The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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自主企画シンポジウム

学校教育における試行「育てる教育相談」

小・中学校との協働的な実践研究による構造化の試み

Mon. Oct 10, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 61会議室B (6階61会議室B)

企画:中村豊(関西学院大学)
司会:中村豊(関西学院大学)
話題提供:黒木幸敏(姫路大学), 池原征紀#(芦屋市立精道中学校), 黒田睦美#(丹波市教育委員会), 橋本奈々重#(神戸市立西代中学校), 森原かおり#(神戸市立名倉小学校)
指定討論:根津隆男#(神戸松蔭女子学院大学)

10:00 AM - 12:00 PM

[JG07] 学校教育における試行「育てる教育相談」

小・中学校との協働的な実践研究による構造化の試み

中村豊1, 黒木幸敏2, 池原征紀#3, 黒田睦美#4, 橋本奈々重#5, 森原かおり#6, 根津隆男#7 (1.関西学院大学, 2.姫路大学, 3.芦屋市立精道中学校, 4.丹波市教育委員会, 5.神戸市立西代中学校, 6.神戸市立名倉小学校, 7.神戸松蔭女子学院大学)

Keywords:教育相談, 協働, 心理教育

企画主旨
 「育てる教育相談」は,『生徒指導提要』(文部科学省,2010)に示された用語である。そこでは,育てる教育相談の考え方は多様であり,学校の実態に応じて心理学の理論と多様な技法(グループエンカウンター,ピア・サポート活動,ソーシャルスキルトレーニング,アサーショントレーニング,アンガーマネジメント,ストレスマネジメント教育,ライフスキルトレーニング,キャリアカウンセリングが例示されている)を教育活動に援用した実践を検討し合う黎明期であることが説明されている。このように学校における育てる教育相談は試行段階であり,それは生徒指導として全ての児童生徒を対象とした発達促進的・開発的な教育的働きかけの総称である。また,その要点は次の7点に整理され示されている。①学級雰囲気(学級風土)づくり,②帰属意識の維持(居場所としての学級),③心のエネルギーの充足,④児童生徒理解へのかかわり,⑤学習意欲の育成(興味関心を刺激する教材や授業方法の工夫),⑥学業へのつまずきへの教育相談的対応,⑦教員の指導性。
 しかし,学校の教育活動は,教育課程に位置付けられた時間割の授業が中心となる。そのため教師にとっての児童生徒は「教」える対象となりがちであり,「育」てることについての配慮が不十分になっている側面があると思われる。それゆえ児童生徒の全人格的な教育に当たる教師には,「生きる力」の3要素のひとつである「豊かな人間性」を高めていくために教育相談の考え方や技法の習得が,ますます求められているのである。
 ところで,学校では教育相談を行う教師が日常的に児童生徒と触れ合っているために,日頃の人間関係が反映してしまうという課題がある。また,問題行動に対しては,指導をしながら,相談的な支援もしていかなければならない立場にある。つまり,外部から来校するスクールカウンセラーとは異なるアプローチが必要となるのである。
 そこで,教師が行う教育相談の強み(①問題行動の早期発見・早期対応が可能,②支援を要する児童生徒及び保護者への援助資源が豊富,③外部の専門機関との連携が取りやすい)を生かし,組織的・体系的な構造化された「育てる教育相談」を実践していく上での課題と,それを解決するための方策について議論を深めていきたい。
話題提供1
「育てる教育相談」の研究事業施策とその成果を普及させるための支援
橋本奈々重(前神戸市総合教育センター)
 心の専門家としてのスクールカウンセラーが教育現場に導入されて20年超となる。この間,スクールカウンセラーに期待される機能は教育相談の対症療法的な側面に留まらず,職員研修,校区へのアウトリーチ等,拡大している。しかしながら「育てる教育相談」の最大の担い手は,児童生徒にとって最も身近な存在な教師である。教育現場では,生徒指導上の諸問題が発生してからの後追いの指導に終始しがちな指導観を見直し,新たな問題行動が起こりにくい,つまり,未然に予防するための働きかけが不可欠である。そのためには,日常の教育活動の中で児童生徒に確かな「生きる力」を育んでいくことが喫緊の課題である。このような問題意識に基づき,前職において取り組んだ「育てる教育相談」に関する教育施策について報告を行う。その内容は大別すると2点である。1つは,学級を対象に授業で実施できるグループアプローチの方法を出前研修により普及させていく事業。もう1つは,研究推進校,行政,研究アドバイザーとしての大学教員の三者が,協働的に研究開発を行うための具体的な支援のあり方について,これまでの実践に基づいた話題を提供する。
話題提供2
カウンセリング心理学の技法を全校の教育課程に位置付けた実践
森原かおり(神戸市立名倉小学校)
 本市の「育てる教育相談」研究推進校の指定を受け2年間にわたり取り組んできた実践研究の成果と課題,そして現在の状況について報告を行う。
 本校は全校児童数が200名半ばの小規模校である。下町気質の地域性と課題を抱える児童の割合が高く問題行動が多発するため,その対応が日常化しており,開発促進的な生徒指導の重要性を強く意識するとともに具体的な方策を求めていた。その手がかりが「育てる教育相談」であり,カウンセリング心理学で培われ,教育現場に普及している技法を学級・学年を超え全校体制で取り組むことであると考えた。それは,先行研究として試行的に取り組まれてきた市内2校の実践者の一人が本校の校長(当時)であり,また本施策を設けた神戸市総合教育センター教育相談指導室室長(当時)だったこともあり,確かな効果が期待できると思われたからである。また,経験年数の少ない若手教員の急増に伴い,校内指導体制を一貫していくためにも,教育課程に位置付けた授業として取り組んでいくことが本校の実態に即していると考え,現在まで継続して実践研究を積み重ねている。その一端を話題提供していきたい。
話題提供3
アサーショントレーニングを援用した中学校の「いじめ防止プログラム」の効用
黒木幸敏(姫路大学)
 いじめ予防は,いじめ問題を取りあげることに加えて,生徒相互の円滑な人間関係づくりの支援をしていくことが有効である。ここでは教室で行う人間関係づくり支援に役立つアサーショントレーニング(以下,ATと略す)の実践を紹介し,その効果について検討していく。
 ATは,①3つの自己表現,②自己信頼と自己表現における基本的権利,③考え方とアサーション,④具体的なアサーションの話し方のスキルDESC(デスク),⑤怒りとアサーション等の内容から成る。今回は,中学生を対象とした「3つの自己表現」に関する実践事例を紹介する。そのねらいは,①攻撃的な自己表現,受身的な自己表現,アサーティブな自己表現の3つの自己表現の特徴を理解する。②同じ文章を見ても人によって受け取り方が違うことを体験することで,人のモノの見方や価値観の多様性を認識する。③自己表現を正確にしないと誤解が生じる可能性のあることを知ることにある。また,ATを教室で実践する上での留意点として「アサーションしない権利」についてもふれておく。
話題提供4
非行傾向のある生徒への個別対応と学級経営に活かす学級担任が行う教育相談
池原征紀(芦屋市立精道中学校)
 スクールカウンセラーが行う相談の対象者は,非社会的問題行動を起こす生徒及びその保護者が中心であり,反社会的な問題行動の生徒は心理的な援助サービスを受ける機会が少ない。それゆえ学校の教師が行う教育相談は大切であり,特に,生徒を育てるという視点からのアプローチは重要である。生徒が育つためには,1対1の個別面接に加え,生徒が所属する学級集団を視座に置きながら,小集団への働きかけが有効である。中学生の時期には,親や教師以上に友人からの影響が強い。このことを踏まえ中学校の学級担任として,これまでに関わってきた生徒らとの,課題解決とは異なる教育相談の実践について話題提供を行う。ここでは,教師の同僚性と指導観の差異に着目して,「育てる教育相談」を全校体制で取り組むことを阻害している要因について検討し,その改善のための方策として校内研修の機能について考えていきたい。また,授業場面における教育相談,教育課程外における教育相談のあり方,他機関との連携について話題提供をしていく。
話題提供5
問題行動を再生産させない視点からの実践
~教師の力量形成と学校現場の教育相談~
黒田睦美(丹波市教育委員会)
 現在の学校で発生する生徒指導上の諸問題は,都市部や地方の区別なく,いつでも,どこでも,誰にでも起こり得る大きな教育課題となっている。特に不登校,いじめ問題,低年齢化する暴力行為の3点については,早急な対応が求められている。これを受け,「いじめ防止対策推進法」の施行,「学校安心ルール」を制定する自治体,「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案」をめぐる議論など政治や行政レベルでの対応が進められている。
 他方,学校は,確かな学力向上,特別な支援を要する児童生徒への合理的配慮,虐待への対応,教育格差是正のための方策等,生徒指導上の諸問題への対応だけに留まらず山積する教育問題への対応に追われている現状がある。また,様々な教育問題に対し,心理や福祉の専門家,法律の専門家としての弁護士など,学校教育とは異なる外部専門家や機関との連携の必要性が指摘されている。
 しかし,地方自治体によっては十分な社会的資産が得られず専門家の確保に苦慮しているところも少なくない。また,限られた予算と人材で大都市と同様の対応を求められても困難な実情がある。このことを踏まえ生徒指導上の諸問題の対応では,新たな問題を未然に防止することが重要である。一方,今ある問題をどのように改善していくのかについても先送りできない喫緊の課題である。
 以上述べた問題意識に基づき,実現可能な施策として取り組んでいる不登校,いじめ問題に関わる本市の事業の概要と,その成果及び課題などについて話題提供をしていく。