10:00 〜 12:00
[JD03] 学校における学習障害への支援の展開
見る・読む・書くへの支援と配慮
キーワード:学習障害, ICT, ビジョントレーニング
企画主旨
(斎藤富由起・守谷賢二・吉森丹衣子)
平成18年に「学校教育法等の一部を改正する法律」が公布され,平成19年に施行された。この改正により,名称は「特殊教育」から「特別支援教育」へと変更され,学習障害が支援の対象範囲に含まれるようになった。しかし学習障害については,このような動きが現れる以前から,個別的な対応が検討されてきた。文部科科学省は,平成7年には学習障害の定義,実態の把握,指導方法等について中間報告を提出している。そして,平成11年には,それまでの調査結果を「学習障害児に対する指導について(報告)」としてまとめており,「読み書き」への支援として,パソコンやワープロの使用や担任の個チームティチングの利用,通級教室の設置の必要性が指摘されている。
しかし,未だに学習障害への支援は十分なものとはいえない。ワープロやパソコンの利用についても,ICTの技術進歩についていける学校は少数だろう。また現在では,「読み書き」の困難については,「視機能」という新たな視点と支援スキルが報告されているが,児童生徒が本を読み,字を書くために,具体的に教室でどのような支援を行えばよいのかという事例検討も乏しい状態にある。
本シンポジュウムでは,授業の根本的なリテラシーである「見る・読む・書く」という原点に立ち返り,今一度,学習障害のある児童生徒の困り感と支援ニーズを確認する。そして,「見る・読む・書く」に関する新たな支援方法の実際にについて検討したい。
本シンポジュウムでは,学習障害の当事者学と家族の声を確認するため,NPO法人EDGEから藤堂栄子氏をお招きし,学習障害の当事者の語りから得られた困り感と支援ニーズを基調報告として,次にICT機器による「見る・読む・書く」のための支援ツールの最先端を小川修史氏からご紹介いただく。また「見る・読む・書く」を視機能の観点から支援するスキルとして近年,ビジョントレーニングが非常に注目されている。しかし,ビジョントレーニングの教室の実際例の報告は非常に少なく,データも乏しい状態にある。本シンポジュウムでは,井坂幸恵氏と竹本晴香氏による「教室でのビジョントレーニングの実際と効果」についてデータを含めて紹介する。最後に,よりよい支援の方法について参加者と検討・共有できれば幸いである。
基調報告
学習障害の当事者が述べる学校生活上の困まり感
(藤堂栄子)
2007年に特別支援教育に関する制度が正式に施行されて以降,教育現場では発達障害への理解と支援が進められている。そのため,教育領域に携わる者で「学習障害」,や「LD」という言葉を聞いたことがない者や,それらが具体的にどのような症状を示すのかについて知らない者はいないだろう。学校内では,必要に応じて,通級教室の利用や,教室内での具体的な支援や配慮も実践されている。
支援を行う際に重要なことは,適切に子どものニーズを把握することである。しかし,障害の理解が進む中で,実施される支援や配慮は,「学習上の苦手」ばかりに集中する傾向が見られる。また,同じ障害を持っていたとしても,ニーズは個々人によって異なるのに対し,障害の枠組みから見た一辺倒な支援が実施されている様子もうかがえる。
子どもが自分のニーズを正確に主張するのは容易ではない。そのため,適切な支援を実践するためにも,支援者側には,的確にニーズを把握する力が求められている。
そこで本シンポジュウムでは,学習障害の当事者が,学習面・行動面で感じる困難とニーズについて,学習障害の1つであるディスレクシアを持つ子どもの保護者であり,これまで多くの当事者と関わってきた立場から,求められる支援(特に学校での理解と支援ニーズ)について報告を行う。
話題提供1
ICT教材を利用した学習障害への支援
(小川修史)
平成25年の閣議決定で,子どもたちの確かな学力育成のために,ICT(情報通信技術)教材の積極的な活用の推進が決定された。これにより,学校内のICT環境整備が促進され,電子黒板やデジタル教材が積極的に利用され始めている。
学校で使用される主なICTとしては,パソコン,タブレットPC,電子黒板,プロジェクターなどがあげられる。これらの活用は,学力の育成だけではなく,発達障害を抱える子どもたちへの支援ツールとしても注目されている。
具体的には,ICT教材を利用することにより,例えば「書字が困難な子どもがタブレットに文字を打ち込むという形でノートを取る」など,障害によって生じる「読む」,「書く」,「意思を伝える」,「話を聞く」領域の困難に対して強力な支援が可能となる。特に学習障害特有の症状である「読み書き」の困難に対しては,いくつかの学習教材の製作が進められている(e.g. デイジー)が,学校内のICT環境が整備されることで,より支援の幅は広がりを持ち始めている。しかし,この分野の発展は急速であると同時に,ICTを支援ツールとしてクラスに導入する段取りも必要となる。
そこで本シンポジュウムでは,ICT教材の活用が進められている学習障害への支援について,子どものニーズに合わせたICT教材の利用法と,教室で実践できるICTの具体的な使用例,クラス導入における留意点について紹介する。
話題提供2
通常学級・通級教室で実践するビジョントレーニング
(井坂幸恵・竹本晴香)
読み書きに困難を抱える子どもたちの中には,視機能に課題を持つ子どもがいる。大嶋ら(2012)は,公立小学校の4~6年生163名に対し,読み書きの困難に関する自覚症状のアンケート調査と,視機能検査を実施した。その結果,13名(8%)が強い自覚症状を示し,視機能検査においても視機能の低下が認められた。
読み書きには,単に視力だけではなく,跳躍性眼球運動,追従性眼球運動など,さまざまな視機能が関わっている。そのため,これらの機能に何らかの課題を抱えている場合,円滑な学習に支障が生じる。
しかし,学習に何らかの課題が見受けられた場合でも,視機能に注目が向けられるというのは,未だに「一般的」ではない。そのため,発見と対応に遅れが生じる。
視機能の課題に対して近年,ビジョントレーニングが注目されている。しかし,実際に学校でビジョントレーニングを「どのように」「どれだけ」実施すれば「どのような」効果がでるのかという報告は非常に乏しい。本シンポジュウムでは小学校教員である井坂とビジョントレーニングのトレーナーである竹本による通常学級および言葉と聞こえの教室での1年にわたる介入の事例と効果を報告する。
指定討論
本シンポジュウムの指定討論は,長年スクールカウンセラーとして学校に勤務し,子どもの支援について研究・実践を行っている守谷賢二と,子どもと情報処理と情報教育を専門のとする小野淳,ビジョントレーニングを取り入れた学級単位のSSTを実践している斎藤富由起である。
守谷は学校内での子どもの支援を熟知した立場から,把握されづらい子どものニーズについて検討する。小野はICT活用の観点から,斎藤は学校での支援体制をどう作るかという観点から,それぞれ質問を行う。
学習障害という概念を教育現場で聞かない日はないほど,当事者とその家族,教師,SCらはその支援課題に取り組んでいる。それと比例して,支援の方法や手段も日々発展している。
本シンポジュウムが,教育現場で学習障害を抱える子どもの支援に,新たな知識と気づきを与えるものとなれば幸いである。
(斎藤富由起・守谷賢二・吉森丹衣子)
平成18年に「学校教育法等の一部を改正する法律」が公布され,平成19年に施行された。この改正により,名称は「特殊教育」から「特別支援教育」へと変更され,学習障害が支援の対象範囲に含まれるようになった。しかし学習障害については,このような動きが現れる以前から,個別的な対応が検討されてきた。文部科科学省は,平成7年には学習障害の定義,実態の把握,指導方法等について中間報告を提出している。そして,平成11年には,それまでの調査結果を「学習障害児に対する指導について(報告)」としてまとめており,「読み書き」への支援として,パソコンやワープロの使用や担任の個チームティチングの利用,通級教室の設置の必要性が指摘されている。
しかし,未だに学習障害への支援は十分なものとはいえない。ワープロやパソコンの利用についても,ICTの技術進歩についていける学校は少数だろう。また現在では,「読み書き」の困難については,「視機能」という新たな視点と支援スキルが報告されているが,児童生徒が本を読み,字を書くために,具体的に教室でどのような支援を行えばよいのかという事例検討も乏しい状態にある。
本シンポジュウムでは,授業の根本的なリテラシーである「見る・読む・書く」という原点に立ち返り,今一度,学習障害のある児童生徒の困り感と支援ニーズを確認する。そして,「見る・読む・書く」に関する新たな支援方法の実際にについて検討したい。
本シンポジュウムでは,学習障害の当事者学と家族の声を確認するため,NPO法人EDGEから藤堂栄子氏をお招きし,学習障害の当事者の語りから得られた困り感と支援ニーズを基調報告として,次にICT機器による「見る・読む・書く」のための支援ツールの最先端を小川修史氏からご紹介いただく。また「見る・読む・書く」を視機能の観点から支援するスキルとして近年,ビジョントレーニングが非常に注目されている。しかし,ビジョントレーニングの教室の実際例の報告は非常に少なく,データも乏しい状態にある。本シンポジュウムでは,井坂幸恵氏と竹本晴香氏による「教室でのビジョントレーニングの実際と効果」についてデータを含めて紹介する。最後に,よりよい支援の方法について参加者と検討・共有できれば幸いである。
基調報告
学習障害の当事者が述べる学校生活上の困まり感
(藤堂栄子)
2007年に特別支援教育に関する制度が正式に施行されて以降,教育現場では発達障害への理解と支援が進められている。そのため,教育領域に携わる者で「学習障害」,や「LD」という言葉を聞いたことがない者や,それらが具体的にどのような症状を示すのかについて知らない者はいないだろう。学校内では,必要に応じて,通級教室の利用や,教室内での具体的な支援や配慮も実践されている。
支援を行う際に重要なことは,適切に子どものニーズを把握することである。しかし,障害の理解が進む中で,実施される支援や配慮は,「学習上の苦手」ばかりに集中する傾向が見られる。また,同じ障害を持っていたとしても,ニーズは個々人によって異なるのに対し,障害の枠組みから見た一辺倒な支援が実施されている様子もうかがえる。
子どもが自分のニーズを正確に主張するのは容易ではない。そのため,適切な支援を実践するためにも,支援者側には,的確にニーズを把握する力が求められている。
そこで本シンポジュウムでは,学習障害の当事者が,学習面・行動面で感じる困難とニーズについて,学習障害の1つであるディスレクシアを持つ子どもの保護者であり,これまで多くの当事者と関わってきた立場から,求められる支援(特に学校での理解と支援ニーズ)について報告を行う。
話題提供1
ICT教材を利用した学習障害への支援
(小川修史)
平成25年の閣議決定で,子どもたちの確かな学力育成のために,ICT(情報通信技術)教材の積極的な活用の推進が決定された。これにより,学校内のICT環境整備が促進され,電子黒板やデジタル教材が積極的に利用され始めている。
学校で使用される主なICTとしては,パソコン,タブレットPC,電子黒板,プロジェクターなどがあげられる。これらの活用は,学力の育成だけではなく,発達障害を抱える子どもたちへの支援ツールとしても注目されている。
具体的には,ICT教材を利用することにより,例えば「書字が困難な子どもがタブレットに文字を打ち込むという形でノートを取る」など,障害によって生じる「読む」,「書く」,「意思を伝える」,「話を聞く」領域の困難に対して強力な支援が可能となる。特に学習障害特有の症状である「読み書き」の困難に対しては,いくつかの学習教材の製作が進められている(e.g. デイジー)が,学校内のICT環境が整備されることで,より支援の幅は広がりを持ち始めている。しかし,この分野の発展は急速であると同時に,ICTを支援ツールとしてクラスに導入する段取りも必要となる。
そこで本シンポジュウムでは,ICT教材の活用が進められている学習障害への支援について,子どものニーズに合わせたICT教材の利用法と,教室で実践できるICTの具体的な使用例,クラス導入における留意点について紹介する。
話題提供2
通常学級・通級教室で実践するビジョントレーニング
(井坂幸恵・竹本晴香)
読み書きに困難を抱える子どもたちの中には,視機能に課題を持つ子どもがいる。大嶋ら(2012)は,公立小学校の4~6年生163名に対し,読み書きの困難に関する自覚症状のアンケート調査と,視機能検査を実施した。その結果,13名(8%)が強い自覚症状を示し,視機能検査においても視機能の低下が認められた。
読み書きには,単に視力だけではなく,跳躍性眼球運動,追従性眼球運動など,さまざまな視機能が関わっている。そのため,これらの機能に何らかの課題を抱えている場合,円滑な学習に支障が生じる。
しかし,学習に何らかの課題が見受けられた場合でも,視機能に注目が向けられるというのは,未だに「一般的」ではない。そのため,発見と対応に遅れが生じる。
視機能の課題に対して近年,ビジョントレーニングが注目されている。しかし,実際に学校でビジョントレーニングを「どのように」「どれだけ」実施すれば「どのような」効果がでるのかという報告は非常に乏しい。本シンポジュウムでは小学校教員である井坂とビジョントレーニングのトレーナーである竹本による通常学級および言葉と聞こえの教室での1年にわたる介入の事例と効果を報告する。
指定討論
本シンポジュウムの指定討論は,長年スクールカウンセラーとして学校に勤務し,子どもの支援について研究・実践を行っている守谷賢二と,子どもと情報処理と情報教育を専門のとする小野淳,ビジョントレーニングを取り入れた学級単位のSSTを実践している斎藤富由起である。
守谷は学校内での子どもの支援を熟知した立場から,把握されづらい子どものニーズについて検討する。小野はICT活用の観点から,斎藤は学校での支援体制をどう作るかという観点から,それぞれ質問を行う。
学習障害という概念を教育現場で聞かない日はないほど,当事者とその家族,教師,SCらはその支援課題に取り組んでいる。それと比例して,支援の方法や手段も日々発展している。
本シンポジュウムが,教育現場で学習障害を抱える子どもの支援に,新たな知識と気づきを与えるものとなれば幸いである。