[PH056] 親は中高生のモラルに影響を与えないか
双生児法による双方向因果関係の検討
キーワード:行動遺伝学
問 題
親によるしつけの厳しさが子のモラルを高めるならば,両者の間には正の相関が観察されることが予想される。一方で,親による厳しいしつけが,子のモラルが低い場合により多くなされるならば,両者の間には負の相関が観察されることが予想される。ふたつの予想がともに真であるならば,実際には双方向の因果関係があるにもかかわらず,互いの影響が相殺されて,両者の間に無相関に近い値が観察されるのではないか。
本研究は,双生児法を用いてこの仮説を検証した。具体的には,(1) 親のしつけと子のモラルには,表現型では相関は見られない,(2) 子の遺伝的個人差が反映される遺伝的相関においては,両者は負に相関する(子のモラルが低いほど親のしつけが厳しくなる),(3) 親の働きかけの主効果が反映される共有環境相関においては,両者は正に相関する(親のしつけが厳しいほど,子のモラルは向上する),という3つの予測を検証した。
方 法
調査参加者 首都圏ふたごプロジェクト(Ando et al. 2006)の双生児レジストリを利用し,2009年3月,当該時点で中学生または高校生の双生児がいる首都圏の2432世帯を対象とした郵送調査を行った。結果,569世帯,双生児1062名とその母親553名,父親459名から回答を得た(世帯ベースの回収率23.4%)。卵性の内訳は,一卵性・男性108組,一卵性・女性162組,二卵性・男性70組,二卵性・女性75組,二卵性・異性118組であった.
測定 本研究におけるモラルの測定は,道徳的ジレンマ状況への判断や態度ではなく,具体的な行動の頻度を尋ねることにより行った。これは,親によるしつけが,抽象的態度に対してよりも具体的な行動を禁止するという形で影響を与えている可能性を検討するためである。
Table 1に示した6項目について,中高生双生児には「1.あてはまらない」~「4.あてはまる」の4件法により回答を求めた。父親・母親は,双生児きょうだいのそれぞれについて,「Aさん(Bさん)が…しなかった時,どの程度注意したり叱ったりしてきたか」を尋ねた(「1.ほとんど叱ったり注意したりしてこなかった」~「4.必ず叱ったり注意したりした」,「0.そのような場面を経験しなかった」=無効)。各6項目の得点の合計をそれぞれ「子のモラル」「父のしつけ」「母のしつけ」とした(α = .71, .88, .91)。
分析 3変数の表現型についての分析に加え,性別・年齢を統制したうえで,行動遺伝学的分析(コレスキー分解)を行い,各変数の分散に占める遺伝(A),共有環境(C),非共有環境(E)の説明力,および変数間の共分散のACEへの分解を行った。
結果と考察
子のモラルの分散のほとんどが遺伝と非共有環境の影響で説明される一方で(A=.22, C=.02, E=.77),父母のしつけの分散の多くが共有環境の影響で説明された(父A=.16, C=.82, E= .02; 母A=.04, C=.92 , E=.04)。子のモラルと父母のしつけには,表現型においては相関は見られなかった(いずれもr=-.01, ns)。しかし,遺伝・環境相関を推定した結果,父子の表現型における無相関は,負の遺伝相関(rA=-.76)と,正の共有環境相関(rC=1.0)が相殺された結果であることが明らかになった。以上より,父子関係については,3つの仮説全てを支持する結果が得られた。
ただし,測定されていない変数による疑似相関の可能性は残ること,子のモラルの分散に占める共有環境の説明率は2%にすぎないことから,父親のしつけが中高生のモラルに与える影響は,あるとしても極めて限定的であると考えられる。今後,縦断的検討(Yamagata et al., 2013),DOC分析(山形ら,2011)を含めたさらなる見当が必要である。
親によるしつけの厳しさが子のモラルを高めるならば,両者の間には正の相関が観察されることが予想される。一方で,親による厳しいしつけが,子のモラルが低い場合により多くなされるならば,両者の間には負の相関が観察されることが予想される。ふたつの予想がともに真であるならば,実際には双方向の因果関係があるにもかかわらず,互いの影響が相殺されて,両者の間に無相関に近い値が観察されるのではないか。
本研究は,双生児法を用いてこの仮説を検証した。具体的には,(1) 親のしつけと子のモラルには,表現型では相関は見られない,(2) 子の遺伝的個人差が反映される遺伝的相関においては,両者は負に相関する(子のモラルが低いほど親のしつけが厳しくなる),(3) 親の働きかけの主効果が反映される共有環境相関においては,両者は正に相関する(親のしつけが厳しいほど,子のモラルは向上する),という3つの予測を検証した。
方 法
調査参加者 首都圏ふたごプロジェクト(Ando et al. 2006)の双生児レジストリを利用し,2009年3月,当該時点で中学生または高校生の双生児がいる首都圏の2432世帯を対象とした郵送調査を行った。結果,569世帯,双生児1062名とその母親553名,父親459名から回答を得た(世帯ベースの回収率23.4%)。卵性の内訳は,一卵性・男性108組,一卵性・女性162組,二卵性・男性70組,二卵性・女性75組,二卵性・異性118組であった.
測定 本研究におけるモラルの測定は,道徳的ジレンマ状況への判断や態度ではなく,具体的な行動の頻度を尋ねることにより行った。これは,親によるしつけが,抽象的態度に対してよりも具体的な行動を禁止するという形で影響を与えている可能性を検討するためである。
Table 1に示した6項目について,中高生双生児には「1.あてはまらない」~「4.あてはまる」の4件法により回答を求めた。父親・母親は,双生児きょうだいのそれぞれについて,「Aさん(Bさん)が…しなかった時,どの程度注意したり叱ったりしてきたか」を尋ねた(「1.ほとんど叱ったり注意したりしてこなかった」~「4.必ず叱ったり注意したりした」,「0.そのような場面を経験しなかった」=無効)。各6項目の得点の合計をそれぞれ「子のモラル」「父のしつけ」「母のしつけ」とした(α = .71, .88, .91)。
分析 3変数の表現型についての分析に加え,性別・年齢を統制したうえで,行動遺伝学的分析(コレスキー分解)を行い,各変数の分散に占める遺伝(A),共有環境(C),非共有環境(E)の説明力,および変数間の共分散のACEへの分解を行った。
結果と考察
子のモラルの分散のほとんどが遺伝と非共有環境の影響で説明される一方で(A=.22, C=.02, E=.77),父母のしつけの分散の多くが共有環境の影響で説明された(父A=.16, C=.82, E= .02; 母A=.04, C=.92 , E=.04)。子のモラルと父母のしつけには,表現型においては相関は見られなかった(いずれもr=-.01, ns)。しかし,遺伝・環境相関を推定した結果,父子の表現型における無相関は,負の遺伝相関(rA=-.76)と,正の共有環境相関(rC=1.0)が相殺された結果であることが明らかになった。以上より,父子関係については,3つの仮説全てを支持する結果が得られた。
ただし,測定されていない変数による疑似相関の可能性は残ること,子のモラルの分散に占める共有環境の説明率は2%にすぎないことから,父親のしつけが中高生のモラルに与える影響は,あるとしても極めて限定的であると考えられる。今後,縦断的検討(Yamagata et al., 2013),DOC分析(山形ら,2011)を含めたさらなる見当が必要である。