The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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自主企画シンポジウム

小学生への英語指導 

国立学園方式による文字指導の結果を考える

Mon. Oct 10, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 63会議室 (6階63会議室)

企画:長谷川葉子#(国立学園小学校)
司会:長谷川葉子#(国立学園小学校)
話題提供:長谷川葉子#(国立学園小学校), 柿原直美(法政大学), 石塚智子#(国立学園小学校)
指定討論:柿原直美(法政大学)

1:00 PM - 3:00 PM

[JH07] 小学生への英語指導 

国立学園方式による文字指導の結果を考える

長谷川葉子#1, 柿原直美2, 石塚智子#3 (1.国立学園小学校, 2.法政大学, 3.国立学園小学校)

Keywords:小学生への英語教育, 4技能, 文字指導

企画趣旨
 文科省の学習指導要領解説外国語活動編 (平成20年)には昭和60年代から小学校における外国語教育が検討されてきていると記されている。2016年の現在まで30年を超える年数を経て,結果はどのように総括されているのだろうか。2014年11月,文部科学相は,中央教育審議会に諮問し,国際的な人材育成に向け,小学3年から英語教育を始め,高校では英語で討論できるレベルを目指す,という報道があった。そこには「読み」「書き」の基礎を養成するという項目も加えられている。高校卒業時の目標に向かって,小学生への英語指導の方法は,確かな礎となり得るものとして指導者に共有されているのだろうか。ここでは,そのような問題点への一つの解答を示すことを目標に,実際に行われている授業を振り返る。
授業の枠組み
 私立小学校の国立学園では2010年4月より3年生へ週1回の英語の授業をすることを始めた。学年はその後順次広げていった。その際,言語を構成する要素を吟味して,『聞く,話す』を中心に授業を組み立てているが,当初から文字指導の要素も授業に組み入れている。その理由は,いわゆる言語の4技能と言われる『聞く,話す,読む,書く』は表面的には異なった様相を呈しているが,言語という根幹から派生しているのは明らかで,相互に連結していると考えるからである。順序と方法を吟味すれば相乗的に言語習得は支えられる。そこで,実際に行われている文字指導を示し,年齢に相応しい方法とその結果を示していく。
一般の文字指導
 世の中にある多くの児童向けの英語のテキストや,中学の検定教科書は,導入された英文について,『聞く』『話す』『読む』『書く』という4技能の学習を目指し,しかも単元が終了する時点で内容を理解し,記憶することを前提にして構成されている。学習者は教授されたものをすべて学習するのかという問題点,さらに言語習得の際に,4技能は同時に学習できるということを前提にするという見方は,学習者に無理を強いることになる。母語の習得の過程では決して見られない状況である。認知発達が進み,環境や本人の動機など種々の要素が整った場合の可能性は否定しないが,通常は,4技能同時の指導は入門期の学習者に大きな負担を強いる結果を招く。そのことは,私たちの母語習得の状況を振り返ると自明である。小学1年生の時点で『聞く』,『話す』力と,『読む』『書く』力には大いに差があり,聞いて理解する,自分のことを話すことが出来る範囲と,文を読む,状況を説明する文が書ける範囲は一致していない。『読む』『書く』については,漢字の練習を含めて,時間をかけてゆっくりと学習が進められていると推察する。
学園での文字指導
 学園での英語指導は3,4,5年生に週1回実施されている。どの学年の授業も40分の授業時間内に,『聞く,声に出して言う』練習と『文字指導』が行われる。ただし,2つの項目で授業時間は等分されているわけではない。文字指導の量は,原則として『聞く』『声に出して言う』練習の半分程度である。学園では,母語の獲得状況を鑑みて学習プログラムを作成している。将来,『聞く,話す』内容を伝える言葉を文字という記号でも表せるように,実態に即した段階的文字指導を行っている。また,2014年からは独自のワークブックを制作して,より効果的な文字指導を試みている。以下に概略を示す。
3年生:アルファベットの形に親しむ。次にアルファベットの大文字,小文字の認識を確実にするため,それぞれの文字を含む単語を書く練習をする。
4年生:音と文字の一致について関心が向くように語頭の文字,語中の文字,語尾の文字に焦点を当てて,単語を書く。目標は単語が読める,書けるということである。選んだ単語の多くは,教科書の内容と一致させ,単語のさらなる定着を図っている。
5年生:引き続き音と文字の一致に注目することを目的に単語を書いていく。そして,月の名前,曜日,数字などの読み書きの導入もしている。その後,文章を書く際のルールに注目させ,自分のことを文にする練習も行っている。
6年生:2月第2週以降10回の集中授業で,それまでに学んだことの復習と発展問題を行う。
 次に,2015年度末に行った同じ問題について,5年生,6年生の文字に関る反応の一部を比較する。指導の結果は次の通りである。
文字指導のある結果
 比較するのは,大文字で書かれた単語DOG,GOAT,SHEEP,BAT,LIONを小文字で書くという問題と,小文字で書かれた単potato,lemon,apple,orange,bananaを大文字にする問題である。B-b,D-d,、I-i,、L-lなど学習者が混同しやすい文字の区別がついているかも私たちの関心事であった。
 5点満点で,大文字から小文字の変換については, 6年生の正解率81%,5年生の正解率は59%,小文字から大文字への変換については,6年生の正解率は69%,5年生の正解率は37%であった。表1-表4はそれぞれの学年の度数分布,平均点である。
 5年生に比べ,6年生が正解する割合は多かった。単純に学校での学習時間数の差は2時間以下である。理由の一つとして考えられるのは,認知発達の結果,曖昧だった文字の認識が短時間で深まったのかも知れないということである。文字指導によって一つの技能の習得だけではなく,その他の技能との習得の状況の比較も可能で,総合的な言語指導の道が広がるのではないかと推察する。