日本教育心理学会第58回総会

講演情報

自主企画シンポジウム

学校実践における発達障害アセスメント・カウンセリング・ガイダンス

事例から迫る研究法

2016年10月10日(月) 10:00 〜 12:00 63会議室 (6階63会議室)

企画:三浦巧也(大正大学)
司会:橋本創一(東京学芸大学)
話題提供:三浦巧也(大正大学), 野田航(大阪教育大学), 枡千晶#(東京学芸大学大学院連合)
指定討論:惠羅修吉(香川大学)

10:00 〜 12:00

[JG08] 学校実践における発達障害アセスメント・カウンセリング・ガイダンス

事例から迫る研究法

三浦巧也1, 橋本創一2, 野田航3, 枡千晶#4, 惠羅修吉5 (1.大正大学, 2.東京学芸大学, 3.大阪教育大学, 4.東京学芸大学大学院連合, 5.香川大学)

キーワード:発達障害, 学校実践, 支援方法・技法

企画趣旨
 発達障害児に関する相談支援を最適に行っていくためにはどんなことが大切なのか。発達障害児の支援は,他の問題を主訴とする教育相談や臨床心理面接に比べて,独自性が強く,それに伴い支援方法において特殊な実践活動などが求められる(橋本,2016)。
 特に,学校生活(学習面・生活面・対人関係面・行動情緒面)の支援では,発達障害児への直接的なアプローチ及び,周囲の環境調整等の間接的なアプローチの双方に,独自のアセスメント・カウンセリング・ガイダンス・コンサルテーションなどの機能を確立することが期待されている。
 本シンポジウムでは,学校現場における発達障害児へのアセスメント・カウンセリング・ガイダンスについて,調査及び実践的な研究を紹介し,よりよい支援方法・技法のあり方について討論する。
話題提供1
算数領域におけるカリキュラムに基づく測定の開発
野田 航
 発達障害を含め,学習面でつまずきのある児童生徒およびつまずきを抱える可能性の高い児童生徒を支援していくための教育システムとしてResponse to Intervention(RTI)を代表とする階層的な指導モデルが注目され,米国を中心に実践されている。RTIは,もともとはLDの判定モデルとして誕生してきたが,同時に全ての児童生徒の学習を促進することを目指したモデルとして実践されている(Jimerson et al., 2006)。日本においても海津ら(2008)による多層指導モデルが広く用いられるようになってきているが,算数領域における階層的な指導モデルの検討については,Noda & Tanaka-Matsumi(2014)等があるものの,まだ十分ではない。
 階層的な指導モデルを実践するためには,児童生徒の学習内容に関する習得状況を継続的にモニターしていくことが重要である。米国のRTIにおいては,カリキュラムに基づく測定(curriculum-based measurement: CBM; Deno, 1985)が用いられている。CBMは,実際に使用されている指導カリキュラムに沿って学習内容を細かく分類した課題である。各課題には同じ難易度の課題が複数作成されており反復測定が可能である。課題時間は短時間(1分から3分)であり,カリキュラムに沿って作成されているため,スクリーニングだけでなく指導効果の評価(プログレスモニタリング)にも使用可能である。日本においては,CBMはほとんど紹介されておらず,標準化も試みられていない(干川, 2016)。
 話題提供では,小学生の基礎的な算数能力を対象としたCBM(大小比較課題,数字欠落課題,計算課題)を作成し,信頼性と妥当性を検討した研究を紹介する。また,CBMを用いた教育的意思決定の方法や学校現場にCBMを用いた指導モデルを導入していく際の課題や展望についても述べる。
話題提供2
保護者向け発達障害カウンセリングについて
枡 千晶
 発達障害児に関する教育援助のスタートは「相談支援」である。そして,一度では終わらず,サポートを提供している期間に様々な支援者が繰り返しおこなっていく。発達障害児に関する相談支援(発達障害カウンセリング)の来談者・相談者(クライエント)には,発達障害やその疑いのある対象児本人だけでなく,その保護者や教師・指導者なども含まれる。一方,発達障害カウンセリングは,学校,教育委員会,教育センター,地域の発達支援センターや医療機関・福祉機関などの心理職や相談員,スクールカウンセラー,特別支援教育コーディネーターや対象児の担任教師・保育士などのさまざまな職種・立場の者が担っているのが現状である。
 発達障害カウンセリングにおける主訴・問題〔学校で言えば,学習面,行動・情緒面,対人関係面,生活面,身体・運動面などのつまずき・問題〕の原因には,個人因子(対象児の特性,障害,疾患など)によるものと環境因子(家庭や学校・学級,地域,友人・家族関係など)によるもの,もしくはその両方が絡んでいるものがある。また,クライエントが知りたいこと・不安・心配として,1.主訴・問題の原因・理由(なぜ?どうして?),2.主訴・問題への対応方法(どうすればよい?),3.進路・将来(今後どうなる?),4.対応の程度(どこまで取り組めばよい?),5.障害に関する当事者・周囲への説明,などがあげられていた。加えて,クライエントの立場(本人,保護者,教師・指導者)や対象児の年齢・障害種,相談支援者の立場によって,発達障害カウンセリングにおける主訴・問題の視点は異なっている。
 そこで本シンポジウムでは,発達障害児やその疑いのある児に関する保護者からの主訴を,問題の内容や個人因子・環境因子などに整理・分析し,問題解決や相談支援をすすめる上で有効な情報提供や応えていくための相談担当者(カウンセラー)側に必要な知識について検討する。加えて,保護者向けの発達障害カウンセリングに求められる,相談支援をすすめる担当者(カウンセラー)の知識・マインド・スキルについて考えたい。
話題提供3
発達障害のある生徒の自己理解を促すガイダンスプログラムの有効性
三浦巧也
 ガイダンスという言葉は,多様な分野において人々が新しい課題に取り組む際の案内あるいは導入などとして用いられる。教育領域でガイダンスは,生徒が環境や社会の変化によりよく適応し,その個性や能力を最大限発揮できるように導く教育活動とされている。そして,児童生徒の社会的自己実現への主体的な取り組みを促す援助として,ガイダンスの充実が求められている(森嶋,2010)。ガイダンスによる援助サービスは,生徒の発達段階,時系列に応じて,情報や知識,様々なスキルが生徒の個人的・社会的な発達のために用意されている。高橋・今泉(2010)は,ガイダンスをカウンセリングよりも教授的(instructional)かつ情報提供的(informational)であると指摘している。また,計画的に実施され,教師との連携のもとに実践されることが求められている。加えて,感情や心の面に関わる心理教育(psychoeducation)として問題行動の予防や適応の伸長に力点を置いた,育てる(proactive)アプローチ(八並,2012)の要素が強いとされている。
 学校現場において,児童生徒の特性に応じて提供されるガイダンスによる援助サービスでは,グループによる集団を媒体にした個人に対する間接的なアプローチ(池場,2007)があげられる。特に,発達障害のある生徒は,中学生以降になると自分なりに対処方法を考え実行するも,問題を的確に捉えきれておらず,対処方法も限定的である場合が多いため,結果として失敗体験を積み重ね,二次障害を引き起こす危険性が示唆される。近年では,本人に対するアプローチを報告する実践研究が増え,中高校生の自己理解を促す支援の有効性が検討されている。発達障害のある生徒への自己理解支援では,具体的に,1.場面の状況を把握することや他者の心情を捉える力,2.葛藤場面で生じる自己の感情をモニターし抑制する力を促すことなどが期待されている。
 そこで,本報告では上記の支援ニーズを導入し,発達障害のある生徒の自己理解の促進を目的として,グループによる実践を想定して開発されたガイダンスプログラムを紹介する。彼らが他者とプログラムを共有体験することの効果と課題について検討する予定である。