日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PH

2015年8月28日(金) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PH051] 真実の発言に対する児童の認識

秘密保持の明示に関する影響の検討

楯誠 (名古屋経済大学)

キーワード:児童, 真実発言, 予測

問題と目的
本研究は,「真実を告げること」に対する児童の認識(真実を告げることの予測や選択,善悪判断)について検討するものである。特に違反行為をした他者を,第3者に告げることに対する認識を取り上げる。これまでWagland&Bussey(2005)やLokeら(2011)によって研究がなされており,罰の予期や真実を告げることへの激励,違反の内容などが真実の発言に対する子どもの認識に影響を与えることが明らかになっている。本研究では秘密保持の明示(真実を告げたことを誰にも漏らさない,と伝えること)が,真実の発言に対する児童の認識に与える影響を明らかにする。
方 法
調査対象 公立小学校に通う小学6年生79名(平均年齢11.87歳 男子43名,女子36名)
課題内容 クラスメイトが違反行為をしたことを主人公が目撃し,その後教師から誰が行ったのかを尋ねられるストーリー課題が用いられた。秘密保持の要因として,教師が主人公に尋ねた後に「あなたが教えてくれたことは,ほかの子には絶対に言いませんよ」という一文を追加した明示あり条件と,追加しない明示なし条件の2条件が設定された。
質問内容 以下の3つの質問を設定した。
【真実発言の予測質問】主人公が違反行為をしたクラスメイトのことを教師に告げると思うか否かを,「言うと思う」「言わないと思う」の2つの選択肢で尋ねた。
【真実発言の選択質問】もし調査対象者が主人公であったならば,違反行為をしたクラスメイトのことを教師に告げるか否かを,予測質問と同様に「言うと思う」「言わないと思う」の2つの選択肢で尋ねた。
【善悪判断質問】主人公が教師にクラスメイトのことを告げた場合と,告げなかった場合(発言内容の要因)について,それぞれ7件法(「とても悪い」から「とても良い」)で善悪の判断をさせた。
結 果
真実発言の予測 回答を集計したところ,明示あり条件では「言うと思う」と回答した者は全体の79.7%,明示なし条件では58.2%であった。それぞれに対し二項検定を行ったところ,明示あり条件では有意に「言うと思う」と回答した者が多かったが(P<.01,両側検定),明示なし条件では有意差は見られなかった。明示あり条件と明示なし条件の回答を比較するためマクネマー検定を行ったところ,有意差が得られた(P<.01,両側検定)。明示なし条件に比べ,明示あり条件の方が「言うと思う」と回答した者の比率が大きいことが示された。
真実発言の選択 回答を集計したところ,明示あり条件では「言うと思う」と回答した者は全体の70.9%,明示なし条件では63.3%%であった。それぞれに対し二項検定をかけたところ,いずれの条件においても「言うと思う」と回答した者が有意に多かった(明示あり条件:P<.01,明示なし条件:P<.05,いずれも両側検定)。明示あり条件と明示なし条件の回答を比較するためマクネマー検定を行ったところ,有意差は得られなかった。
善悪判断 秘密保持(明示あり,明示なし)×発言内容(先生に告げる,先生に告げない)の2要因分散分析を行った。その結果,発言内容の主効果のみ有意であった(F (1,78)=115.82,P<.01)。違反行為をしたクラスメイトを先生に告げる方が,告げないよりも良いと,調査対象の児童は判断していることが示された。
考 察
調査対象となった児童は,秘密保持の明示はストーリー課題の主人公の真実の発言を促すと予測していることが示された。一方,自分自身が主人公の立場ならば,秘密保持の明示に関わらず,「真実を告げること」を選択すると回答した者が明らかに多かった。質問によって,秘密保持の明示の影響に違いがあることが示された。
この違いが生じた理由として,1つは真実発言の選択質問への回答に対する社会的望ましさの関与が考えられる。また,真実の発言に対する児童一般的な捉え方と,実際の選択の違いを反映している可能性も挙げられる。今後さらなる検討が必要である。
本研究のストーリー課題では,罰の予期など先行研究で明らかになった真実発言を抑制する要因は含まれていない。これらの要因を含めた,秘密保持の明示化の影響の検討も今後の課題である。