The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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自主企画シンポジウム

「放課後等デイサービス」を巡る支援の可能性

心理臨床・発達臨床の専門家がみる現場

Mon. Oct 10, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 61会議室A (6階61会議室A)

企画:村上香奈(人間総合科学大学), 澤邉潤(新潟大学)
司会:澤邉潤(新潟大学)
話題提供:村上香奈(人間総合科学大学), 山崎浩一#(武蔵野大学)
指定討論:岡田有司(東北大学)

10:00 AM - 12:00 PM

[JG06] 「放課後等デイサービス」を巡る支援の可能性

心理臨床・発達臨床の専門家がみる現場

村上香奈1, 澤邉潤2, 山崎浩一#3, 岡田有司4 (1.人間総合科学大学, 2.新潟大学, 3.武蔵野大学, 4.東北大学)

Keywords:放課後等デイサービス, 支援, 専門家

企画主旨
 放課後等デイサービス(以下,放課後デイ)とは,平成24年4月児童福祉法に定められた障害児通所支援のことであり,学校(幼稚園及び大学を除く)に就学している障害児に対して,授業終了後または休業日(放課後や夏休みなど)に施設に通わせ,生活能力向上のために必要な訓練の提供ならびに社会との交流促進などを目的に行われている。具体的には,学習・トレーニング・余暇活動など多様な支援が行われており,障害を持つ子どもに対して,発達や社会適応を促すだけでなく,物理的かつ心理的な居場所としての機能を果たしている。その一方で,保護者に対しては仕事や家事の時間の確保など負担軽減にもつながり,放課後デイは障害をもつ子どもとその家族にとって大きな役割を果たしていると考えられる。なお,平成28年5月6日現在,東京都には497施設あり,需要の高さがうかがえる。
 その一方で,先に記した通り施設によって多様な支援が行われ,その質においては大きな開きがあることが懸念されている。このような現状を鑑み,厚生労働省は平成27年4月「放課後等デイサービスガイドライン」報告書を策定した。これによると,放課後デイにおける支援の多様性を認めたうえで,「提供される支援の形態は多様であっても,障害のある学齢期の子どもの健全な育成を図るという支援の根幹は共通しているはずであり(中略)支援の質の向上のために留意しなければならない基本的事項もまた共通するはずである」。さらに放課後デイは「現在においても日々新たな支援形態が生み出されているものと想像される。このような状況に鑑みれば,本ガイドラインは多くの専門家,関係団体等の協力を得て策定されたものであるにしても,その内容については不断の見直しによる改善が図られるべきものである」と記されている。以上より,放課後デイは開始されたばかりの取り組みであり,支援の形態・内容については,現在,試行錯誤が行われている段階だと捉えられる。そのため,放課後デイに関わる支援者は,「障害のある学齢期の子どもの健全な育成を図るという根幹」の基,ニーズを把握しながら,利用者(障害をもつ子どもと家族)の利益のために質の向上・保持に向けて,現状の課題を認識し,改善のために努めなくてはならないのである。
 放課後デイは指導員,児童発達支援管理責任者,管理者を配置することが定められているが,施設によっては,臨床心理士や臨床発達心理士が関わっている。このことは,放課後デイの利用者に対して,心理の専門家や専門性が必要とされていることを意味し,また,放課後デイにおける支援の質向上・保持に深く関与できることを示している。
 そこで,本シンポジウムでは,現在,放課後デイに関与している心理の専門家が現状の課題を見出し,放課後デイの質向上に向けて心理の専門家や専門性をどのように活かしていけるのかを検討することで,「放課後デイのあり方」や「放課後デイにおける支援」について広く議論していきたい。
放課後デイという場における支援とは何か
村上香奈
 いかなる支援においても重視されるべきことは,アセスメントと誰がどのような支援を行うかである。ここに求められることは専門性(知識・技能)と資質である。また,支援の場の特性について理解する必要もある。このことは障害のある子どもが通う放課後デイにも共通することである。これらを言い換えると,放課後デイにおける支援とは,支援者としての資質のある者が,専門性をもって対象児・者の状態を把握し,彼らの将来を展望したうえで,放課後デイという場において,どのような支援が適切かを検討し実践するということである。放課後デイの質向上には,この視点が不可欠だと考えられる。
 放課後デイにおける支援について検討するに際して,今回はアドバイザーとして関わっているA施設の支援内容とアドバイザーの役割を紹介する。
 A施設は学校がある期間の平日の放課後と土曜日,長期休暇に支援を提供している。以下,学校がある期間の平日の放課後を取り上げる。
 支援は学校の就業時間に合わせてスタッフが子どもたちを迎えに学校に行くことから始まる。学年によって子どもたちの施設到着時間は異なるが15時くらいに「はじめの会」が始まり,一日の予定を確認したうえで「学習」「おやつ」「体づくり」「自由遊び」が行われている。そして,17:10頃スタッフが施設から自宅に送り届けるという流れになっている。
 A施設には2名の専門家(臨床心理士1名,臨床発達心理士1名)がアドバイザーとして関わり,それぞれが月1回,支援に参加しながら子どもたちの様子をアセスメントし,スタッフに状況を伝えている。そのうえで,月1回,専任スタッフとアドバイザー2名が一堂に会してケース会議を行い,事例を通して,今後の支援について検討している。つまり,A施設は心理臨床ならびに発達臨床の専門家と協働し,専門的知識を取り入れながら支援を行っているのである。
 アドバイザーとして関わりスタッフと話し合いの場を持つ中で,A施設の支援の根底には「親として宿題はちゃんとやってほしい」「親として同年代の子どもたちと遊んでほしい」「親として社会の中で生きていく術を身につけてほしい」等,‘親として’の当然の願いと想いがあることが推測できる。つまり,‘対象児の状態を把握し,将来を展望する’に際して,‘親としての願いと想い’という支援の方向性があるのである。このような当事者意識は様々な議論につながるものであるが,A施設においては‘子どもたちに今,必要なもの’を支援として提供することにつながっているようにうかがえる。しかし,その願いと想いが適切ではない支援にならないよう専門家と協働し,支援の質向上を常に心がけているのであろう。このような姿勢は支援者の資質に値するものだと捉えられる。アドバイザーとして目指していることは,支援者の質(知識と技能)向上と心理的サポートである。支援者の質が向上し,安定した支援が行われることが子どもたちへの支援全体の質向上につながると考えられる。
 放課後デイは,利用者(対象児・保護者)にとって,学校とは異なる意味と価値が存在するであろう。そのことを理解したうえで,放課後デイにおける支援は,障害のある子どもを対象とした支援の場であるということを念頭に置き,子どもたちの将来に向けて,今,必要な支援を見極め,提供する場であることが望まれる。そのために,支援者の質向上による支援全体の底上げが重要であり,心理の専門性が発揮されるべきところであると考えられる。
「価値」の共有と具体的な支援方法の提案
山崎浩一
 専門家(臨床発達心理士)として関わっているA施設での専任スタッフとのケース会議(コンサルテーション)において常に意識しているのは,スタッフ間の「価値」の共有と具体的な支援方法の提案である。あえて分けるとすれば,前者はメンターのような役割,後者は発達の専門家としての役割と位置づけられるであろう。
 メンターとしての役割は,スタッフが自身を観る・識る手助けをするのみ,すなわち,そこからそれぞれのスタッフが,スタッフ間で共有される「価値」に気づくことを支援する。そこでは,教育相談における保護者や教諭を対象とした面談と同様に,スタッフが当該ケースについてどの視点から取り上げているのか・どの視点からそのケースを語っているのかを常に可視化させることに焦点化する。そこでの語りは「意味」,すなわち語りの「字義」としては明示的であり,多くの場合,共有される。しかし,それぞれのスタッフにとっての「価値」は異なっていることが多く,その異なりはスタッフ間に「腑に落ちない」支援の実践を強いることに繋がってしまう。一方,「価値」の共有は,「腑に落ちる感覚」とともに,A施設としての子ども達への支援の構えを醸成していくといえる。
 その支援の構えの醸成を後押しするのが,具体的な支援方法の提案である。子ども達は週に複数日,多い子どもはほぼ毎日通所してくるが,アセスメントは月に2回(2名が1回ずつ。各回2時間強),ケース会議は月1回(1時間)である。日々発達しつつある子ども達への効果的な支援を実践するためには,当日,あるいは翌日から実践可能な,具体的な支援方法の提案が必要なのである。
 そして,その提案をする際にも,「価値」の共有が必須である。「意味」は理解しても,「価値」を共有出来なければ,実践の中でスタッフごとに子どもへの対応に齟齬が顕れてしまい,結果的に子どもの「発達や社会適応を促す」という放課後デイの重要な役割が機能しなくなってしまう。具体的な(具体性の高い)支援方法の「価値」の共有が,施設として齟齬のない子ども達への支援の実践へ繋がり,施設としての支援の構えを醸成する土台となるといえる。
 また,提案する支援方法は,保護者が日常生活でも活用できる,あるいは,それぞれの子どもが通う小学校においても援用していただけるようにも,具体性の高い方法である必要がある。保護者,さらには小学校の関係者,そして放課後デイのスタッフが一枚岩となり,子ども達の発達支援をスムースに進めていけるよう,それぞれの立場で実践可能な支援方法を提案し,それを基に,それぞれの「価値」の共有,あるいはそれぞれの「想い」を繋いでいく媒介項としての役割が,発達の専門家として求められているといえる。
 以上のような,メンター的役割兼発達の専門家としての放課後デイへの関わりは,施設としての子ども達への支援に関するコンサルテーションのみでなく,直接的に子どもを支援する,支援者としてのそれぞれのスタッフ自身の発達をも支援すること,すなわち,「子ども達への発達支援を支援する」ことにほかならない。そのために専門家は,支援の実践者そして支援の論拠を明示する研究者として,関係各位と「価値」を共有することを常に意識しつつ,自身の視点は偏ることなく「中間」に置く必要がある。