[PH075] ASDを有する青年期の子どもの行動に対する親の認知的評価の特徴
親の心理的ストレス状態による差異の検討
Keywords:青年期, ASD, 親の心理的ストレス
【問題と目的】
自閉症スペクトラム障害(以下,ASD)を有する者は,青年期以降,就労や自立生活に困難を示し,気分障害やひきこもり等の二次的な問題を抱えやすいことが指摘されている(杉山,2002)。このような問題に対する社会的な支援体制は十分に整っているとはいえず,親をはじめとする家族が全面的にサポートしていることが多い(中田,2009)。しかしながら,ASDの障害特性によっては,問題が長期にわたり好転しないことも多く,実際にサポートを行う家族は,強い心理的ストレスを持続的に経験することが指摘されている(齋藤,2009)。また,親などの家族が強いストレスを抱えている場合に,ASDを有する者の問題行動が悪化してしまう可能性があるといった指摘もあり(Choen & Tsiouris,2006),家族がASDを有する者に対し,効果的なサポートを継続的に提供するためには,家族が抱えるストレスについて検討する必要があると考えられる。
これまでの心理学的ストレス研究においては,同じようなストレッサーにさらされても,人によって経験するストレスの程度は異なることが示されている。Lazarus & Folkman(1984)を踏まえると,表出されるストレス反応の程度の違いにおいては,ストレッサーに対する認知的評価の差異が関連していると考えられる。そこで,本研究では,青年期以降のASDを有する子どもの家族のストレス反応の違いによって,子どもの示す問題行動に対する認知的評価がどのように異なるかを明らかにすることを目的とする。
【方 法】
調査対象者:関東信越地方にある発達障がい者の親の会に参加する18歳以上のASDを有する子どもの母親28名(平均年齢53.8±6.38歳)。
調査材料:(a)心理的ストレス反応尺度(鈴木他,1997),(b)子どもの問題行動尺度(本研究で作成;「障害特性」「二次的症状」「社会生活」に関する項目群から構成される),(c)認知的評価尺度(鈴木他,1997)のうち「脅威性」「コントロール可能性」の2下位尺度を用いて,調査材料(b)の項目に対して回答を求めた。
なお,本研究は,早稲田大学人を対象とする研究に関する倫理審査委員会の承認を得て行われた。
【結果と考察】
子どもの示す問題行動に対する認知的評価の差異について,ストレス反応の程度(高群12名,低群16名)を独立変数,認知的評価尺度の「脅威性」および「コントロール可能性」の下位尺度得点を従属変数とする1要因分散分析を行った(Figure)。その結果,「脅威性」の評価において,ストレス反応高群は,「二次的症状」に対する評価得点が,ストレス反応低群に比べて有意に得点が高いことが示された(F (2,26)=5.25,p < .05)。また,「障害特性」に対する得点が,ストレス反応低群に比べて高い傾向にあることが示された(F (2,26)=3.10,p < .10)。さらに,「コントロール可能性」の評価においては,ストレス反応高群は,「二次的症状」に対する得点が,ストレス反応低群に比べて高い傾向にあることが示された(F (2,26)=3.22,p < .10)。
本研究の結果から,ストレス反応を比較的強く示す母親は,ASDを有する青年期の子どもの二次的症状に関する問題を脅威的にとらえていることが示された。ASDを有する者は,青年期以降に二次的な問題を抱えやすいことを踏まえると,周囲の家族は,幼少期から続く一次的な問題とは異なる新たな問題として,子どもの示す二次的な問題を脅威的に評価する傾向にある可能性が考えられる。青年期以降のASDを有する子どもの家族が示す心理的ストレスに対する支援を行う際には,子どもの示す二次的な問題への理解やそれに対する具体的な対応などを取り入れていく必要があると考えられる。
自閉症スペクトラム障害(以下,ASD)を有する者は,青年期以降,就労や自立生活に困難を示し,気分障害やひきこもり等の二次的な問題を抱えやすいことが指摘されている(杉山,2002)。このような問題に対する社会的な支援体制は十分に整っているとはいえず,親をはじめとする家族が全面的にサポートしていることが多い(中田,2009)。しかしながら,ASDの障害特性によっては,問題が長期にわたり好転しないことも多く,実際にサポートを行う家族は,強い心理的ストレスを持続的に経験することが指摘されている(齋藤,2009)。また,親などの家族が強いストレスを抱えている場合に,ASDを有する者の問題行動が悪化してしまう可能性があるといった指摘もあり(Choen & Tsiouris,2006),家族がASDを有する者に対し,効果的なサポートを継続的に提供するためには,家族が抱えるストレスについて検討する必要があると考えられる。
これまでの心理学的ストレス研究においては,同じようなストレッサーにさらされても,人によって経験するストレスの程度は異なることが示されている。Lazarus & Folkman(1984)を踏まえると,表出されるストレス反応の程度の違いにおいては,ストレッサーに対する認知的評価の差異が関連していると考えられる。そこで,本研究では,青年期以降のASDを有する子どもの家族のストレス反応の違いによって,子どもの示す問題行動に対する認知的評価がどのように異なるかを明らかにすることを目的とする。
【方 法】
調査対象者:関東信越地方にある発達障がい者の親の会に参加する18歳以上のASDを有する子どもの母親28名(平均年齢53.8±6.38歳)。
調査材料:(a)心理的ストレス反応尺度(鈴木他,1997),(b)子どもの問題行動尺度(本研究で作成;「障害特性」「二次的症状」「社会生活」に関する項目群から構成される),(c)認知的評価尺度(鈴木他,1997)のうち「脅威性」「コントロール可能性」の2下位尺度を用いて,調査材料(b)の項目に対して回答を求めた。
なお,本研究は,早稲田大学人を対象とする研究に関する倫理審査委員会の承認を得て行われた。
【結果と考察】
子どもの示す問題行動に対する認知的評価の差異について,ストレス反応の程度(高群12名,低群16名)を独立変数,認知的評価尺度の「脅威性」および「コントロール可能性」の下位尺度得点を従属変数とする1要因分散分析を行った(Figure)。その結果,「脅威性」の評価において,ストレス反応高群は,「二次的症状」に対する評価得点が,ストレス反応低群に比べて有意に得点が高いことが示された(F (2,26)=5.25,p < .05)。また,「障害特性」に対する得点が,ストレス反応低群に比べて高い傾向にあることが示された(F (2,26)=3.10,p < .10)。さらに,「コントロール可能性」の評価においては,ストレス反応高群は,「二次的症状」に対する得点が,ストレス反応低群に比べて高い傾向にあることが示された(F (2,26)=3.22,p < .10)。
本研究の結果から,ストレス反応を比較的強く示す母親は,ASDを有する青年期の子どもの二次的症状に関する問題を脅威的にとらえていることが示された。ASDを有する者は,青年期以降に二次的な問題を抱えやすいことを踏まえると,周囲の家族は,幼少期から続く一次的な問題とは異なる新たな問題として,子どもの示す二次的な問題を脅威的に評価する傾向にある可能性が考えられる。青年期以降のASDを有する子どもの家族が示す心理的ストレスに対する支援を行う際には,子どもの示す二次的な問題への理解やそれに対する具体的な対応などを取り入れていく必要があると考えられる。