The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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自主企画シンポジウム

合理的配慮におけるユニバーサルデザイン授業と学生支援

障害者差別解消法と教育心理学の接点を求めて

Mon. Oct 10, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 第2小ホールA (5階第2小ホールA)

企画:吉森丹衣子(法政大学大学院), 斎藤富由起(千里金蘭大学)
司会:吉森丹衣子(法政大学大学院)
話題提供:野澤和弘#(毎日新聞), 田実潔#(北星学園大学), 米田和子(NPO法人トラヴィータ研究所子ども発達相談センター・リソース「和」)
指定討論:守谷賢二(淑徳大学), 曽根美樹#(大田区立子ども発達センター), 斎藤富由起(千里金蘭大学), 飯島博之(群馬県教育委員会)

1:00 PM - 3:00 PM

[JH02] 合理的配慮におけるユニバーサルデザイン授業と学生支援

障害者差別解消法と教育心理学の接点を求めて

吉森丹衣子1, 斎藤富由起2, 野沢和弘#3, 田実潔#4, 米田和子5, 守谷賢二6, 曽根美樹#7, 飯島博之8 (1.法政大学大学院, 2.千里金蘭大学, 3.毎日新聞, 4.北星学園大学, 5.NPO法人トラヴィータ研究所子ども発達相談センター・リソース「和」, 6.淑徳大学, 7.大田区立子ども発達センター, 8.群馬県教育委員会)

Keywords:障害者差別解消法, 合理的配慮, 支援方法

企画主旨
(斎藤富由起・吉森丹衣子)
 2016年4月1日に,我が国で「障害者差別解消法」が施行された。この法律は,国連の「障害者の権利に関する条約」の締結に向け,国内の法制度を整備する一環として制定,施行されている。
 本条約の第二十四条では,教育における障害者の権利が認められている。この権利を差別なく,均等に与えられる環境の実現を目的として,障害者を包容する教育制度等を確保する必要がある。その一つとして「合理的配慮」が位置付けられている。
 同条約の第二条によれば,合理的配慮とは「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものあり,かつ,均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」と定義されている。
 内閣府のホームページに載せられた代表的な合理的配慮の例として,教育領域では「視覚情報の処理が苦手な児童生徒のために黒板周りの掲示物の情報量を減らす」,「意志疎通のために絵やカード,ICT機器(タブレット端末等)を活用する」,「支援員等の教室への入室や授業・試験でのパソコン入力支援,移動支援,待合室での待機を許可する」などが,あげられている。
 本法の義務の度合いは行政機関や公共団体と,民間事業者の間で異なる。条文中,行政機関に対しては「~しなければならない」という表現が使用されているのに対し,民間事業者には「するよう努めなければならない」という表現が使用されている。これは行政機関や公共団体が,率先的に取り組むべき主体として法的義務を課されていることを表わしている。そのため,公立の学校教育においても,合理的配慮に基づいた支援の実施を率先的に行うことが求められている。
 しかし,「障害者差別解消法」や「合理的配慮」に関する理解は,十分なものとはいえない。また学校内では,特別支援教育の観点から,個別的な支援が実践されてはいるが,「差別」という観点から,配慮がなされているかについては検討の余地がある。
 本シンポジュウムでは,合理的配慮の背景にある「障害者差別解消法」の目的と,本法における「差別」の意味と具体例について確認する。そして,合理的配慮に基づく教育心理学的支援方法について検討したい。
 そこで障害者差別解消法と差別について理解を深めるために,「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」で,障害者差別をなくすための研究会の座長を務めた野沢和弘氏に,合理的配慮と差別について基調報告をいただく。次に,通常学級での支援について,ユニバーサルデザインの観点から米田和子氏に話題提供をいただく。また,これまで特別支援教育のもと,個別的な支援を検討,実践してきたのは国公立の小中学校が主であり,大学での支援については報告が非常に少ない。本シンポジュウムでは,合理的配慮に基づく,大学での支援のあり方や方法について,田実潔氏から報告をいただく。最後に,よりよい支援の方法について参加者と検討・共有できれば幸いである。
合理的配慮と差別について
(基調報告:野沢和弘)
 「障害者差別解消法」の施行により,行政機関,公共団体,民間時評における差別解消のための法的義務と努力義務が明文化された。この法が制定,施行されたことで,障害を理由として生じる差別に対し,初めて国家単位での取り組みがなされる。
 この種の条例としては,千葉県が2006年に「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」を成立している。この条例案の作成に際して,差別事例の募集が行われた。野澤(2007)によれば,得られた事例の内,最も多かったのが「教育分野」における差別事例である。
 差別の定義を決めることは簡単ではないが,「差別」そのものの存在を軽視し,検討せずに進むことは,共生する社会を生成する上で望ましくない。障害者差別解消法の目的の1つは,「何が障害を理由とする差別にあたるのか」について,社会全体の共有認識を得て,差別をなくすための取り組みを推進することである。
 しかし,教育現場で「差別」について検討する機会は十分にあるとは言えない。また,検討するには知識と事例が必要である。そこで教育分野における差別事例を紹介しながら,「合理的配慮」と,学校に求められる取り組みについて基調報告を行う。
合理的配慮に基づく大学での支援と実践
(話題提供:田実 潔)
 文部科学省(2014)による「我が国の障害者施策の動向と大学等における今後の対応」によれば,平成18年以降,大学に在籍する障害のある学生の数は増加の一途をたどっている。在籍率は平成25年度で0。42%(12,488人)である。このことから,障害を抱える学生が,常にある程度,大学に在籍しているのがわかる。
 障害を抱える学生が増えている要因としては,障害を抱える子どもたちに対し,均等な機会が与えられ,将来の選択肢に広がりが生じている可能性が考えられる。
 しかし,それが在学中の支援の充実を表わしているとは限らない。大学での取り組みは,義務教育期間である小中学校に比べて,明らかに十分とは言えない。障害者差別解消法の制定と施行によって積極的に取り組まれるようになったのが現状と言えるだろう。
 そこで本シンポジュウムでは,大学での合理的配慮に基づく支援について,話者が勤務する大学での組織的な取り組みや,実例について紹介しながら,大学で実践すべき合理的配慮とは何かについて話題提供を行う。
通常学級における合理的配慮とユニバーサルデザインの実践
(話題提供:米田和子)
 小学校では,平成19年に「学校教育法等の一部を改正する法律」が施行され,特別支援教育が実践されるようになった。そのため,個別的な支援を必要とする児童ひとりひとりに対しては,以前から支援を行って来た背景がある。
 特別支援教育の目的は,その理念から,個別のニーズを把握し,持てる力を高め,困難の改善・克服のために適切な指導・支援を行うことである。それに対し「合理的配慮」は,差別の解消や人権の行使を背景とし,そのための適切な支援の実施を義務付けている。法の施行により,今後の教育現場では,2つの視点から「支援」を検討し,実践していくことが求められている。
 しかし,合理的配慮は今年度から施行されたものであるため,検討すべき点や,実践について十分な報告はなされていない。
 そこで本シンポジュウムでは,自身も障害を抱える子どもの保護者であり,通常学級および特別支援学級の担任,通級指導教室担当を経験してきた立場から,合理的配慮に基づく支援方法について検討を行う。
指定討論
 本シンポジュウムの指定討論は,スクールカウンセラーとして学校に勤務し,子どもの心理と支援について研究・実践を行っている斎藤富由起と飯島博之,スクールカウンセラーと発達療育センターでの支援の経験を持つ曽根美樹,大学教員として学生相談の運営に携わる守谷賢二である。
 斎藤と飯島は,スクールカウンセラーなどの心理的援助職が学校現場でできる環境調整と支援方法の観点から検討を行う。曽根は,学校でできる発達障害の困り感への対応という視点から,守谷は私立大学における合理的配慮と学生相談の観点から,それぞれ取り組みについて質問を行う。
 障害者差別解消法が施行され,合理的配慮という理念が教育現場に広がることで,支援に対する理解や姿勢が変わる一方,誤解からくる混乱も生じている。
 本シンポジュウムが,合理的配慮の正確な理解につながり,実際の教育と支援の現場に新たな知識と適切な支援を創造する一助となれば幸いである。