日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PH

2015年8月28日(金) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PH052] 食品添加物に対する保育者と保護者の意識

西村実穂1, 徳田克己2, 水野智美3, 西館有沙4, 安心院朗子5 (1.東京未来大学, 2.筑波大学, 3.筑波大学, 4.富山大学, 5.目白大学)

キーワード:保護者, 保育者, 添加物

【はじめに】
保育所や幼稚園に子どもを通わせている保護者のなかには,食の安全に非常に敏感な人がいる。なかでも食品添加物(以下,添加物とする)に過敏に反応する保護者は,子どもの食べる物から添加物を完全に排除しようとする。家庭の食事だけでなく,保育所や幼稚園の食事についても添加物の含まれるものを除去するように園に対して強く要求するケースもある。このような保護者に対応する保育者は保護者からの過度な要求に戸惑い,時には保育をすすめるうえで問題が生じることさえある。本稿では保育者が保護者に対応する際の手がかりとするために,保育者と保護者の添加物の含まれる食品への対処に違いがあるのかどうかを明らかにすることを目的とする。
【方 法】
保育所・幼稚園に子どもを通わせる保護者および保育所・幼稚園に勤務する保育者に対して質問紙調査を実施した。
保護者に対する調査:関東にある保育所,幼稚園(各1園)に子どもを通わせている保護者を対象として留置法により質問紙調査を実施し,212名からの回答を得た。調査期間は2014年4月~6月であった。
保育者に対する調査:東京,名古屋において行われた研修会(各1回)に参加した保育者を対象として質問紙調査を行った。研修会開始時に質問紙を配布し,その場で回答してもらい研修会終了後に質問紙を回収した。539名からの回答を得た。調査期間は2014年7月~8月であった。
【結 果】
保育者,保護者に対して添加物の含まれる食品への対処(6項目)を,「非常にあてはまる」(5点)から「まったくあてはまらない」(1点)までの5件法により尋ね,保護者と保育者の回答を比較したところ,保護者と保育者では差が見られなかった。そこで,子どもの有無によって差があるのではないかという仮説を立て,保護者と子どものいない保育者を比較した。その結果,子どものいない保育者(166名)と保護者の回答を比較したところ,すべての項目において差がみられた(表1)。
また,保育者に対して食の安全に敏感な保護者への対応経験の有無を尋ねたところ,49%(240名)の保育者が対応したことがあると回答した。さらに,保育者に対して添加物についての考えを5件法により尋ねたところ,「食品添加物の利点を知りたい」3.58(SD=0.87),「食品添加物は危険なものであると思う」3.21(SD=0.95),「食品添加物の危険性に関するマスコミ報道は行き過ぎであると思う」2.80(SD=0.73)の順に数値が高かった。
【考 察】
添加物への対処に関する項目すべてにおいて,保育者よりも保護者の数値が高く,保護者の方がより添加物を気にしていることが明らかになった。この理由として,子どものいる保護者は,妊娠や出産をきっかけに子どもの体調に配慮した食事づくりをするようになっていることが考えられる。「添加物について調べたことがある」という項目については保護者2.61(SD=1.65),保育者2.21(SD=1.31)と,ともに数値が低かった。ここから,近年食の安全について多く報道がなされているなかで,あえて添加物について調べるという人は少ないことが考えられる。しかし保育者のなかには「添加物の利点について知りたい」と感じている者が少なからずおり,保育者が添加物についての知識を身につける必要性を感じているといえる。この背景には保育者の約半数が食の安全に敏感な保護者に対応していること,社会全体の食の安全への意識が高まっていることがある。保育者が今後も食の安全に敏感な保護者に対応する可能性は高い。そのため保育者は添加物についての正しい知識を持ち,子どもや保護者の支援を行わなければならないという意識を持っていると考えられる。