The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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自主企画シンポジウム

就職活動研究の最新動向とその応用可能性

研究と実践をつなぐ試み (1)

Sun. Oct 9, 2016 1:30 PM - 3:30 PM 54会議室A (5階54会議室A)

企画:水野雅之(国立精神・神経医療研究センター), 小菅清香(学習院大学大学院)
司会:水野雅之(国立精神・神経医療研究センター), 小菅清香(学習院大学大学院)
話題提供:水野雅之(国立精神・神経医療研究センター), 小菅清香(学習院大学大学院), 宮川裕基#(帝塚山大学大学院)
指定討論:佐藤純(茨城県立医療大学)
指定討論:永作稔(駿河台大学),

1:30 PM - 3:30 PM

[JE04] 就職活動研究の最新動向とその応用可能性

研究と実践をつなぐ試み (1)

水野雅之1, 小菅清香2, 宮川裕基#3, 佐藤純4, 永作稔5 (1.国立精神・神経医療研究センター, 2.学習院大学大学院, 3.帝塚山大学大学院, 4.茨城県立医療大学, 5.駿河台大学)

Keywords:就職活動, 研究と実践

企画趣旨
(水野雅之・小菅清香)
 近年,就職活動は非常に過酷な選抜競争の中で行われている。新聞報道によると,不採用を繰り返し経験することによって,抑うつ状態に陥ったり,自己肯定感が低下するなど,精神的健康を害する学生が増えているという(朝日新聞, 2010)。実証研究においても,就職活動には不安やストレスが伴うことが示されている(北見・森, 2010; 松田・永作・新井, 2010)。
 また,日本の就職活動は各社横並びのスケジュールで進むため,ある時期に適切に活動をしないと,その後の就職活動が不利になるという特徴がある(濱中, 2007)。つまり,先の現状も鑑みれば,学生は不安を抱えながら,就職達成まで活動の継続を強いられているといえる。ゆえに,就職活動中の学生の精神的適応を支えるにはどのようにすればいいのか,明らかにすることは急務である。加えて,活動中の精神的適応がいくら良好であろうと,最終的に内定を獲得できなければ意味がない。すなわち,内定獲得や就職達成といった目標に向けて,どのような行動をとることが適切であるのか,その点を明らかにすることも重要である。
 以上をまとめると,現在の就職活動研究においては,不適応に陥る学生が多いことから支援に役立てられるような研究が求められる。そのためには,(1) 活動中の精神的適応を支援する研究と(2) 内定獲得や就職といった目標の達成を支援する研究の両方が重要であると言える。
 本シンポジウムでは,このような問題意識を共有し,就職活動の支援といった喫緊の課題に取り組む研究者から,その最新の研究成果を紹介するとともに,その研究成果の支援の現場への応用可能性を論じる。その後,学生への支援経験の豊富な指定討論者やフロアの先生方と議論を深めたい。
話題提供1
「就職活動とサポート資源の関連」
(水野雅之)
 就職活動は学生にとって新奇な活動であり,その過程で生じる課題を自身の力のみで解決していくことは難しい。どのようにエントリーシートを書くのか,どのように面接で自己アピールをするのかといった具体的なレベルから,いつまで就職活動が継続するのかといった抽象的なレベルまで,様々な悩みや問題に直面する。また,就職活動では繰り返し評価に曝されることから,不安を感じたり,ストレスを抱えたりすることもある。このようなときに,自身の周囲にあるサポート資源を上手に見つけ出し,活用していくことが重要であろう。
 しかしながら,課題に直面したときに,だれかれかまわず,サポートを求めれば良いというわけではない。ソーシャルサポートの研究の文脈では,そのサポートの適合性(嶋, 1992)が論じられてきた。就職活動に伴って生じる問題に有効なサポートを提供してくれる資源からのサポートを求めるべきであろう。また,支援のターゲットを絞るという観点からも,有効なサポートを提供してくれる資源を明らかにすることは有益である。
 そこで,まず本報告では就職活動中の精神的適応と活動量に影響を及ぼす,サポート資源について明らかにした研究を報告する。その後,就職活動の過程で有用であることが示されたサポートを利用する際の促進要因と抑制要因を明らかにした研究を参照しながら,キャリア教育や就職活動支援への応用を提案する。
話題提供2
「内定獲得へ寄与する目標と行動」
(小菅清香)
 昨今,内定をとれる学生とそうでない学生の二極化が顕現化している(労働政策・研修機構, 2010)。その背景として,大学のキャリアセンターで報告されているのは「就職活動の取り組み状況の個人差が大きくなった」ことである。したがって,本報告では,これらの個人差をもたらす主要な要因とされてきた,個人が追求する目標に着目して報告を行う。
 従来,「将来○○に就きたい」といったビジョンである,雇用目標(employment goal)の重要性が強調されてきた(Kanfer, Wanberg, & Kantrowitz, 2001)。しかし,日本の就職活動は選考プロセスが短期に集中しているため,適切な時期に活動しなければ内定を獲得できない。ゆえに,将来のビジョンを持つのみでは適切な時期に行動を開始するのに不十分であり,説明会参加,エントリーなどの個々の活動につながる行動目標を適宜設定することが重要となる。したがって,内定獲得という成果を求める過程では,将来何になりたいかといった雇用目標よりも,直近で機能することが想定される,「就職活動中に自身はどのように行動したいか」といった就職活動目標(job search objectives)の役割を考慮することが有用であろう。
 以上のことを踏まえ,本報告では3時点での縦断調査から得られたデータを元に,内定獲得者と未内定者の比較を通して,彼らが活動中に重視していた目標とその活動の差異について検討する。内定へとつながる「適切な行動」とは何か,それらを導くための支援はどのようにあればよいかについて議論できればと考えている。
話題提供3
「就職活動を支える心理的資源の検討―セルフコンパッションに着目して―」
(宮川裕基)
 青年にとって,就職活動は社会人としての一歩を踏み出すための重要な移行課題とされる。しかしながら,多くの青年が就職活動に不安を感じ,精神的不調を訴えることもある (松田・新井・佐藤,2010)。また,就職活動は努力しても必ず成果に結びつくとは限らず (佐藤,2014), 学生は幾多の不採用を経験する。それゆえ,輕部・佐藤・杉江 (2014,2015) は,就職活動は不採用経験を繰り返し乗り越えていく過程であると論じている。このような就職活動の性質を踏まえて,松田他 (2010) は,就職活動を支える心理的要因を明らかにする研究の重要性を論じている。それでは,どのような心理的資源が就職活動を乗り越える上で,重要となるのであろうか。本報告では,その1つとして,セルフコンパッション (Neff,2011) を提唱したい。
 セルフコンパッションとは,困難な状況において,思いやりの気持ちを持って自己と関わることであり,具体的には以下の3要素から構成される (Neff,2011)。それらは,(a) 自己の感情状態や困難な状況をバランス良く捉え,(b) 人として誰でも弱みがあると自己と他者の共通性を意識し, (c) 自己に心優しくすることである。諸外国の研究では,セルフコンパッションが高い人は精神的に健康であり,困難な状況から自己改善的な努力をすることが示され (Breines & Chen,2012; Neff,2003),本邦においても,心理的適応との関連性が報告されている (有光,2014; 宮川・谷口,2016)。
 本報告では,セルフコンパッションが,就職試験の不採用を経験しても,就職活動を継続するための心理的資源になり得るのかを,場面想定法にて検討した研究を紹介する。その後,近年注目されているセルフコンパッションを高めるアプローチ (e.g., Neff & Germer,2013) を紹介し,その方法の就職活動支援への応用可能性について論じる。