The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

自主企画シンポジウム

自己調整学習を測定するためのアプローチ

学習行動,学習方略,動機づけを対象に

Sat. Oct 8, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 第2小ホールA (5階第2小ホールA)

企画:深谷達史(群馬大学大学院), 篠ヶ谷圭太(日本大学), 塚野州一(富山大学)
司会:深谷達史(群馬大学大学院)
話題提供:澤山郁夫(大阪大学), 植阪友理(東京大学), 田中瑛津子(名古屋大学)
指定討論:鹿毛雅治(慶應義塾大学)

1:00 PM - 3:00 PM

[JB01] 自己調整学習を測定するためのアプローチ

学習行動,学習方略,動機づけを対象に

深谷達史1, 篠ヶ谷圭太2, 塚野州一3, 澤山郁夫4, 植阪友理5, 田中瑛津子6, 鹿毛雅治7 (1.群馬大学大学院, 2.日本大学, 3.富山大学, 4.大阪大学, 5.東京大学, 6.名古屋大学, 7.慶應義塾大学)

Keywords:自己調整学習, 測定, 学習方略

企画趣旨
 教育の主要な目標の一つである,主体的に学習を進める力の育成は,教育心理学においては自己調整学習の名のもとに研究されてきた。自己調整学習は,(1) 学習前,学習中,学習後といったように学習をプロセスとして捉える,(2) 知識や学習方略,動機づけなど多様な学力の要素を扱う,といった視点を重視する包括的な枠組みであり,自ら積極的に学習に関与する学習者がどのような特徴を有しているのか,そうした学習を促し育成するにはどのような介入が効果的なのかなどの諸点に関して知見が蓄積されてきた(Zimmerman & Schunk, 2011)。
 一方,理論的な精緻化に伴い,自己調整学習の過程をいかに捉えるかという問いが近年の重要なテーマとなってきたように思われる。例えば,個人特性のようなマクロな変数が学習中の発話のようなミクロな変数に与える影響を調べたMoos & Azevedo(2008),“gstudy”というソフトウェアを利用した介入と測定を試みたWinne et al.(2006),自己調整学習に関わる複数の要素の関係を調べたAinley & Patrick(2006)などにその課題意識を見てとれる。
 そこで本シンポジウムでは,自己調整学習を捉えるアプローチという観点から,3名の話題提供者にご自身の研究を紹介してもらい,各論者が自己調整学習を測定する上で重要だと考えていることを共有し深めたい。なお,自己調整学習は様々な研究を包含する大きな枠組みであり,一つないし少数の研究で全ての要素や理論的前提をカバーするのは困難であろう。こうしたことから,本シンポジウムも,足りないことを指摘しあう場ではなく,それぞれのアプローチの可能性を前向きに議論し研究領域のこれからを展望する場としたいと考えている。
一問一答式eラーニングを用いた学習行動の継続測定
(澤山郁夫)
 辰野(1997)によれば,自己調整学習とは「学習目標を達成するために,自己の認知と行動を学習者が自ら活性化させ維持する学習」である。ここで,単に「認知と行動を活性化」といっても,学習を行っていない状態から学習行動をスタートするために行うレベル1の活性化と,学習中により良い学習のために行うレベル2の活性化が考えられる。とりわけ,学習にとりかかるか否かの判断を自身に委ねられている状況では(e.g., 家庭での自主学習),レベル1の活性化に困難を抱える学習者が一定数存在しており,そのような学習者に対しては,まずはレベル1の活性化を促すような介入が必要と考えられる。
 また,単に「維持」といっても,とりかかりはじめた学習を何分間休みなく続けられるかというような「学習内次元の維持」と,一旦終えた学習を次の日もまた次の日も再開するというような「学習間次元の維持」とでは,学習者に要求される能力は,一部異なると考えられる。ところが,両者を明確に区別して,持続性の要因や介入支援を議論する研究は,あまり見られない。それは,後者の「学習間次元の維持」については,単発的な,そして,学習を行わないという選択肢のない学習実験では測定することが難しかったことに起因すると考えられる。
 このような課題に対し,本発表では,大学生を対象に一ヶ月間を超えて自由に利用できる一問一答式eラーニングやスマートフォンを媒体とした学習アプリケーションを提供し,その学習ログを収集した結果について,(1) ハードルモデル(Mullahy, 1986)を用いた分析を行うこと,(2) ログインあたりの設問閲覧回数とその推移についての分析を行うことで,「活性化」のレベルや,「持続性」の次元を区別した議論を試みる。ハードルモデルとは,観測値 (e.g., 設問閲覧回数) について,0になるか1以上になるかを左右する要因と(レベル1の活性化に対応),1以上の場合の量を規定する要因(レベル2の活性化に対応)を区別して,分析するモデルである。また,レベル1の活性化や,学習間次元の維持に対して支援することを目的として,オンライン人数表示機能などから構成されるSNS(Social Networking Service)的な要素を付与した条件を設け,付与しない条件と比較した学習実験の結果についても,報告を加える。
行動データを用いた学習方略の測定
(植阪友理)
 本発表では,行動データを用いた学習方略研究に焦点をあてる。これまでの研究から学習方略として,既有知識と関連づけながら深く理解する(認知的方略),自分が理解できたことや理解できていないことをはっきりとさせ,次に自分が取るべき行動を調整する(メタ認知的方略),他者や書籍といった頭の外の資源(リソース)を最大限に活用しながら理解を深める(外的リソース方略)などが提案されている。
 現在の学習方略研究は質問紙による要因検討が中心である。また,学習方略の促進を目指した研究も行われているが,従属変数は学業成績等であることも少なくない。つまり,実際に学習方略を行動データで測定している研究は必ずしも多くない。
 こうした中にあって,筆者らは問題解決時の様子を紙に記録したり,生徒のパフォーマンスをビデオで記録するなど,行動データを用いた学習方略研究を積極的に行っている。行動データをとることは,質問紙に比べてコストが高い。一方で,こうした研究を行うことが,自立した学習者を育てるという視点からは重要であると捉えている。
 そこで,どのような場合に,あえて行動データをとることが有効なのかを考察し,ガイドラインとして以下の視点を提案する。これらの視点は,必ずしも相互に背反なものではないことに留意されたい。
【学習方略の行動データが有効である状況】
① 方略使用の自発性や転移を検討したい時:どの程度学習方略を自発的に利用しているのかを評価したい場合や,指導されていない場面でどのくらい自発的に利用しているのか(転移)を検討したい場合には,行動データが有効である。
② 方略使用の質を検討したい時:自分の失敗の原因をどのように分析しているかなど,学習方略の質を検討したい場合には,実際に課題に取り組ませてみることが有効である。
③ 指導法,学習法の改善を最終目標としてる時:方略使用の向上を目指した研究や,学習者の学習法改善を目指している研究では,それらを適切に評価するために,行動データが不可欠である。
④ 学習者個人の方略使用状況を診断したい時:上記3点は研究上の利用を意図しているが実践的研究でも行動データは威力を発揮する。特に,学習方略の使用状況を診断したい場合には,具体的な問題点の同定につながる。
 当日は具体的な研究例を交えて詳細に説明する。
学習中の動機づけの変化をどう捉えるか
―ペア学習場面における検討―
(田中瑛津子)
 学習しようとする意志や情動である動機づけは,自己調整学習において重要な役割を果たす。動機づけの測定に際しては,質問紙を用いて比較的安定した特性として動機づけを扱うものも多いが,実際の自己調整学習の過程を捉えるためには,特定の学習状況を設定し,知識状態など他の要素もあわせて測定することで,動機づけの変化や他の要素との関連を調べるアプローチが有用だと考えられる。近年では,動機づけの変化を捉えるために,事前と事後の2時点のみならず,複数回の測定を通じて変化のプロセスをより詳細に検討した研究が見られるようになってきた(e.g., Rotgans & Schmidt, 2011; Wu, Anderson, Nguyen-Jahiel, & Miller, 2013)。
 これらの先行研究は従来の質問紙のみ,事前事後の測定のみという方法とは異なるものだと言えるが,いくつかの課題も残されている。第一に,変化のパターンの個人差が検討されておらず,第二に,動機づけの質が考慮されていない。第二の課題について,例えば,興味研究の領域では興味の種類には複数のものがあり(e.g., Hidi & Renninger, 2006; Mitchel, 1993),種類によって学習行動に与える影響も異なることが示されている(田中, 2015)。つまり,授業に対する興味の高さが同じであっても,「友人と話す機会があったことによっておもしろいと感じた」場合と「知識が結びついたことでおもしろいと感じた」場合では,学習行動に与える影響は異なると考えられる。したがって,自己調整学習のプロセスにおける動機づけの役割を明らかにするためには,学習中の動機づけの質についても着目する必要がある。
 本シンポジウムではその試みの一つとして,大学生のペア学習中の興味の変化について検討した研究を紹介したい。本研究では,ペアで課題に取り組んでいる間,5分ごとに課題に対する興味の高さについて回答を求めるとともに,自己効力感の変化,発話や学習行動を記録した。ペア学習という状況を設定することで,個人の思考や理解状態が言葉として表出されやすく,それらを踏まえて興味の質の変化を解釈することができると考えられる。本研究から得られた知見を報告するとともに,学習中の動機づけの測定方法について今後の課題や展望について議論したい。