10:00 AM - 12:00 PM
[JD04] 日本におけるレジリエンス心理教育の展開
小学生,中高校生,大学生へのそれぞれの取り組みから
Keywords:レジリエンス, 心理教育, 予防的介入
企画趣旨
子どもから大人まで,いじめや不登校,抑うつや不安など様々な心理的課題を抱える現代社会においては,心身の健全な育成や維持のために,治療的観点からだけなく予防的観点からの支援や介入が求められている。このような背景から,逆境や困難から立ち直る心理的な力(レジリエンス)を育むことが,年齢を問わず,教育や心理支援における重要なテーマとして注目され始めている。すでに海外においては,発達早期からレジリエンスを育成する必要性が提唱され,様々な教育的プログラムの効果が報告されているが,近年,日本においても様々な年齢の対象者に対する予防的介入としての「レジリエンス心理教育」が導入されるようになってきた。
本シンポジウムでは,現在日本国内で行われている「レジリエンス心理教育」の取り組みについて,小学生,高校生,大学生という異なる年代を対象とした実践と研究を,それぞれの現場から報告する。その上で,本邦におけるレジリエンス心理教育実践の課題と展望について,フロアとのディスカッションも含めて議論を深めたい。
小中学校の授業で使える教材の開発
上島 博
2006年,主に小中学校の教員や養護教員で「子どものレジリエンス研究会」を作り実践的研究を始めた。当時,心理教育的アプローチとしては自尊感情の向上のみがクローズアップされていることに疑問を抱き,広く「心の力」を育成する必要を感じたからである。
具体的には,すべての教員が同じように授業ができるように,ワークシートの開発を主に行ってきた。我々は研究者ではないが,日ごろ子どもに接している強みを生かして分かりやすい教材を作るよう努めてきた。主に一斉授業で使うことを想定しているので,「治療」や「支援」より「育成」や「予防」がねらいとなる。また,指導者の力量や子どもの特性も様々であるため,カウンセリングのように心に「深く」入っていく内容にはせずに,比較的「安全」に取り組めるものにした。
2010年,オーストラリアのブリスベンで,レジリエンス育成プログラムであるフレンズとキッズマターの実践校や研究所への教育視察を実施した。そこで学んだことを生かし,日本の学校で使いやすい教材をさらに作成した。細々とではあるが,回を重ねることで多くの教材が出来,現在発表しているだけで150を越えた(2009明治図書,2015明治図書,2016合同出版等)。教材の選択肢が増えることによって,様々な実態や教育課題に応じた教材を選びやすくなっている。
現段階では,実践記録の積み重ねやエビデンスはまだまだ不足しているが,今後研究者の助けを借りて,学校におけるレジリエンス教育の可能性をさらに追求したい。
長期留学をする高校生に対するレジリエンス教育の3年間の実践と効果
鈴木水季
話題提供者は,勤務する私立中高一貫校に於いて,スクールカウンセラー(以下SC)として中学生及び高校生に対してレジリエンス心理教育の実践を行っている。
高校2年生次に全員が長期海外留学をする当高校では,留学に備えて生徒の対処力を高めたいという教師のニーズがあり,SCの提案によりレジリエンス心理教育授業が導入された。今回実施したプログラムは,英国で開発された「SPARKレジリエンスプログラム」(Boniwell & Ryan, 2009)を授業回数,内容等においてローカライズしたものである。「SPARKレジリエンスプログラム」は,ポジティブ心理学,レジリエンス研究,PTG(心的外傷後の成長),認知行動療法の4つの実証研究に基づいており,本実践ではレジリエンスについての知識を学びながら,生徒それぞれがワークやロールプレイを通して体験的に自分自身のレジリエンスに向き合い,向上させていくことをねらいとした6回の授業から構成した。留学を控えた1年次に復習を含めた7回の授業を実施した上で,帰国後と受験期にそれぞれ1回ずつの復習授業を行った。この3年間の実践の中で,研究者,教師との協働を通して,生徒たちのレジリエンスに焦点をあてた心理評定を実施し,縦断的な効果測定を行ってきた。本発表では,「レジリエンスプログラム」の内容及び3年間を通した生徒たちの心理評価得点の変化からみたプログラムの効果,また卒業時の生徒達に行ったインタビューから読み取れるプログラムの実際的な効用や生徒たちのレジリエンスの育ちの様相についても報告したい。
大学生対象のレジリエンスプログラムの実践に関する報告
小林美佐子
本発表では,大学院生や,大学アメリカンフットボール部の学生,芸術専攻の学生を対象に実践したレジリエンスプログラムについて話題提供を行う。プログラムは「SPARKレジリエンスプログラム」(Boniwell & Ryan, 2009)をもとに,感情状態への気づき,マインドフルネス呼吸法,強みの再確認,対処行動の習得といった内容を含み,大学生にネガティブな状況や落ち込みから早く回復するためのスキル獲得を目指すものである。プログラムの時間は,芸術専攻の学生へは授業の中に組み込む形で,連続2コマで行った。アメリカンフットボール部の学生へは授業終了後の部活の時間に,2週に渡り1コマずつ実施した。大学生への感情教育やメンタルヘルス対策が求められる中,レジリエンスプログラムを行う時間を確保することの困難さなど,レジリエンス教育の実践には課題も多い。これまで複数の大学でレジリエンスプログラムを実施した経緯とともに,現場での反応と成果と課題を提示する。また話題提供者は大学生の生活に関わる職場でさまざまな学生たちと関わることも多いことから,現在の大学生を取り巻く環境の現状についても報告する。そして就職活動を経験した学生へのインタビュー調査の内容もふまえ,大学生のストレスや不安との関連とともに論じていきたい。
子どもから大人まで,いじめや不登校,抑うつや不安など様々な心理的課題を抱える現代社会においては,心身の健全な育成や維持のために,治療的観点からだけなく予防的観点からの支援や介入が求められている。このような背景から,逆境や困難から立ち直る心理的な力(レジリエンス)を育むことが,年齢を問わず,教育や心理支援における重要なテーマとして注目され始めている。すでに海外においては,発達早期からレジリエンスを育成する必要性が提唱され,様々な教育的プログラムの効果が報告されているが,近年,日本においても様々な年齢の対象者に対する予防的介入としての「レジリエンス心理教育」が導入されるようになってきた。
本シンポジウムでは,現在日本国内で行われている「レジリエンス心理教育」の取り組みについて,小学生,高校生,大学生という異なる年代を対象とした実践と研究を,それぞれの現場から報告する。その上で,本邦におけるレジリエンス心理教育実践の課題と展望について,フロアとのディスカッションも含めて議論を深めたい。
小中学校の授業で使える教材の開発
上島 博
2006年,主に小中学校の教員や養護教員で「子どものレジリエンス研究会」を作り実践的研究を始めた。当時,心理教育的アプローチとしては自尊感情の向上のみがクローズアップされていることに疑問を抱き,広く「心の力」を育成する必要を感じたからである。
具体的には,すべての教員が同じように授業ができるように,ワークシートの開発を主に行ってきた。我々は研究者ではないが,日ごろ子どもに接している強みを生かして分かりやすい教材を作るよう努めてきた。主に一斉授業で使うことを想定しているので,「治療」や「支援」より「育成」や「予防」がねらいとなる。また,指導者の力量や子どもの特性も様々であるため,カウンセリングのように心に「深く」入っていく内容にはせずに,比較的「安全」に取り組めるものにした。
2010年,オーストラリアのブリスベンで,レジリエンス育成プログラムであるフレンズとキッズマターの実践校や研究所への教育視察を実施した。そこで学んだことを生かし,日本の学校で使いやすい教材をさらに作成した。細々とではあるが,回を重ねることで多くの教材が出来,現在発表しているだけで150を越えた(2009明治図書,2015明治図書,2016合同出版等)。教材の選択肢が増えることによって,様々な実態や教育課題に応じた教材を選びやすくなっている。
現段階では,実践記録の積み重ねやエビデンスはまだまだ不足しているが,今後研究者の助けを借りて,学校におけるレジリエンス教育の可能性をさらに追求したい。
長期留学をする高校生に対するレジリエンス教育の3年間の実践と効果
鈴木水季
話題提供者は,勤務する私立中高一貫校に於いて,スクールカウンセラー(以下SC)として中学生及び高校生に対してレジリエンス心理教育の実践を行っている。
高校2年生次に全員が長期海外留学をする当高校では,留学に備えて生徒の対処力を高めたいという教師のニーズがあり,SCの提案によりレジリエンス心理教育授業が導入された。今回実施したプログラムは,英国で開発された「SPARKレジリエンスプログラム」(Boniwell & Ryan, 2009)を授業回数,内容等においてローカライズしたものである。「SPARKレジリエンスプログラム」は,ポジティブ心理学,レジリエンス研究,PTG(心的外傷後の成長),認知行動療法の4つの実証研究に基づいており,本実践ではレジリエンスについての知識を学びながら,生徒それぞれがワークやロールプレイを通して体験的に自分自身のレジリエンスに向き合い,向上させていくことをねらいとした6回の授業から構成した。留学を控えた1年次に復習を含めた7回の授業を実施した上で,帰国後と受験期にそれぞれ1回ずつの復習授業を行った。この3年間の実践の中で,研究者,教師との協働を通して,生徒たちのレジリエンスに焦点をあてた心理評定を実施し,縦断的な効果測定を行ってきた。本発表では,「レジリエンスプログラム」の内容及び3年間を通した生徒たちの心理評価得点の変化からみたプログラムの効果,また卒業時の生徒達に行ったインタビューから読み取れるプログラムの実際的な効用や生徒たちのレジリエンスの育ちの様相についても報告したい。
大学生対象のレジリエンスプログラムの実践に関する報告
小林美佐子
本発表では,大学院生や,大学アメリカンフットボール部の学生,芸術専攻の学生を対象に実践したレジリエンスプログラムについて話題提供を行う。プログラムは「SPARKレジリエンスプログラム」(Boniwell & Ryan, 2009)をもとに,感情状態への気づき,マインドフルネス呼吸法,強みの再確認,対処行動の習得といった内容を含み,大学生にネガティブな状況や落ち込みから早く回復するためのスキル獲得を目指すものである。プログラムの時間は,芸術専攻の学生へは授業の中に組み込む形で,連続2コマで行った。アメリカンフットボール部の学生へは授業終了後の部活の時間に,2週に渡り1コマずつ実施した。大学生への感情教育やメンタルヘルス対策が求められる中,レジリエンスプログラムを行う時間を確保することの困難さなど,レジリエンス教育の実践には課題も多い。これまで複数の大学でレジリエンスプログラムを実施した経緯とともに,現場での反応と成果と課題を提示する。また話題提供者は大学生の生活に関わる職場でさまざまな学生たちと関わることも多いことから,現在の大学生を取り巻く環境の現状についても報告する。そして就職活動を経験した学生へのインタビュー調査の内容もふまえ,大学生のストレスや不安との関連とともに論じていきたい。