The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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自主企画シンポジウム

学びは人と人とのつながりである

自己調整学習からsocially shared regulation of learningへ

Mon. Oct 10, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 第1小ホール (4階第1小ホール)

企画:上淵寿(東京学芸大学)
司会:上淵寿(東京学芸大学)
話題提供:安永悟(久留米大学), 白水始(東京大学), 伊藤崇達(京都教育大学)
指定討論:無藤隆(白梅学園大学), 奈須正裕(上智大学)

10:00 AM - 12:00 PM

[JG01] 学びは人と人とのつながりである

自己調整学習からsocially shared regulation of learningへ

上淵寿1, 安永悟2, 白水始3, 伊藤崇達4, 無藤隆5, 奈須正裕6 (1.東京学芸大学, 2.久留米大学, 3.東京大学, 4.京都教育大学, 5.白梅学園大学, 6.上智大学)

Keywords:自己調整学習, 協同学習, 協調学習

企画趣旨
 学びが人と人とのつながりそのものであるかはともかく,人とのつながりと関わることは重要だろう。
 さて,学習者自身の学習への熟達に関わる,自己調整学習(self-regulated learning: SRL; Zimmerman,1986)は,既に提唱されてから40年を過ぎ(Mlott et al.,1976),さらに概念自体は,100年以上の歴史をもつ(Hosmer,1847. Self-regulationやself-controlの概念の変遷については,大芦, 2002,2010が詳しい)。現在では様々な領域で,多様なアプローチからSRLは研究されている(Zimmerman & Schunk,2011,2016)。最近では,他者との関わり合いを重視したsocially shared regulation of learning(SSRL)にも焦点があて始められており,これを主題に据えた議論が求められている。
 既にこのような試みは,岡田他(2015)によってなされているが,本企画の特徴は,協同学習や協調学習の研究者たちとの対話にある。人と人とのつながりによる学習の研究は,現在様々な形で行われている。しかし,少なくとも日本においては,SSRLの研究者と協同学習の研究者,または協調学習の研究者は,互いにディシプリンが異なり,対話する機会は少なかった。このような対話あるいは討論を通して,人と人とつながりによる学びの,これからの実りある発展を目指したい。
 さらに,このような対話について指定討論者から,批判やまとめをいただくことにしている。最後に,フロアからの積極的な意見も求めたい。
人と人とのつながりを基盤とした学び:協同学習の立場から
安永 悟(久留米大学文学部)
 筆者は「現場で活躍できる人材」の育成を教育目的としている。彼らは、生涯を通して学び続けられる、主体的で能動的かつ協調的な学習者といえる。このような人材の育成にとって、人と人とのつながりを基盤とした学び、すなわち協同学習が有効である。
 協同学習とは、自分の学びと仲間の学びを最大にするために共に学び合う学習技法であり、それを支える理論である。協同学習の根底には「学習目的の達成に向け、仲間と心と力をあわせて、自分と仲間のために真剣に学ぶ」という「協同の精神」があり、単なるグループ学習と明確に区別される。両者を区別するために、Johnsonらは5つの基本要素、すなわち①互恵的な協力関係、②個人の責任性、③相互作用の促進、④社会的スキル、⑤グループの改善手続き、をあげている。
 協同学習を実践するためには学習活動を構造化する必要がある。構造化とは、学習目的を達成するために体系化された学習活動の手順といえる。「協同の精神」についての学習者の認識や、社会スキルの発達水準、学習内容の既有知識などを考慮しながら、学習活動を構造化する。構造化された学習活動を通して、仲間と学び合うことの有効性やその価値を学習者に体感させ、「協同の精神」を涵養する。この獲得された「協同の精神」を前提として、次の学習活動を計画し、構造化する。その際、学習者の変化成長に応じて構造化の内容を変え、長期的に見て構造化の程度を漸減していく。最終的には学習者自身が、主体的かつ能動的に仲間と協力・協調しながら問題解決ができる状態にまで高めていく。
 このような考えに基づき、協同による活動性の高い授業づくりを小学校から大学までの授業で展開している。筆者自身は、大学における初年次教育で、協同学習の一技法であるLTD話し合い学習法を基盤とした授業づくりを展開し、大学での専門教育や高校教育との連携を検討している。そのなかで、他者と協力・協調できる力の育成を試みると同時に、その力が学習に及ぼす影響について検討している。具体的には、協同に対する認識を測定する尺度を開発し、協同の認識やその変化が学習行動や学習成績、学校や大学への適応、批判的思考態度、ディスカッションスキルなどにおよぼす効果を検討している。本シンポジウムにおいては、このような研究資料も紹介しながら、人と人とのつながりを基盤とした学びについて対話を深めたい。
学ぶとは人と人とのつながりを通して賢さを育てること:協調学習の立場から」
白水 始(東京大学大学総合教育研究センター)
 協調学習の立場から見ると,学びは人と人とのつながりではない。学びとは,つながりを通して各個人が自らの賢さを育てること,である。これは一見,個人主義的な「冷たい」定義に見えるかもしれないが,一人一人が「自分の」賢さを育てるからこそ,一人一人に違いが生まれ,人と人とのつながりが面白くなる。
 もう一歩踏み込んで言えば,一人一人の「賢さ」は,各自のそれまでの経験と環境との膨大な相互作用を含みこんで成り立つため,基本的には他者には分からない。みんなが他者を正確には了解できないという前提に立った上で,だからこそ「この人なりのロジックがあるのだろう」と認め合ってつながることで,初めて丁寧で市民的な(civicな)協調も可能になるのではないか。当日は,こうした学びと協調の少し違った見方を提供させていただくことで,本シンポジウムの目的に貢献したい。
 もう一点,著者の浅学非才のために自己調整学習について以前から気になっていたのは,学習ゴールの低さや小ささである。「宿題や課題をやり遂げる」,「小テストの成績を上げる」,「お手本に従って『理解』しながら文章を読む」,「バスケットボールのフリースローをうまくやる」など,小分けにされた課題のステップワイズな完全習得がゴールであるように見える。これは一部の教員や保護者に歓迎される「基礎スキルの習得」に当たるだろうが,そこから学んだスキルの自発的な活用や有機的な組み合わせ,根本的な問い直し(そもそも宿題をなぜやらなければいけないのかなど)は起きるのだろうか。
 特に懸念しているのは,このモードで協調場面に自己調整学習の考え方を展開したとき,高が知れた,低いレベルのゴールの課題を遂行するために「人とどう協調すればよいのか」に研究の焦点が当たることである。やるべきことの見通しがつく課題であれば,他者との行動を調整する余力も生まれ,そこを教育しやすくなる。しかし,私たちが本来子どもに求めたいのは,各自が能力を最大限発揮しても手に余る課題の解決ではないか─誰の手にも余る学習ゴールに,互いの行動を調整する余裕もなしに挑みながら,その場で自然に発生する役割交代を頼みに課題を解決して,自分を賢くし,最初より少しは他者を了解できるようになる学びではないのか。
人と人とのつながりにおいて「自ら学び」,「ともに自ら学びあう」ということ
―Self-regulated learning,Socially shared regulation of learning研究からの示唆―
伊藤崇達(京都教育大学)
 人がいかに自ら学ぶかについて,Self-regulated learning(以下,SRLと称する)という研究領域が膨大な知見を提供してきている。SRLとは,「学習者が自らの目標の達成に向けて,自らの認知,感情,動機づけ,行動を活性化させたり維持したりする一連の過程のこと」をいう(cf. Zimmerman & Schunk, 2011)。研究の対象としては,読解,作文,数学,理科,スポーツ,音楽,教室環境のあり方,ICTによる学習,メンタリング,援助要請,学習習慣の形成,動機づけ・感情の調整,ジェンダー,文化差の問題など,多岐に亘る内容領域と文脈が取り上げられてきており,理論的,実証的な検討が盛んに進められてきている(e.g., 上淵, 2004; Schunk & Zimmerman, 2011; 塚野・伊藤,2014)。
 SRL研究の大きな特徴の一つは,認知(メタ認知)研究と動機づけ研究の知見や理論を統合するかたちで概念化が図られてきている点にある。われわれが自らの学びをregulateするというのは,まさに認知と動機づけの働きが統合的にかかわりをもちあうことによる。SRL理論では,人が,生涯にわたる学びを通して,自らの知識や技術を高め,理解を深めていく存在であることは,もちろん,学ぶ楽しさや学びがいを求める存在でもあると考えている。このようなトータルな見方は,研究上のみならず,実践上,重要な示唆をもたらすものである。
 また,SRL研究の進展はめざましいものがあるが,近年では,「学びあい」の文脈においてさらなる検証が進められてきている。Socially shared regulation of learning(以下,SSRLと称する)は,SRL研究の理論的枠組みから進展してきた研究領域である(Panadero & Järvelä, 2015)。
 SSRL研究では,人の学びあいのありようについてSelf-regulation, Co-regulation, Socially shared regulationという3つの学習フェーズで捉える視点が打ち出されてきている(cf. Hadwin et al., 2011; Järvelä et al., 2013)。Co-regulation of learning(CoRL)とは,学習者の間で自己調整が一時的に整合し,プランニング,モニタリング,評価,目標設定,動機づけといった調整活動が相互に媒介しあうことをさしている。最近の研究レビューでは,Other-regulationやDirective-regulationというタームで,学習機能がいかに共有されているかを明示する提案などもなされてきている(Schoor et al., 2015)。そして,SSRLとは,学びの調整過程や信念,知識を相互に依存しあいながら集団として共有することをさしている。このような学びのあり方は,学習成果を協働で構成し,それらをメンバーで共有しあうことを通じて成立してくる。
 いかなる学びであろうと,これらのregulationのモードが埋め込まれていると考えられる。学びの本質をおさえ,学びの主体へ支援の手をさしのべるために,regulationのありようを精緻に考えていく必要があるだろう。本シンポジウムでは,豊かな学びあいの実現に向けてSRL,CoRL,SSRLという理論的枠組みが,研究上,実践上,いかなる可能性と有効性をもちうるかについて論じることができればと考えている。