16:00 〜 18:00
[JF07] 発達障害と不登校への相談支援の実践研究
学校や地域における教育相談システムの構築
キーワード:発達障害, 不登校, 相談支援
企画趣旨
/橋本創一
本シンポジウムは,国立大学教育実践研究関連センター協議会「教育臨床部会」の研究ネットワークを活用して,発達障害と不登校における学校不適応の問題を整理すると共に,ローカルエリアの相談支援事例を通して,さまざまな教育フィールドにおける教育相談システムの最適化・展開について討論する.具体的に,発達障害と不登校について,学校,放課後等児童デイサービス,適応指導教室の実践を通した教育活動の場や児童生徒の発達段階,携わる支援者からアプローチする。
話題提供
適応指導教室を中心とした不登校児童生徒への支援
―支援者支援の視点から―
/尾崎啓子
不登校をはじめとする学校不適応の児童生徒への支援では,子ども本人の支援はもちろんのこと,保護者,教師を含めた支援者への支援の必要性が高いことは言うまでもない。近年,学校現場には,スクール・カウンセラー,スクール・ソーシャルワーカーなど一定の資格が求められる支援者の他に,特別支援教育支援員,学習支援員,学校ボランティアといった様々な名称・雇用形態のサポーター(以下,支援員と記す)が入り,主に発達に課題のある児童生徒の支援にあたっている。これら支援員の業務には,支援対象の児童生徒への個別対応だけでなく,周りの児童生徒への障害理解促進や保護者対応も含まれる場合があるが,責任の重さに比べ,教師との連携の機会や研修機会のようなサポートの少なさが課題であると考える。
発表者は,平成17年度から今日まで,所属大学の附属特別支援学校内に地域貢献を目的として開設した相談支援室の活動として,埼玉県内の学校巡回要請訪問(学校コンサルテーション)を行っている。また県北の市で適応指導教室の研修支援も続けている。約10年間の活動をふり返ると,相談内容が不登校・いじめ対応から広がり,発達障害・家族の問題・貧困・外国人生徒の適応(異文化理解)・親の養育力低下など,社会の変化がそのまま反映されたものへと変わってきている。研修内容も知識の拡充に留まらず事例研究や話し合いなど,事例理解を深めるとともに具体的な対応法が求められていると感じる。課題が多い学校ほど支援員に対する期待は大きく,支援員のバーンアウトを防ぐ観点からの支援も重要である。本話題提供では,主に上記の適応指導教室での研修実践を報告し,支援員支援を通した不登校児童生徒への支援について考えてみたい。
放課後等デイサービスが担う発達障害児への支援の機能と課題
/石本雄真
2012年に創設された放課後等デイサービスは,2012年から2014年にかけて事業所数が約1.7倍に増加し,それに伴って利用者数も急激に増加している。2014年9月現在では86,524人の利用者がおり,今後もさらなる増加が見込まれる。放課後等デイサービスの利用者は発達障害児に限らないものの,中心的な利用者は発達障害児であり発達障害児への地域における継続的な支援の担い手としてその存在感が高まっているといえる。放課後等デイサービスは,障害をもつ小中高校生を対象に生活能力の向上のために必要な訓練,社会との交流の促進その他の便宜を供与するものとされているが,児童発達支援管理責任者を1名置くこと以外に職員の資格要件は規定されておらず,具体的な支援内容についても明確には規定されていない。このため,事業所によってさまざまな専門性をもつ職員が勤務していることや,行われている支援の内容も様々であることが予想されるが,実際にどのような専門性をもつ職員が勤務しておりどのような支援を行っているのかについては明らかではない。また,必ずしも障害児の支援に関して専門性のある職員が勤務しているとは限らないことから,支援の際には外部の専門家との連携も重要であると考えられるが,実際にどのような連携が行われているのかについても定かではない。本話題提供では,放課後等デイサービスを対象に,職員の専門性,支援内容,他の専門家との連携等について尋ねたアンケート調査の結果から放課後等デイサービスの現状を示し,放課後等デイサービスが地域における発達障害児への重要な支援機関として機能するための課題と対策についても提示したい。
適応指導教室における学生サポーターの役割と存在意義
/吉崎聡子
弘前大学教育学部では,平成11年より,学部3,4年生の希望者を,選抜の上で不登校生支援のための学生サポーターとして,地域の適応指導教室へ派遣する事業を行ってきた。具体的には,学生サポーターは原則週1回半日,適応指導教室へ行き,適応指導教室指導員の下で,通室生の支援活動を行う。活動内容は,学習指導やレクリエーション活動の補助など,通室生と関わる活動が多い。学生サポーターはこの支援活動を通して,学校現場が抱える問題の一つである,不登校の現状やその対応について実地で学ぶ機会を得ているといえよう。中教審答申(2015)では,これからの教員養成における課題として,学校現場や教職に関する体験機会の充実の必要性を挙げており,当該事業はこの課題に対応する事業であるといえよう。長年この事業に関わった豊嶋(2013)は,学生サポーターは,適応指導教室での支援活動を通して,自己の不確実感と直面し,通室生との関わり方を模索する中で,適応支援者としての自己像を構築していくと述べる。学生サポーターの適応支援者としての発達については,豊嶋・長谷川・加川 (2002),豊嶋(2013)に詳しい。本話題提供では,学生サポーターが通室生との関わりの中で得た気づきについて,テキストマイニングの手法を用い分析した結果から,適応指導教室における不登校生支援について報告する。併せて学生サポーターの存在意義についても検討したい。具体的には,学生サポーターに対して,通室生の状態・言動の「背景」に対する気づきや理解を,そのきっかけとなった事柄とともに自由記述にて回答を求めた。彼らの個々の回答からは,日常では見逃してしまいそうな出来事,会話,表情,態度など通室生の示すサインを丁寧に拾い上げ,そこから背景について思い巡らせる様が見て取れた。これをテキストマイニングによって全体的な傾向にまとめ,学生サポーターが適応指導教室における通室生支援に果たす役割について検討したい。
私立中高一貫校におけるスクールカウンセリングの実践
/三浦巧也
首都圏の私立学校では中高一貫校が約300校あり,近年では中高一貫校への入学選択理由として学業実績(大学進学)以外にも,6年一貫教育を選択する生徒が多いことが示されている。私立中高一貫校では,学年団を担当する担任や主任が6年間継続して学年を受け持つことや,養護教諭やスクールカウンセラー(以下,SC)による生徒の心理発達面の情報共有も比較的柔軟になされていることが推測されている。しかしながら,これまでの研究において,私立中学に入学したものの,上手く適応出来ずに苦しんでいる生徒が存在することが明らかとなった。彼らへの支援では,教師の生徒理解及び生徒自身の自己理解が促されることが重要であると指摘されている。発達障害またはその疑いのある生徒への支援では,生徒の特別な支援ニーズを早期に把握し,特性に応じた支援を実施していくことが重要となる。しかしながら,私立中高一貫校においてそうした予防的支援が未だ浸透していないことが課題である。そこで,私立校では,特にSCが求められる支援を察知して,学校へ積極的に関わることが期待されている。私立中高一貫校では,公立校に比べてSCの勤務日数は多く,現校務在職年数も長いことが示されている。SCによる心理発達面や行動・情緒面に関して,教師と協働し機能的に支援サービスを該当生徒に提供していくことが望まれている。SCが学校の潤滑油として教師と生徒の間に入り,生徒理解と自己理解の深化を促すことで,該当生徒は落ち着きを取り戻し,周囲の生徒と関係を持ち始めたり集団活動に参加する機会を増やすといった支援効果が示唆されている。 そこで,本報告では発表者がSCとして私立中高一貫校にて実践しているスクールカウンセリングの実践を紹介し,私立学校独自の包括的な支援システムの展望について提案する予定である。
(HASHIMOTO Soichi,OZAKI Keiko,
ISHIMOTO Yuma,YOSHIZAKISatoko,
MIURA Takuya)
/橋本創一
本シンポジウムは,国立大学教育実践研究関連センター協議会「教育臨床部会」の研究ネットワークを活用して,発達障害と不登校における学校不適応の問題を整理すると共に,ローカルエリアの相談支援事例を通して,さまざまな教育フィールドにおける教育相談システムの最適化・展開について討論する.具体的に,発達障害と不登校について,学校,放課後等児童デイサービス,適応指導教室の実践を通した教育活動の場や児童生徒の発達段階,携わる支援者からアプローチする。
話題提供
適応指導教室を中心とした不登校児童生徒への支援
―支援者支援の視点から―
/尾崎啓子
不登校をはじめとする学校不適応の児童生徒への支援では,子ども本人の支援はもちろんのこと,保護者,教師を含めた支援者への支援の必要性が高いことは言うまでもない。近年,学校現場には,スクール・カウンセラー,スクール・ソーシャルワーカーなど一定の資格が求められる支援者の他に,特別支援教育支援員,学習支援員,学校ボランティアといった様々な名称・雇用形態のサポーター(以下,支援員と記す)が入り,主に発達に課題のある児童生徒の支援にあたっている。これら支援員の業務には,支援対象の児童生徒への個別対応だけでなく,周りの児童生徒への障害理解促進や保護者対応も含まれる場合があるが,責任の重さに比べ,教師との連携の機会や研修機会のようなサポートの少なさが課題であると考える。
発表者は,平成17年度から今日まで,所属大学の附属特別支援学校内に地域貢献を目的として開設した相談支援室の活動として,埼玉県内の学校巡回要請訪問(学校コンサルテーション)を行っている。また県北の市で適応指導教室の研修支援も続けている。約10年間の活動をふり返ると,相談内容が不登校・いじめ対応から広がり,発達障害・家族の問題・貧困・外国人生徒の適応(異文化理解)・親の養育力低下など,社会の変化がそのまま反映されたものへと変わってきている。研修内容も知識の拡充に留まらず事例研究や話し合いなど,事例理解を深めるとともに具体的な対応法が求められていると感じる。課題が多い学校ほど支援員に対する期待は大きく,支援員のバーンアウトを防ぐ観点からの支援も重要である。本話題提供では,主に上記の適応指導教室での研修実践を報告し,支援員支援を通した不登校児童生徒への支援について考えてみたい。
放課後等デイサービスが担う発達障害児への支援の機能と課題
/石本雄真
2012年に創設された放課後等デイサービスは,2012年から2014年にかけて事業所数が約1.7倍に増加し,それに伴って利用者数も急激に増加している。2014年9月現在では86,524人の利用者がおり,今後もさらなる増加が見込まれる。放課後等デイサービスの利用者は発達障害児に限らないものの,中心的な利用者は発達障害児であり発達障害児への地域における継続的な支援の担い手としてその存在感が高まっているといえる。放課後等デイサービスは,障害をもつ小中高校生を対象に生活能力の向上のために必要な訓練,社会との交流の促進その他の便宜を供与するものとされているが,児童発達支援管理責任者を1名置くこと以外に職員の資格要件は規定されておらず,具体的な支援内容についても明確には規定されていない。このため,事業所によってさまざまな専門性をもつ職員が勤務していることや,行われている支援の内容も様々であることが予想されるが,実際にどのような専門性をもつ職員が勤務しておりどのような支援を行っているのかについては明らかではない。また,必ずしも障害児の支援に関して専門性のある職員が勤務しているとは限らないことから,支援の際には外部の専門家との連携も重要であると考えられるが,実際にどのような連携が行われているのかについても定かではない。本話題提供では,放課後等デイサービスを対象に,職員の専門性,支援内容,他の専門家との連携等について尋ねたアンケート調査の結果から放課後等デイサービスの現状を示し,放課後等デイサービスが地域における発達障害児への重要な支援機関として機能するための課題と対策についても提示したい。
適応指導教室における学生サポーターの役割と存在意義
/吉崎聡子
弘前大学教育学部では,平成11年より,学部3,4年生の希望者を,選抜の上で不登校生支援のための学生サポーターとして,地域の適応指導教室へ派遣する事業を行ってきた。具体的には,学生サポーターは原則週1回半日,適応指導教室へ行き,適応指導教室指導員の下で,通室生の支援活動を行う。活動内容は,学習指導やレクリエーション活動の補助など,通室生と関わる活動が多い。学生サポーターはこの支援活動を通して,学校現場が抱える問題の一つである,不登校の現状やその対応について実地で学ぶ機会を得ているといえよう。中教審答申(2015)では,これからの教員養成における課題として,学校現場や教職に関する体験機会の充実の必要性を挙げており,当該事業はこの課題に対応する事業であるといえよう。長年この事業に関わった豊嶋(2013)は,学生サポーターは,適応指導教室での支援活動を通して,自己の不確実感と直面し,通室生との関わり方を模索する中で,適応支援者としての自己像を構築していくと述べる。学生サポーターの適応支援者としての発達については,豊嶋・長谷川・加川 (2002),豊嶋(2013)に詳しい。本話題提供では,学生サポーターが通室生との関わりの中で得た気づきについて,テキストマイニングの手法を用い分析した結果から,適応指導教室における不登校生支援について報告する。併せて学生サポーターの存在意義についても検討したい。具体的には,学生サポーターに対して,通室生の状態・言動の「背景」に対する気づきや理解を,そのきっかけとなった事柄とともに自由記述にて回答を求めた。彼らの個々の回答からは,日常では見逃してしまいそうな出来事,会話,表情,態度など通室生の示すサインを丁寧に拾い上げ,そこから背景について思い巡らせる様が見て取れた。これをテキストマイニングによって全体的な傾向にまとめ,学生サポーターが適応指導教室における通室生支援に果たす役割について検討したい。
私立中高一貫校におけるスクールカウンセリングの実践
/三浦巧也
首都圏の私立学校では中高一貫校が約300校あり,近年では中高一貫校への入学選択理由として学業実績(大学進学)以外にも,6年一貫教育を選択する生徒が多いことが示されている。私立中高一貫校では,学年団を担当する担任や主任が6年間継続して学年を受け持つことや,養護教諭やスクールカウンセラー(以下,SC)による生徒の心理発達面の情報共有も比較的柔軟になされていることが推測されている。しかしながら,これまでの研究において,私立中学に入学したものの,上手く適応出来ずに苦しんでいる生徒が存在することが明らかとなった。彼らへの支援では,教師の生徒理解及び生徒自身の自己理解が促されることが重要であると指摘されている。発達障害またはその疑いのある生徒への支援では,生徒の特別な支援ニーズを早期に把握し,特性に応じた支援を実施していくことが重要となる。しかしながら,私立中高一貫校においてそうした予防的支援が未だ浸透していないことが課題である。そこで,私立校では,特にSCが求められる支援を察知して,学校へ積極的に関わることが期待されている。私立中高一貫校では,公立校に比べてSCの勤務日数は多く,現校務在職年数も長いことが示されている。SCによる心理発達面や行動・情緒面に関して,教師と協働し機能的に支援サービスを該当生徒に提供していくことが望まれている。SCが学校の潤滑油として教師と生徒の間に入り,生徒理解と自己理解の深化を促すことで,該当生徒は落ち着きを取り戻し,周囲の生徒と関係を持ち始めたり集団活動に参加する機会を増やすといった支援効果が示唆されている。 そこで,本報告では発表者がSCとして私立中高一貫校にて実践しているスクールカウンセリングの実践を紹介し,私立学校独自の包括的な支援システムの展望について提案する予定である。
(HASHIMOTO Soichi,OZAKI Keiko,
ISHIMOTO Yuma,YOSHIZAKISatoko,
MIURA Takuya)