[PH054] 青年期における感謝概念の発達と学校適応の関連について
Keywords:感謝, 学校適応
問題と目的
感謝とは,他者から価値あるものを贈与された時,または利他的な行為によって恩恵を受けたと認識した時,それらを提供してくれた“対象”への肯定的な感情の1つであり,それに伴う表出行動でもある。感謝の研究は大きく3つに分かれて進展した(藤原・村上・西村・濱口・櫻井,2013)。
本研究ではその中でも感謝の内容について注目し,中学生から大学生までの青年期を対象として,感謝概念の発達について明らかにする。また,道徳教育においても「感謝」を重要なテーマとして掲げていることから,青年期に起こりうる問題の1つである「学校不適応による不登校」と絡め,感謝心を育む教育が不登校の減少へと繋がる要因を明らかにする。
従って本研究では,中学生から大学生を対象とした感謝概念と学校適応感を測定し,発達的な観点から感謝の変化と,その関連性について検討する。
方法
参加者 質問紙調査を実施し,中学生129名(男性64名,女性65名),高校生292名(男性149名,女性143名),大学生79名(42名,37名)を分析対象のデータとした。
調査材料
フェイスシート:学年とクラス・年齢・性別について記載する欄を設けた。
青年用適応感尺度:青年期における学校適応感を測定する為,大久保(2005)の青年用適応感尺度を用いた。回答形式は,「まったくあてはまらない」(1点)~「非常にあてはまる」(5点)までの5件法である。本尺度は4因子からなる計30項目の尺度である。
青年期用感謝尺度:感謝概念を測定する為,岩崎・五十嵐(2014)の青年期用感謝尺度を用いた。回答形式は,「まったくあてはまらない」(1点)~「非常にあてはまる」(5点)までの5件法である。本尺度は6因子からなる計30項目の尺度である。
自由記述:「どんな時に感謝するか」,「人以外に感謝する時はどんな時か」の2つの項目を設問した。
結果と考察
因子分析 青年用適応感尺度および青年期用感謝尺度に対して最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った。
青年用適応感尺度の第1因子は「居心地の良さの感覚」,第2因子は「被信頼・受容感」,第3因子は「課題・目的の存在」,第4因子は「劣等感の無さ」と命名した。
青年期用感謝尺度の第1因子は「現状への感謝」,第2因子は「喜びと負債感の混在」,第3因子は「返礼」,第4因子は「忘恩」と命名した。
多重比較 2つの尺度に対して学校段階×性別ごとの2要因分散分析を行った。その結果,感謝概念の発達差は見られず,池田(2006)の先行研究とは異なる見解を示した。また,青年期用感謝尺度の「喜びと負債感の混在」以外の因子では性別の主効果(女性>男性)が見られ,池田(2006)や岩崎・五十嵐(2014)の先行研究と同様の結果が得られた。
相関係数 明らかとなった2つの尺度の因子構造をもとに,各因子との相関係数を求め,感謝と学校適応についての関連を検討した。その結果,人間関係の良好さを表す「被信頼・受容感」においては,全学校段階で「現状への感謝」と正の相関が見られた。また,感謝の表出傾向を表す「返礼」と正の相関が見られ,先行知見と同様の結果が得られた。
今回の調査による新たな知見として,全学校段階において,「課題・目的の存在」と「現状への感謝」との間に正の相関が見られた。これは学校教育において,課題や目標を持たせることが感謝心を育むことに繋がると考えられる。
また,学校段階が上がるごとに,「被信頼・受容感」および「劣等感の無さ」と「喜びと負債感の混在」との間に負の相関が見られた。つまり周りから受容されていなかったり,自分に対して劣等感があると,感謝する際に負債感(申し訳なさ)を感じやすくなることが示され,負債感を感じやすくなる新たな要因が明らかとなった。
今後は,今回の調査で明らかとなった知見をもとに,感謝と課題や目的の存在との関連についての検討と,感謝における負債感と劣等感や受容感の関連についての検討を行い,感謝と学校適応の関連をより明白にする為,研究を展開する必要性がある。
感謝とは,他者から価値あるものを贈与された時,または利他的な行為によって恩恵を受けたと認識した時,それらを提供してくれた“対象”への肯定的な感情の1つであり,それに伴う表出行動でもある。感謝の研究は大きく3つに分かれて進展した(藤原・村上・西村・濱口・櫻井,2013)。
本研究ではその中でも感謝の内容について注目し,中学生から大学生までの青年期を対象として,感謝概念の発達について明らかにする。また,道徳教育においても「感謝」を重要なテーマとして掲げていることから,青年期に起こりうる問題の1つである「学校不適応による不登校」と絡め,感謝心を育む教育が不登校の減少へと繋がる要因を明らかにする。
従って本研究では,中学生から大学生を対象とした感謝概念と学校適応感を測定し,発達的な観点から感謝の変化と,その関連性について検討する。
方法
参加者 質問紙調査を実施し,中学生129名(男性64名,女性65名),高校生292名(男性149名,女性143名),大学生79名(42名,37名)を分析対象のデータとした。
調査材料
フェイスシート:学年とクラス・年齢・性別について記載する欄を設けた。
青年用適応感尺度:青年期における学校適応感を測定する為,大久保(2005)の青年用適応感尺度を用いた。回答形式は,「まったくあてはまらない」(1点)~「非常にあてはまる」(5点)までの5件法である。本尺度は4因子からなる計30項目の尺度である。
青年期用感謝尺度:感謝概念を測定する為,岩崎・五十嵐(2014)の青年期用感謝尺度を用いた。回答形式は,「まったくあてはまらない」(1点)~「非常にあてはまる」(5点)までの5件法である。本尺度は6因子からなる計30項目の尺度である。
自由記述:「どんな時に感謝するか」,「人以外に感謝する時はどんな時か」の2つの項目を設問した。
結果と考察
因子分析 青年用適応感尺度および青年期用感謝尺度に対して最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った。
青年用適応感尺度の第1因子は「居心地の良さの感覚」,第2因子は「被信頼・受容感」,第3因子は「課題・目的の存在」,第4因子は「劣等感の無さ」と命名した。
青年期用感謝尺度の第1因子は「現状への感謝」,第2因子は「喜びと負債感の混在」,第3因子は「返礼」,第4因子は「忘恩」と命名した。
多重比較 2つの尺度に対して学校段階×性別ごとの2要因分散分析を行った。その結果,感謝概念の発達差は見られず,池田(2006)の先行研究とは異なる見解を示した。また,青年期用感謝尺度の「喜びと負債感の混在」以外の因子では性別の主効果(女性>男性)が見られ,池田(2006)や岩崎・五十嵐(2014)の先行研究と同様の結果が得られた。
相関係数 明らかとなった2つの尺度の因子構造をもとに,各因子との相関係数を求め,感謝と学校適応についての関連を検討した。その結果,人間関係の良好さを表す「被信頼・受容感」においては,全学校段階で「現状への感謝」と正の相関が見られた。また,感謝の表出傾向を表す「返礼」と正の相関が見られ,先行知見と同様の結果が得られた。
今回の調査による新たな知見として,全学校段階において,「課題・目的の存在」と「現状への感謝」との間に正の相関が見られた。これは学校教育において,課題や目標を持たせることが感謝心を育むことに繋がると考えられる。
また,学校段階が上がるごとに,「被信頼・受容感」および「劣等感の無さ」と「喜びと負債感の混在」との間に負の相関が見られた。つまり周りから受容されていなかったり,自分に対して劣等感があると,感謝する際に負債感(申し訳なさ)を感じやすくなることが示され,負債感を感じやすくなる新たな要因が明らかとなった。
今後は,今回の調査で明らかとなった知見をもとに,感謝と課題や目的の存在との関連についての検討と,感謝における負債感と劣等感や受容感の関連についての検討を行い,感謝と学校適応の関連をより明白にする為,研究を展開する必要性がある。