[PA10] 幼児アニミズムの新研究(4):走っている自動車は生きているか
キーワード:アニミズム, 認知発達, ピアジェ
問題と目的
ピアジェの幼児アニミズム研究(Piaget, 1926)に対して,その後多くの追試的研究,批判的研究がなされ,現在ではAID(Animate-Inanimate Distinction)に関しては幼児期早期から可能であるとする見解が一般的である(Gelman, Spelke, & Meck, 1983, Gelman, 1990, 稲垣, 2005)。しかし,ピアジェのいう幼児アニミズムは,子どもには意図的行為と機械的運動の区別が難しいために,どんな対象であってもなんらかの活動性と結びつけば,その対象は意図的行為の主体として生命の座となりうるということである。この仮説を検証するためには,静止状態における対象物に対するアニミズム判断とその対象が運動や活動など何か動きを示す場合のアニミズム判断を比較して,対象の活動性の効果を見ることが必要である。その上,ある対象を「生きている」と判断したからといってその対象が動物のような存在であるとは思っていないことをアニミズムとは別の質問によって確認することが必要である。
中垣(2012)では,石ころについてこのことを確かめ,静止状態における石を生きているとした者は幼稚園児でも3人に一人であったが,運動状態においては3人に二人が石を生きていると判断すること,石のアニミズムを認めたからといって石が眼などの動物的属性を持っていると考えているわけではないことを明らかにした。更に,中垣(2013)では,水のような液体では運動状態が常態であるために,アニミズムからの脱却は石の場合よりもなお一層困難であることを示した。また中垣(2014)では,逆にカタツムリのような生き物であっても殻に隠れて運動性を失ってしまうと,少なからない者が生きていることを認めなくなることを明らかにした。
それでは,石や水のような自然物ではなく,自動車のような人工物の場合はどうであろうか。人為が介入しなければ動かないので石と同じように反応するであろうか,それとも道路上を移動するために作られているので運動状態が常態となり,水と同じように反応するであろうか。
本発表は自動車という移動を目的として作られた人工物について,そのアニミズム判断を調べようとするものである(本発表は張路(2007)の修論調査を新しい観点より考察し直したものである)。
方 法
調査対象者:幼稚園年少・年中児21名(平均4歳5ヶ月),公立小学校1年生24名(平均6歳10ヶ月),3年生19名(平均8歳9ヶ月),5年生20名(平均10歳9ヶ月)。
手続き:調査者1名と調査対象者1名の個別面接形式で調査された。予備的質問の後,11個の対象を通常の状態で順次提示して,生きているか,生きていないかを問い(自動車の場合,駐車場で静止している自動車の写真を見せて問う),その後,同じ11の対象について活動性を与えて(自動車の場合,ハイウエイを走行中の写真を見せて)生きているか否かについて問うた(アニミズム課題)。さらに,同じ対象について眼や栄養摂取など動物的特徴を持つかどうかを問うた(動物属性課題)。本発表では,自動車に対する判断結果を提示し,石(中垣,2012)や水(中垣,2013)に対する判断と比較する。
結果と考察
(1)幼稚園児の場合,静止状態における自動車のアニミズムは石の場合(33%)より認めやすく,水の場合(57%)より認め難かったが,運動状態になると自動車のアニミズム判断が一番多くなった。(2)これは,自動車は移動するために作られているので水よりも一層運動と結びついていて,運動状態のアニミズム判断が一番多くなったものの,静止状態においては,水の場合よりも運動性を失ったように見えるので,アニミズム判断が水の場合より少なくなり,石の場合に近くなったものと思われる。(3)このことは,対象が自然物であるか人工物であるかはアニミズム判断において大きな要因にはならないことを示唆している。(4)静止状態のアニミズム判断は小3生も小5生もほとんど変わらないのに,運動状態においては,小5生は小3生の倍も増えている。これは自動車の動き方の理解に関して,自動車と生き物とのアナロジーが深まったことによる2次的アニミズムではないかと思われる。(5)眼の存在や栄養摂取という動物属性課題の発達はアニミズム課題とは全く無関係な変化を示している。特に,自動車(静止状態)は小5生の20%しか生きていると判断しないのに,80%の者が自動車は栄養摂取すると判断している。
ピアジェの幼児アニミズム研究(Piaget, 1926)に対して,その後多くの追試的研究,批判的研究がなされ,現在ではAID(Animate-Inanimate Distinction)に関しては幼児期早期から可能であるとする見解が一般的である(Gelman, Spelke, & Meck, 1983, Gelman, 1990, 稲垣, 2005)。しかし,ピアジェのいう幼児アニミズムは,子どもには意図的行為と機械的運動の区別が難しいために,どんな対象であってもなんらかの活動性と結びつけば,その対象は意図的行為の主体として生命の座となりうるということである。この仮説を検証するためには,静止状態における対象物に対するアニミズム判断とその対象が運動や活動など何か動きを示す場合のアニミズム判断を比較して,対象の活動性の効果を見ることが必要である。その上,ある対象を「生きている」と判断したからといってその対象が動物のような存在であるとは思っていないことをアニミズムとは別の質問によって確認することが必要である。
中垣(2012)では,石ころについてこのことを確かめ,静止状態における石を生きているとした者は幼稚園児でも3人に一人であったが,運動状態においては3人に二人が石を生きていると判断すること,石のアニミズムを認めたからといって石が眼などの動物的属性を持っていると考えているわけではないことを明らかにした。更に,中垣(2013)では,水のような液体では運動状態が常態であるために,アニミズムからの脱却は石の場合よりもなお一層困難であることを示した。また中垣(2014)では,逆にカタツムリのような生き物であっても殻に隠れて運動性を失ってしまうと,少なからない者が生きていることを認めなくなることを明らかにした。
それでは,石や水のような自然物ではなく,自動車のような人工物の場合はどうであろうか。人為が介入しなければ動かないので石と同じように反応するであろうか,それとも道路上を移動するために作られているので運動状態が常態となり,水と同じように反応するであろうか。
本発表は自動車という移動を目的として作られた人工物について,そのアニミズム判断を調べようとするものである(本発表は張路(2007)の修論調査を新しい観点より考察し直したものである)。
方 法
調査対象者:幼稚園年少・年中児21名(平均4歳5ヶ月),公立小学校1年生24名(平均6歳10ヶ月),3年生19名(平均8歳9ヶ月),5年生20名(平均10歳9ヶ月)。
手続き:調査者1名と調査対象者1名の個別面接形式で調査された。予備的質問の後,11個の対象を通常の状態で順次提示して,生きているか,生きていないかを問い(自動車の場合,駐車場で静止している自動車の写真を見せて問う),その後,同じ11の対象について活動性を与えて(自動車の場合,ハイウエイを走行中の写真を見せて)生きているか否かについて問うた(アニミズム課題)。さらに,同じ対象について眼や栄養摂取など動物的特徴を持つかどうかを問うた(動物属性課題)。本発表では,自動車に対する判断結果を提示し,石(中垣,2012)や水(中垣,2013)に対する判断と比較する。
結果と考察
(1)幼稚園児の場合,静止状態における自動車のアニミズムは石の場合(33%)より認めやすく,水の場合(57%)より認め難かったが,運動状態になると自動車のアニミズム判断が一番多くなった。(2)これは,自動車は移動するために作られているので水よりも一層運動と結びついていて,運動状態のアニミズム判断が一番多くなったものの,静止状態においては,水の場合よりも運動性を失ったように見えるので,アニミズム判断が水の場合より少なくなり,石の場合に近くなったものと思われる。(3)このことは,対象が自然物であるか人工物であるかはアニミズム判断において大きな要因にはならないことを示唆している。(4)静止状態のアニミズム判断は小3生も小5生もほとんど変わらないのに,運動状態においては,小5生は小3生の倍も増えている。これは自動車の動き方の理解に関して,自動車と生き物とのアナロジーが深まったことによる2次的アニミズムではないかと思われる。(5)眼の存在や栄養摂取という動物属性課題の発達はアニミズム課題とは全く無関係な変化を示している。特に,自動車(静止状態)は小5生の20%しか生きていると判断しないのに,80%の者が自動車は栄養摂取すると判断している。