3:30 PM - 5:30 PM
[JC06] 発達障害傾向のある研究者が語る「学齢期に必要な支援」
自己の苦しかった体験をもとに
Keywords:発達障害傾向, 学齢期, 支援
企画趣旨
話題提供者は発達障害に関する研究をしており,かつ自身も発達障害傾向がある者たちである。2015年に行われた日本乳幼児教育学会において,同じメンバーで,自己の苦しかった体験をもとに,「幼児期にどのような支援が必要であったか」をテーマに自主シンポジウムを開催した。周囲から問題行動とみられる行動をなぜ起こしたのか,その時に親や保育者にどう対応してほしかったのかを具体的なエピソードを交えて語った。多くの参加者から発達障害傾向のある子どもへの対応を考えるきっかけになったという意見をもらった。
そもそもこのようなシンポジウムを企画したのは,発達障害傾向のある子どもに対して周囲の大人が適切ではない対応をしているケースをしばしば見てきたためである。最も多いのが,なぜ問題行動を起こすのかを大人が理解できず,子どもを叱り続けてしまうことである。これでは,発達障害傾向のある子どもは,持てる能力を発揮することなく,「自分はやっても,どうせうまくいかない」「ダメな人間だ」などと,自己肯定感を高めることなく,二次障害が生じてしまう。そうなると,学業不振だけでなく,精神的にも不安定になる。成人後にも不安定な状態が続く。
大人になるまで発達障害傾向を見過ごされ,何の支援もされてこなかったケースがある。こうした人の中には,大学生や社会人になってから,自身で対応する方法を身につけないままに,さまざまな困難に直面し苦しむ人が多い。困惑した状況を生まないためにも,年齢が小さいうちから,周囲の大人が子どもの特性に気づき,適切な対応をしていく必要がある。
そこで,本シンポジウムでは,それぞれの話題提供者に,学齢期の自身の発達障害特性,問題行動の背景や思いを語ってもらうとともに,どのような支援を受けていれば,その時,あるいは将来的に生活がしやすくなると思うのかについての話題を提供してもらう。これらの話題を基に,学齢期にはどのような支援を必要としているのかについて,具体的に議論を深めていきたい。
話題提供1
強い衝動性の傾向がある立場から
筑波大学客員研究員 小野聡子
小学校1,2年生の時の経験は,私の二次障害に最も大きな影響を与えたと感じている。多動傾向はないが衝動性が強い私は,席に座っていることはできるが授業に注目し続けることに困難があった。周囲に刺激となるものが多くそちらに気持ちを奪われてしまったからである。大人しいがよそ見をしたり授業以外のことを考えていることが多い私に対して教師が頻繁に机を叩いて注意をし,親にも苦情が伝えられた。クラスの友だちよりも注意を受ける頻度が高いことから不安が高まり,2年間チックが続いた。
私に対する小学校での教師による関わりを振り返ると,私が「やる気がない子,出来が悪い子」としてとらえられていたことがわかる。一方,私自身はとても困っていた。教師や親に叱られることは恐ろしかったし,注意が維持できないことにより授業の内容が飛び飛びになり理解できないことも,生活全般において周囲の友だちが当たり前のように行っている流れが把握できないことも大きなストレスであった。
注目を維持したり,周囲の状況をみて今すべきことを把握して流れに乗るということは,発達障害がある子どもが苦手とすることであり,特に小学校に就学する移行期は不安が高まりやすい。「やる気がない,出来が悪い」と判断する前に,何に困っているのか,なぜできないのかという点に着目することが,発達障害児を発見し,学習環境を考える上で重要であると考える。
話題提供2
不注意の傾向がある立場から
筑波大学大学院人間総合科学研究科 枝野裕子
私が小学生の時の典型的な1日を紹介する。
朝,5時半に起きるが,食事や身支度に時間がかかり,登校班の集合時間には,いつもぎりぎりになり,周囲から顰蹙をかう。学校に着くと,いくつかの忘れ物に気がつく。黒板には,クラス全員のペナルティの回数を示すグラフが示され,他の人よりもその数が多いことに毎日,ショックを受ける。授業が始まると,教師の話を集中して聞かなくてはいけないと思っているが,つい気がそれてしまい,教師から何度も注意を受ける。また,授業中にやり終えなくてはならない課題を時間内に終えることができず,教師に「集中していないからだ」などと叱責を受け,家で課題を仕上げてくるように言われる。テストがあると,あてはめる公式はあっているのに単純な計算ミスをしたり,漢字の書き間違いをする。
家に帰ると,授業中に課題を終えられなかったことを親に見つかり,「なぜ,みんなが授業中にできることをあなたはできないのか」と叱られる。また,返されたテストを見せると「どうして,こんなに簡単なところでミスをするのか」と注意を受ける。さらに,次の日に学校に着いてから,昨日,家で仕上げた課題を家に置いてきたことに気がつき,教師に怒られることになる。
このように,常に教師や親から叱られ,自分もなぜみんなと同じようにできないのかと情けない気持ちになって,自己肯定感を持つことはできなかった。叱られないようにしようとすると,かえって緊張し,より気持ちに余裕がなくなり,ミスを繰り返すことになった。ぼーっとしていたら,叱るのではなく,今は何をする時なのか,時間はあとどれぐらい残っているのか,どうすれば忘れ物を減らすことができるかなどを具体的に教えてほしかった。
話題提供3
不注意の傾向がある立場から
富山大学人間発達科学部 西館有沙
小学校時代の通知表によく書かれた言葉は「頻繁に空想の世界に行ってしまう」「忘れ物が多い」の2つである。授業中に教師に名前を呼ばれ,ハッとして周りを見渡すと,クラスメート全員がこちらを見ていることがしばしばあった。おそらく,何度か名前を呼ばれていたのである。教師はあきれた顔をして私を見る。クラスメートは私を見て笑う。そこで一人,冷や汗をかいていたことが思い出される。
聞きもらしが多いこと,整理整頓が苦手で机の中もかばんの中も自宅の部屋も,どこに何があるかわからない状態であったため,忘れ物の多さはクラスでトップであった。小学3年生の時に,私の忘れ物の多さが学級通信のネタとなっており,親と大げんかになった。
教室を移動するための準備も,体育服への着替えも,すべてに時間がかかった。これは,注意がそれやすいことに加えて,物事を整理し,順にこなすことが苦手であったためであろう。気づくと他のクラスメートは準備が整い,次の作業に移っているので,私はいつも焦っていた。親は「あなたは人一倍がんばらないと人並みにならない」と,口癖のように言っていた。
教師や親のあきれた顔は,自信を喪失させる威力をもっている。あの頃の自分は,何をどうすれば整理整頓ができ,忘れ物を減らすことができるのかを,具体的に教えてもらいたかった。
話題提供4
こだわりや感覚異常がある立場から
筑波大学医学医療系 水野智美
子どもの頃には,多くの自分流のルールが存在した。物の置き場所,使い方,行動の仕方など,さまざまな事柄に対して,自分だけでなく,周囲の人にもそれを押し付けようとした。当然,そのルールは周囲から承認されるはずはなく,「あの子は自分勝手だ」などと言われ,衝突することになった。その頃の私は,自分が間違ったことを言っているという認識はなく,他人には他人のやり方があるという見方ができなかった。そのため,親や教師から叱責されても,納得できなかった。まずは,私が感じていることを受容してもらった上で,相手の気持ちなどを伝えてもらえれば,他の人には他の人の感じ方があることに目を向けやすくなったと思われる。加えて,自分のこだわりを他の人に求めずに気持ちを収めるための方法を教えてもらえれば生活しやすかっただろう。
また,私は相手の話を聞いて,その言葉の意味を受け取ることが苦手である。その理由は,相手の話している声は「音」として聞こえてくるが,それぞれの単語までがよく聞き取れない。音の塊が耳に届くという状態である。相手の話を聞かずに勝手に行動すると叱られ,聞き返すようにしても,「集中していないからだ」と怒られたり,周囲から煙たがられたりする。今でも,聞き取れた言葉をつないでいき,憶測で会話をすることがよくあるが,音を言葉として認識することが苦手である人がいることを大人には知ってほしい。
話題提供者は発達障害に関する研究をしており,かつ自身も発達障害傾向がある者たちである。2015年に行われた日本乳幼児教育学会において,同じメンバーで,自己の苦しかった体験をもとに,「幼児期にどのような支援が必要であったか」をテーマに自主シンポジウムを開催した。周囲から問題行動とみられる行動をなぜ起こしたのか,その時に親や保育者にどう対応してほしかったのかを具体的なエピソードを交えて語った。多くの参加者から発達障害傾向のある子どもへの対応を考えるきっかけになったという意見をもらった。
そもそもこのようなシンポジウムを企画したのは,発達障害傾向のある子どもに対して周囲の大人が適切ではない対応をしているケースをしばしば見てきたためである。最も多いのが,なぜ問題行動を起こすのかを大人が理解できず,子どもを叱り続けてしまうことである。これでは,発達障害傾向のある子どもは,持てる能力を発揮することなく,「自分はやっても,どうせうまくいかない」「ダメな人間だ」などと,自己肯定感を高めることなく,二次障害が生じてしまう。そうなると,学業不振だけでなく,精神的にも不安定になる。成人後にも不安定な状態が続く。
大人になるまで発達障害傾向を見過ごされ,何の支援もされてこなかったケースがある。こうした人の中には,大学生や社会人になってから,自身で対応する方法を身につけないままに,さまざまな困難に直面し苦しむ人が多い。困惑した状況を生まないためにも,年齢が小さいうちから,周囲の大人が子どもの特性に気づき,適切な対応をしていく必要がある。
そこで,本シンポジウムでは,それぞれの話題提供者に,学齢期の自身の発達障害特性,問題行動の背景や思いを語ってもらうとともに,どのような支援を受けていれば,その時,あるいは将来的に生活がしやすくなると思うのかについての話題を提供してもらう。これらの話題を基に,学齢期にはどのような支援を必要としているのかについて,具体的に議論を深めていきたい。
話題提供1
強い衝動性の傾向がある立場から
筑波大学客員研究員 小野聡子
小学校1,2年生の時の経験は,私の二次障害に最も大きな影響を与えたと感じている。多動傾向はないが衝動性が強い私は,席に座っていることはできるが授業に注目し続けることに困難があった。周囲に刺激となるものが多くそちらに気持ちを奪われてしまったからである。大人しいがよそ見をしたり授業以外のことを考えていることが多い私に対して教師が頻繁に机を叩いて注意をし,親にも苦情が伝えられた。クラスの友だちよりも注意を受ける頻度が高いことから不安が高まり,2年間チックが続いた。
私に対する小学校での教師による関わりを振り返ると,私が「やる気がない子,出来が悪い子」としてとらえられていたことがわかる。一方,私自身はとても困っていた。教師や親に叱られることは恐ろしかったし,注意が維持できないことにより授業の内容が飛び飛びになり理解できないことも,生活全般において周囲の友だちが当たり前のように行っている流れが把握できないことも大きなストレスであった。
注目を維持したり,周囲の状況をみて今すべきことを把握して流れに乗るということは,発達障害がある子どもが苦手とすることであり,特に小学校に就学する移行期は不安が高まりやすい。「やる気がない,出来が悪い」と判断する前に,何に困っているのか,なぜできないのかという点に着目することが,発達障害児を発見し,学習環境を考える上で重要であると考える。
話題提供2
不注意の傾向がある立場から
筑波大学大学院人間総合科学研究科 枝野裕子
私が小学生の時の典型的な1日を紹介する。
朝,5時半に起きるが,食事や身支度に時間がかかり,登校班の集合時間には,いつもぎりぎりになり,周囲から顰蹙をかう。学校に着くと,いくつかの忘れ物に気がつく。黒板には,クラス全員のペナルティの回数を示すグラフが示され,他の人よりもその数が多いことに毎日,ショックを受ける。授業が始まると,教師の話を集中して聞かなくてはいけないと思っているが,つい気がそれてしまい,教師から何度も注意を受ける。また,授業中にやり終えなくてはならない課題を時間内に終えることができず,教師に「集中していないからだ」などと叱責を受け,家で課題を仕上げてくるように言われる。テストがあると,あてはめる公式はあっているのに単純な計算ミスをしたり,漢字の書き間違いをする。
家に帰ると,授業中に課題を終えられなかったことを親に見つかり,「なぜ,みんなが授業中にできることをあなたはできないのか」と叱られる。また,返されたテストを見せると「どうして,こんなに簡単なところでミスをするのか」と注意を受ける。さらに,次の日に学校に着いてから,昨日,家で仕上げた課題を家に置いてきたことに気がつき,教師に怒られることになる。
このように,常に教師や親から叱られ,自分もなぜみんなと同じようにできないのかと情けない気持ちになって,自己肯定感を持つことはできなかった。叱られないようにしようとすると,かえって緊張し,より気持ちに余裕がなくなり,ミスを繰り返すことになった。ぼーっとしていたら,叱るのではなく,今は何をする時なのか,時間はあとどれぐらい残っているのか,どうすれば忘れ物を減らすことができるかなどを具体的に教えてほしかった。
話題提供3
不注意の傾向がある立場から
富山大学人間発達科学部 西館有沙
小学校時代の通知表によく書かれた言葉は「頻繁に空想の世界に行ってしまう」「忘れ物が多い」の2つである。授業中に教師に名前を呼ばれ,ハッとして周りを見渡すと,クラスメート全員がこちらを見ていることがしばしばあった。おそらく,何度か名前を呼ばれていたのである。教師はあきれた顔をして私を見る。クラスメートは私を見て笑う。そこで一人,冷や汗をかいていたことが思い出される。
聞きもらしが多いこと,整理整頓が苦手で机の中もかばんの中も自宅の部屋も,どこに何があるかわからない状態であったため,忘れ物の多さはクラスでトップであった。小学3年生の時に,私の忘れ物の多さが学級通信のネタとなっており,親と大げんかになった。
教室を移動するための準備も,体育服への着替えも,すべてに時間がかかった。これは,注意がそれやすいことに加えて,物事を整理し,順にこなすことが苦手であったためであろう。気づくと他のクラスメートは準備が整い,次の作業に移っているので,私はいつも焦っていた。親は「あなたは人一倍がんばらないと人並みにならない」と,口癖のように言っていた。
教師や親のあきれた顔は,自信を喪失させる威力をもっている。あの頃の自分は,何をどうすれば整理整頓ができ,忘れ物を減らすことができるのかを,具体的に教えてもらいたかった。
話題提供4
こだわりや感覚異常がある立場から
筑波大学医学医療系 水野智美
子どもの頃には,多くの自分流のルールが存在した。物の置き場所,使い方,行動の仕方など,さまざまな事柄に対して,自分だけでなく,周囲の人にもそれを押し付けようとした。当然,そのルールは周囲から承認されるはずはなく,「あの子は自分勝手だ」などと言われ,衝突することになった。その頃の私は,自分が間違ったことを言っているという認識はなく,他人には他人のやり方があるという見方ができなかった。そのため,親や教師から叱責されても,納得できなかった。まずは,私が感じていることを受容してもらった上で,相手の気持ちなどを伝えてもらえれば,他の人には他の人の感じ方があることに目を向けやすくなったと思われる。加えて,自分のこだわりを他の人に求めずに気持ちを収めるための方法を教えてもらえれば生活しやすかっただろう。
また,私は相手の話を聞いて,その言葉の意味を受け取ることが苦手である。その理由は,相手の話している声は「音」として聞こえてくるが,それぞれの単語までがよく聞き取れない。音の塊が耳に届くという状態である。相手の話を聞かずに勝手に行動すると叱られ,聞き返すようにしても,「集中していないからだ」と怒られたり,周囲から煙たがられたりする。今でも,聞き取れた言葉をつないでいき,憶測で会話をすることがよくあるが,音を言葉として認識することが苦手である人がいることを大人には知ってほしい。