The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

自主企画シンポジウム

中1ギャップによる不適応の未然防止へ

小学校でつけておきたい力

Mon. Oct 10, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 第2小ホールB (5階第2小ホールB)

企画:中島義実(福岡教育大学)
司会:中島義実(福岡教育大学)
話題提供:工藤弘(安曇野市立三郷小学校), 原田克己(金沢大学), 大西彩子(甲南大学)
指定討論:伊藤亜矢子(お茶の水女子大学), 石田靖彦(愛知教育大学)

1:00 PM - 3:00 PM

[JH03] 中1ギャップによる不適応の未然防止へ

小学校でつけておきたい力

中島義実1, 工藤弘2, 原田克己3, 大西彩子4, 伊藤亜矢子5, 石田靖彦6 (1.福岡教育大学, 2.安曇野市立三郷小学校, 3.金沢大学, 4.甲南大学, 5.お茶の水女子大学, 6.愛知教育大学)

Keywords:中1ギャップ, 未然防止, 大規模調査

企画の趣旨
 「中1ギャップ」による不適応をめぐる研究や実践が多く重ねられている中,小学校高学年時点で個人としての力を強めておくことで,中学校進学後の不適応,そして不登校を大幅に減少させた取組と出会った。学校現場の教員手ずから,進学後の不適応の未然防止に必要な「個人としての力」を「信頼関係」「社会性」「非行」の3側面に関する自己効力感と規定し,オリジナルの質問紙「SUTEKIアンケート」を開発して子どもたち個々人の自己効力感を測定,得点の低かったポイントへの個別指導を小学校段階から行う取組であった。
 この質問紙を「進学時不適応を予防する能力尺度」と位置付け,自治体Aの協力により,複数回縦断的調査を実施,改訂版尺度を作成,あらためて進学後不適応との関連について縦断的大規模調査を行った(その結果を反映させた質問紙を「新版小中連携SUTEKIアンケート」とした)。一連の調査結果等を通して,中学校進学後の不適応,そして不登校の未然防止に有効な,小学校段階でつけておきたい力とは何か,探っていきたい。
不登校を予防するための「SUTEKIアンケート」
安曇野市立三郷小学校 工藤 弘
 2007年度,長野県では,登校支援推進事業として,県内で4名の推進教員が選出されることになっていた。B中学校へ赴任すると,その推進教員という立場になっていたのである。仕事の説明は「学校区4校の不登校になりそうな児童生徒を見つけて支援して予防してほしい」であった。
 確かに,前年度,生徒たちの力で学校の問題行動を減少させたことを校長会で発表した。また,クラスに小学校からの完全不登校児童が転校してきたのを,生徒たちが力を合わせて登校できるように導いてくれた。このような実績のためだったかもしれないが,不登校の解決のための推進教員になるとは,実は夢にも思っていなかった。
 週1時間,小中学校の各クラスを回って,社会科や数学の授業や支援をする中で,どうやって不登校になりかねない児童生徒を見つけるのかが一番のポイントであった。どの先生方も同じだが部活動で遅くまで勤務していて,とても聞き取りをして回る時間的猶予はなかった。
 当時の長野県の登校支援推進事業協議会(仮称)は,不登校の原因を5点あげていた。①友人関係②家族関係③学校でのルールやマナーなどの不適応④学力⑤発達障害であった。当該中学校区の小中学生およそ800人の不登校になる可能性をみるために,この5点にわたって情報収集していくには,アンケートを作成するしかないと考えられた。
 前述の5点の原因のうち,学力と発達障害については別の尺度で測ることが可能である。従って,友人関係,家族,学校適応について項目を作る必要があると考えた。先生方の所見でなく,児童生徒自身が「自信」すなわち「自己効力感」を持っているか否かで聞いた方がよいと考えた。
 また,小中学校の各クラスで尺度を実施してもらうためには,先生方の理解と協力が必要であった。5月末までに理解を得て,具体的なアンケートを作り協力してもらう必要があった。最終的に10項目以下のアンケート作りを目指した。
 3つの原因についてのアンケートを作成し,SC,相談員,生徒指導関係職員,ベテラン教員らとともにアンケート項目を検討し,パイロット調査を行い,因子分析後,①信頼関係因子②社会性因子③非行因子の約10項目の「SUTEKIアンケート」が完成した。
 調査項目を児童生徒も先生方も見ることで,学校生活での大切なことに意識を持つことができると考えられた。
 実施したところ,アンケート結果を見た先生方は「驚くほどよく当たる」と評価してくれた。この結果がさらに多くの先生方の信頼と協力を得た。
 では,アンケートの結果から,学級ではどのような取組をすればよいのか。実際の取組から明らかになった具体策を提示したい。
学校不適応を抑制する力の大規模調査による検討
金沢大学 原田克己
 いわゆる「中1ギャップ」を緩和する取り組みは,中学進学後における対応と,中学進学前の小学校における対応とに大きく分けられる。工藤弘教諭の実践に端を発した一連の本研究は,後者に関するものである。最終的には「進学時不適応を予防する能力尺度」を完成させることで,中学進学後の不適応を予防することとなる児童の能力を小学校教諭の手によって簡便にアセスメントし,能力育成の手立ての考案に導くためのツールとして,このアンケートを活用してもらうことである。
 これまでに3回の調査を行い,1回目と2回目の分析結果については本学会で発表を行った。
 前調査1は,小学6年生時に見られるどのような能力が中学進学後の不適応を予防するかを明らかにするために行われた。その結果,能力としては「きまりを守ることができる力」「信頼関係をつくることができる力」「気持ちを交わしあうことができる力」「困ったときに相談できる力」の4つが抽出され,進学時不適応との関連を共分散構造分析によって検討したところ,男子においてはすべての能力が進学時不適応と関連し,全般的に抑制効果を持っていることが明らかとなった。一方女子においては,「決まりを守る力」と「気持ちを交わしあうことができる力」のみが抑制効果を持つという結果であり,男女によって予防的意味を持つ能力に違いがあることが示唆された。
 前調査2は,前調査1で作成した能力尺度を,学校現場においてより利用しやすくするために改訂することを目的として行い,中学進学後の不適応状況と4月から7月までの欠席・遅刻・早退の実数との関連を検討することによって,尺度の妥当性の確認を行った。その結果,能力は「自分を律する力」「友人との信頼関係を結ぶ力」「家族との信頼関係を結ぶ力」「気持ちを伝える力」「非行をしない力」の5つに再構成され,「家族との信頼関係を結ぶ力」は直接的に不適応に対して抑制的効果は示さなかったものの,他の4つについては抑制効果を示し,中でも「自分を律する力」は欠席・遅刻・早退の登校状況に対して直接的に抑制効果を持つことが明らかとなった。
 本シンポジウムでは,上記2つの調査の結果と3回目の大規模調査の結果を紹介しつつ,進学時不適応を予防するためにはどのような能力の把握が重要であるのか,また,教師にとって使いやすいアセスメントツールとするためにはどのような改善を加えるのがよいのかを,検討したい。
友人不適応を抑制する力の大規模調査による検討
甲南大学文学部 大西彩子
 友人関係の様態は中学生の学校適応に影響を与えることが先行研究で明らかになっている (石田ら,2015; 粕谷,2013; 大久保, 2005)。特に,いじめ被害は中学生のストレス症状や抑うつ感,非行性などを高め,学校適応を低下させる原因となる(Kawabataら, 2016; 村山ら, 2015; 岡安・高山, 2000)。文部科学省の児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査によると,例年いじめの認知件数は中学校1年生が最も多くなる傾向がある(平成26年度の調査も26, 989件で同様)。この時期のいじめの問題を中1ギャップによる友人不適応の観点から捉えると,小学校の段階から進学に向けて適切な準備を行うことで,中学1年生のいじめ被害を減少させることができる可能性がある。そこで,本研究では中1ギャップ型不登校の未然防止について,中学校進学後の友人関係の質(Children’s Social Behavior Scale; Crick & Grotpeter, 1995)に着目し,中学校で良好な対人関係を築くために必要な小学校6年生時の能力について検討した。
 前調査1では,自治体Aの小学校3校の小学6年生206名を対象とし,小学校6年生時のX年12月と中学校(3校)に進学した中学1年生時のX+1年7月に再度質問紙調査を実施した(有効回答数123名)。その結果,男子では小学校6年生時に「自分は困った時に相談することができる」と考えている男子児童ほど,中学1年生時に友人からの援助サポートを受けていた。女子では,小学校6年生時に「自分はきまりを守ることができる」と考えている児童ほど,中学1年生時に友人からの関係性攻撃を受けていなかった。また,小学校6年生時に自分は「家族や友達と気持ちを交しあう(伝え合う)ことができる」と考えている女子児童ほど中学1年生時の友人からの直接的攻撃が少なく,友人からの援助サポートを受けていることが明らかになった。
 前調査2では,自治体Aの小学校6校の小学6年生361名を対象とし,小学校6年生時のX+1年9月と中学校(3校)に進学した中学1年生時のX+2年7月に前調査1の結果を基に改定した「進学時不適応を予防する能力尺度」を用いた質問紙調査を実施した(有効回答数279名)。その結果,男女共に小学校6年生時に自分は「友人と信頼関係を結ぶことができる」と考えている児童ほど,中学校1年生時の友人からの援助サポートを受けていることが明らかになった。また,男子では小学校6年生時に「自分を律することができる」と考えている児童が,女子では「非行をしないでいられる」と考えている児童が,中学1年生時の直接的攻撃被害を受けない傾向があった。
 本シンポジウムでは,前調査2の結果と教育関係者への意見収集を基に改訂した「進学時不適応を予防する能力尺度(改訂版)」と中学校進学後の友人関係の質(直接的いじめ・関係性いじめ・援助サポート)との関連についての大規模縦断調査の結果を報告する。これらの結果から,中学校1年生時の友人関係の質を向上させるために,小学校の間にトレーニングなどで向上させておくべき能力について検討し,その妥当性や,いじめ予防の可能性について議論したい。
付   記
 本シンポジウムはJSPS科研費15K04073の助成を受けた。また一連の調査はいずれも外部から個人が特定されない配慮のもとで行われた。