日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PH

2015年8月28日(金) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PH060] 養護教諭の目を通した 児童生徒の自傷と援助・介入(2)

児童・生徒の自傷行為の種別差・性差・学年差を中心に

水野君平1, 穴水ゆかり2 (1.北海道大学, 2.北海道大学)

キーワード:自傷行為, 養護教諭

問題と目的
「リストカット」,「故意に自分を傷つける行為」という言葉で知られている「自傷行為」が,中高生を中心とする若者の間で広まり深刻な問題となっていることは,これまで学校現場や医療機関等で指摘されてきた。Matsumotoほか(2008)は,男子は12-13歳にかけて,女子では16歳以降で自傷経験が増加する可能性を指摘しており,小学校,中学校,高校の児童・生徒の自傷には学年差・年齢差や性差があると考えられる。本研究では,子どもたちの自傷の実態について分析し,発達段階による児童・生徒の自傷行為の差異や問題行動との関連ついて検討することを目的とした。
方法
調査協力者:養護教諭321名(小学校101名,中学校107名,高校113名)。
調査方法:小・中・高校の養護教諭を対象に郵送法による記入式質問票調査にて実施した。なお,調査票の送付数は1613通であり324名から回収された(回収率20.0%)。
調査内容:養護教諭が1年以内に関わった児童・生徒の中で,自傷行為がみられた児童・生徒を想起してもらった。想起してもらう児童・生徒の人数は男女各2名ずつ,計最大4名までとし,それぞれの児童・生徒について以下の質問を尋ねた。①学年,②自傷の内容(11項目)を尋ねた。②については「1.あてはまらない」,「2.あてはまらないし可能性は低い」,「3.あてはまらないが可能性は高い」,「4.あてはまる」の4件法で回答を求めた。
結果と考察
報告された児童・生徒数は小学1年から高校3年までの364名(男子99名,女子265名)であった。まず,自傷行為をダミーコード化(1,2=0;行為なし :3,4=1;行為あり)した。自傷行為の有無の分布を確認したところ,リストカット(以下WC)の行為率は76.4%であり,リストカット以外の自傷(以下,非WC)の行為率(4.67%~34.89%)よりも明らかに多かった。性別・学年別に分けたWC行為の有無の分布をみたところ,女子の中では中学3年生が,男子の中では中学2年生が一番多く,全学年を通してWCの行為人数は男子よりも女子の方がより多かった(図1)。なお,小学校1年~4年生と高校3年生は度数が5に満たなかったので図示していない。
次に,及んだことのある非WC行為の種類数の頻度を分類するために,Shojima(2007)のExametrikaによって潜在ランク分析を行い,潜在的な順序グループを推定した。2~5ランクのモデルを比較したところ,AICとBICを基準に4ランク(ランク数が上がるほど,得点が上位の集団を意味する)に分類することが妥当だと確認された(CFI=.91, RMSEA=.03でありモデルの適合は良好であった)。学年別に潜在ランクを分類したところ,小学5年生でランク1の人数が最大となり,中学3年生でランク4の人数が最大となった(図2)。なお,小学校1年~4年生と高校3年生は度数が10に満たなかったので図示していない。
さらに,WC行為の有無と非WC行為の頻度ランクが関連しているかを検討するために,Blunner-Munzel検定をおこなった。その結果,WC行為がない場合はWC行為がある場合に比べて非WC行為の頻度ランクが有意に高かった(t=-2.69, df=149.12, p=.008)。つまり,WC行為に及ぶ児童・生徒は,WC行為に及ばない児童・生徒と比べて WC以外の様々な自傷行為には及ばない傾向にあることがわかった。