含まれる項目の素得点合計を各因子の得点として以後の分析に用いる。
C)精神的弾力性の各因子と精神的弾力性の全体的知覚との相関…B)の4つの因子とも,全体的知覚との間に有意な正の相関があり,「観察」との間にはr=.32(p<.001),「判断」との間にr=.31(p<.001),「関与」との間にr=.67(p<.001),「表出」との間にr=.18(p<.05)であった。全体的知覚の教示文の特徴もあって,「関与」との間に高い相関が見られたが,「観察」「判断」などにも相応の相関が見られている。「表出」のように外側に表すところだと関連が弱くなっている。
D)精神的弾力性の各因子と児童期中期の大人からの働きかけの各因子との関連…児童期中期の大人からの働きかけは,「強圧」「放任」「涵養」の3因子構造であった(川原,2015)。「観察」については「強圧」との間にr=-.21(p<.05),「涵養」とのあいだにr=.34(p<.001)の有意な相関,「判断」については「涵養」との間にr=.22(p<.05)の有意な相関,「関与」については「強圧」との間にr=-.23(p<.05),「涵養」との間にr=.25(p<.01)の有意な相関が見られた。涵養的な働きかけが観察や判断といった思考面や関与といった意識面に肯定的に影響をもたらすことがうかがえる。一方で,強圧的な決めつけが観察する余裕や関与しようとする主体性を妨げるおそれが示された。
児童期中期のことについては対象者の回想による情報ではあるが,当人の認知の一貫性の傾向を含めて,発達的な視点の重要性が示唆された。
苦境な状況におかれたときの精神的弾力性(レジリエンス)が人に備わるためには,早い段階での適切な養育・教育経験が必要と考えられる。本発表では大学生の精神的弾力性の実態を分析し,それに影響する児童期中期の大人からの働きかけというものを想定し,それらの関連性を見る。
【方 法】
関東地方の2大学の学生122名(男子49名,女子73名)に質問紙調査を実施した。調査は授業時間の一部を利用するという方法である。3年次必修授業での実施が多かったので,2年生24名,3年生92名,4年生6名となっている。なお,実施にあたっては,本調査が強制でないことを伝え,了承した学生のみ実施に協力してもらう形をとっている。質問紙は4つの質問から成っていたが,本発表はその中の3つの部分に触れる。
1)現在の精神的弾力性の諸要素の知覚…川原・増渕(2004)において中学生対象に実施した24項目を大学生対象に修正して質問した。評定は4段階である。これらの項目については,Brown et al.(2001)のPORTモデル(Participation〔関与〕; Observation〔観察〕; Reflection〔内省〕; Transformation〔変換〕)を念頭に置いている。
2)現在の精神的弾力性の全体的知覚…「今現在のあなたは,自分に困難なことが起きたり苦境に立たされたりしたときに,それから逃げ回るだけでなく,それに向き合い,それを乗り越えようとすることがどのくらいできていますか」という教示で,10段階で評定してもらった。
3)児童期中期の精神的弾力性への大人からの働きかけ方の回想…「だいたい10歳(小学4年生)のころ,あなたにとって大変なことや良くないことが怒るなどの悪い状況が起きたときに,親や教師などの周りの大人はだいたいどのように働きかけていましたか」という教示で,12項目について4段階で評定してもらった。
【結果と考察】
方法で呈示した1)の基礎統計と因子分析,1)と2),1)と3)との関連について検討する(川原(2015)にて,3)の基礎統計と因子分析ならびに3)と2)との関連は発表済み)。
A)精神的弾力性の諸要素各項目の平均値…平均値の最小は2.58,最大は3.16と4段階評定の理論的中央値2.50を全て超えている。今回の対象者の多くは,それなりにできているという自己知覚を持っていることが分かる。ただし,範囲を調べると,1項目を除いて全て1~4となっており,知覚の低い者も一定割合いることが分かる。
B)精神的弾力性の諸要素各項目の因子分析…探索的因子分析(主因子法,バリマックス回転)を行い,固有値>1の基準や因子の解釈可能性,当初のPORTモデルとの整合性を考えて,4因子構造とした。因子負荷量が.40未満の項目は除外し,また複数の項目に.40以上の負荷量を示すときには,より高い負荷量を示した因子に組み入れた。
第1因子は「観察」(6項目),第2因子は「判断」(3項目),第3因子は「関与」(5項目),第4因子は「表出」(3項目)と命名した。
これらの因子に含まれる項目の素得点合計を各因子の得点として以後の分析に用いる。
C)精神的弾力性の各因子と精神的弾力性の全体的知覚との相関…B)の4つの因子とも,全体的知覚との間に有意な正の相関があり,「観察」との間にはr=.32(p<.001),「判断」との間にr=.31(p<.001),「関与」との間にr=.67(p<.001),「表出」との間にr=.18(p<.05)であった。全体的知覚の教示文の特徴もあって,「関与」との間に高い相関が見られたが,「観察」「判断」などにも相応の相関が見られている。「表出」のように外側に表すところだと関連が弱くなっている。
D)精神的弾力性の各因子と児童期中期の大人からの働きかけの各因子との関連…児童期中期の大人からの働きかけは,「強圧」「放任」「涵養」の3因子構造であった(川原,2015)。「観察」については「強圧」との間にr=-.21(p<.05),「涵養」とのあいだにr=.34(p<.001)の有意な相関,「判断」については「涵養」との間にr=.22(p<.05)の有意な相関,「関与」については「強圧」との間にr=-.23(p<.05),「涵養」との間にr=.25(p<.01)の有意な相関が見られた。涵養的な働きかけが観察や判断といった思考面や関与といった意識面に肯定的に影響をもたらすことがうかがえる。一方で,強圧的な決めつけが観察する余裕や関与しようとする主体性を妨げるおそれが示された。
児童期中期のことについては対象者の回想による情報ではあるが,当人の認知の一貫性の傾向を含めて,発達的な視点の重要性が示唆された。