[PH061] 大規模災害後の学校における子どものメンタルヘルスサポートについてのワークショップの効果(1)
参加者から出た質問を通して
キーワード:大規模災害後の学校における支援, 子どものメンタルヘルス, 教員対象ワークショップ
問題・目的
日本では日々さまざまな自然災害が発生するため,児童・生徒が被害にあうことも多く,心身の不調につながることも少なくない。
災害後の学校は,地域における支援活動の中心的な役割を担いながらできるだけ早く子どもに日常的な学校生活を提供するという任務がある。そのような中で学校の負担は大きく,そこに心理の専門家が派遣されて支援に入るシステムができて確立されてきた。しかし持続的に児童・生徒に関わっていく教職員は,学校・学級で子どもの様子を観察し必要に応じて対応するという独自の支援を行っている。したがって教職員がメンタルヘルスサポートにおいて果たす役割は大きい。
発表者らは,大規模災害後の児童・生徒の心身の不調に対して学校関係者が現場でできる具体的な支援について,日本各地でワークショップ(WS)を開催した。WSは全国6会場で実施し,学校関係者が,子どものPTSDの基本的知識やメンタルヘルスサポートのために大規模災害後に行うべきこと,学校関係者のセルフケアについて紹介を行った。WSの内容は,日本同様に自然災害の多いオーストラリアで開発されたものであり,有効性がエビデンスベースで検証されているものである。WSの講師は,オーストラリア内外での実績を持つ研究者が務めた。本発表はそれらのWSにおいて,受講者である日本の学校関係者(教員やカウンセラー・心理士)がトラウマに関する知識に関してどのような疑問を持っているか報告するものである。そして,今後このようなWSの機会を提供するにあたりどのような内容の充実化が必要か検討するものである。
方 法
2014年11月に仙台・東京・千葉・京都・福岡の計5会場で行われたWSの終わりに参加者に対し,口頭で質問を募った。全会場の参加者合計は約400名であった。時間の関係で各会場質問をした人数は限られたが質問内容の分類を行い,参加者たちがどのような点で理解を深める必要があると感じているか検討した。
結 果
参加者からの質問は主に4つのカテゴリーに分類できた:①トラウマ的イベント後,時間が経ってからの子どもたちの反応(delayed onset)について(例:翌年以降の同じ日にトラウマ反応が出るというアニバーサリー反応)②トラウマ的反応と類似する子どもたちの行動や反応との違い(例:うつや統合失調症との誤診断)③サポートシステムの具体的な方法(例:バディシステムについて)④大規模自然災害以外のトラウマ反応についての支援(例:交通事故や虐待,コミュニティーでの暴力事件)。
考 察
近年トラウマやPTSDといった言葉が専門家以外でも広く使われるようになってきている一方,子どものトラウマ反応についてはまだ研究知見は限定されており,対応できる専門家が少ないという現状であることは否めない。本WSの実施は,一連発表2,3が示すように,トラウマの一般的内容に関する理解促進に有効であることが示された。しかしながら,トラウマ反応は出来事を経験した直後に生じるだけでなく,半年または1年以上経過した後に発生することもよく見られる。学校関係者にとっては,そのような反応に関しては想定外であり対応が難しいことが示唆された。また実際に医療関係者にさえ,子どものトラウマ症状が鬱やADHDと誤診され,間違った治療がなされることへの戸惑いも示された。そしてトラウマ的なイベントというと自然災害にあう,殺人事件を目撃するなどニュースになりそうな出来事に対して起こりうるものであると同時に,実際には,事故で大怪我をすることや大きな病気にかかるなども含むという点,子どもと大人が脅威と感じる出来事には大きな相違があることに関して,知識のギャップがある可能性が明らかになった。
これらのことから,今後WSを通じて同様の教育機会を継続していく際には,会場から寄せられた質問をもとに,一般的に誤解されやすい点についての正しい情報を強調する必要がある。更に子どもたちの発達段階に応じて,具体的な事例と対応策を多く盛り込むことが,今後求められる改善点であろう。本WSが実施された5会場での質問内容を質的データとする結果の考察に基づき,地域別のニーズをどのようにプログラムに取り入れるか,教員やカウンセラーの経験に応じて内容をどのように充実化させるかが今後の課題であることが明らかになった。
※本WSは,日本学術振興会の二国間交流事業(セミナー)による助成を受けて実施された。
日本では日々さまざまな自然災害が発生するため,児童・生徒が被害にあうことも多く,心身の不調につながることも少なくない。
災害後の学校は,地域における支援活動の中心的な役割を担いながらできるだけ早く子どもに日常的な学校生活を提供するという任務がある。そのような中で学校の負担は大きく,そこに心理の専門家が派遣されて支援に入るシステムができて確立されてきた。しかし持続的に児童・生徒に関わっていく教職員は,学校・学級で子どもの様子を観察し必要に応じて対応するという独自の支援を行っている。したがって教職員がメンタルヘルスサポートにおいて果たす役割は大きい。
発表者らは,大規模災害後の児童・生徒の心身の不調に対して学校関係者が現場でできる具体的な支援について,日本各地でワークショップ(WS)を開催した。WSは全国6会場で実施し,学校関係者が,子どものPTSDの基本的知識やメンタルヘルスサポートのために大規模災害後に行うべきこと,学校関係者のセルフケアについて紹介を行った。WSの内容は,日本同様に自然災害の多いオーストラリアで開発されたものであり,有効性がエビデンスベースで検証されているものである。WSの講師は,オーストラリア内外での実績を持つ研究者が務めた。本発表はそれらのWSにおいて,受講者である日本の学校関係者(教員やカウンセラー・心理士)がトラウマに関する知識に関してどのような疑問を持っているか報告するものである。そして,今後このようなWSの機会を提供するにあたりどのような内容の充実化が必要か検討するものである。
方 法
2014年11月に仙台・東京・千葉・京都・福岡の計5会場で行われたWSの終わりに参加者に対し,口頭で質問を募った。全会場の参加者合計は約400名であった。時間の関係で各会場質問をした人数は限られたが質問内容の分類を行い,参加者たちがどのような点で理解を深める必要があると感じているか検討した。
結 果
参加者からの質問は主に4つのカテゴリーに分類できた:①トラウマ的イベント後,時間が経ってからの子どもたちの反応(delayed onset)について(例:翌年以降の同じ日にトラウマ反応が出るというアニバーサリー反応)②トラウマ的反応と類似する子どもたちの行動や反応との違い(例:うつや統合失調症との誤診断)③サポートシステムの具体的な方法(例:バディシステムについて)④大規模自然災害以外のトラウマ反応についての支援(例:交通事故や虐待,コミュニティーでの暴力事件)。
考 察
近年トラウマやPTSDといった言葉が専門家以外でも広く使われるようになってきている一方,子どものトラウマ反応についてはまだ研究知見は限定されており,対応できる専門家が少ないという現状であることは否めない。本WSの実施は,一連発表2,3が示すように,トラウマの一般的内容に関する理解促進に有効であることが示された。しかしながら,トラウマ反応は出来事を経験した直後に生じるだけでなく,半年または1年以上経過した後に発生することもよく見られる。学校関係者にとっては,そのような反応に関しては想定外であり対応が難しいことが示唆された。また実際に医療関係者にさえ,子どものトラウマ症状が鬱やADHDと誤診され,間違った治療がなされることへの戸惑いも示された。そしてトラウマ的なイベントというと自然災害にあう,殺人事件を目撃するなどニュースになりそうな出来事に対して起こりうるものであると同時に,実際には,事故で大怪我をすることや大きな病気にかかるなども含むという点,子どもと大人が脅威と感じる出来事には大きな相違があることに関して,知識のギャップがある可能性が明らかになった。
これらのことから,今後WSを通じて同様の教育機会を継続していく際には,会場から寄せられた質問をもとに,一般的に誤解されやすい点についての正しい情報を強調する必要がある。更に子どもたちの発達段階に応じて,具体的な事例と対応策を多く盛り込むことが,今後求められる改善点であろう。本WSが実施された5会場での質問内容を質的データとする結果の考察に基づき,地域別のニーズをどのようにプログラムに取り入れるか,教員やカウンセラーの経験に応じて内容をどのように充実化させるかが今後の課題であることが明らかになった。
※本WSは,日本学術振興会の二国間交流事業(セミナー)による助成を受けて実施された。