[PA12] 保育者養成校学生の学業的延引行動と抑うつ,ストレスとの関連
キーワード:学業的延引行動, 保育者養成校
問題・目的
学業的延引行動(academic procrastination)は,学業領域における問題行動であり,学習計画を立て,課題完成に必要な方法や解決策が見出せるまで,慎重にかつ熟慮を重ねて合理的な行動ができるように自己統制する満足遅延行動とは対照的な概念であると考えられる。学習課題の準備を遅らせる行動を日常的に繰り返すことは,学業面で損失を与え,さらに学校不適応にも陥る危険性がある。これまでの研究によると一般的延引行動と精神的不適応との正の関連が報告されている(e.g., Solomon & Rothblum, 1984; Tice & Baumeister, 1997)。従って学業的延引行動の関連要因として精神的不適応が関連していることが予想される。そこで本研究では,保育者養成校に所属する学生の学業的延引行動と抑うつ,ストレスといった精神的不適応との関連について検証を行うことを目的とする。
方 法
調査対象と調査時期
2015年12月から2016年1月にかけてS大学短期大学部幼児教育学科に在籍する1年生を対象に個別記入式の質問紙調査用紙を授業時間内に配布し,授業担当教員により回答依頼時に文章と口頭にて質問紙について説明し,合意を得たうえで実施した。回答に不備のなかった137名(全て女性)を最終的な分析対象とした。
調査に用いた質問紙
(1)学業的延引行動尺度
Schouwenburg(1995)を翻訳した尺度(龍・小川内・橋元 2006)10項目を使用した。
(2)こころの問診票(精神的不適応)
緒方(2014)の「こころの問診票」のうち「抑うつ」5項目,「自尊感情の低さ」2項目,「やる気の低下」3項目を使用した。
(3)こころの問診票(ストレスの場所)
緒方(2014)の「こころの問診票」のうち,こころの健康状態を損ねているストレスの場所として「家族」「異性」「勉強」の3項目を使用した。
結 果
各変数間の関連をみるため相関係数を算出した。その結果,学業的延引と「抑うつ」「自尊感情の低さ」「やる気の低下」「家族ストレス」「異性ストレス」「勉強ストレス」との間に有意な正の相関がみられた。
学業的延引高群・低群における各尺度得点の比較
学業的延引行動尺度に対する137名の得点の平均値は2.77(SD=0.62)であった。これらの得点に基づき上位群と下位群を選出した。得点が平均値より上位の者(74名)を学業的延引行動高群,下位の者(63名)を学業的延引行動低群とした。それぞれの群の延引傾向の平均(SD)は高群3.23(SD=0.35),低群2.24(SD=0.39)であった。検定の結果,高群と低群の間には有意差(t(135)=15.70,p<.01)がみられた。
学業的延引行動高群と低群における各尺度得点の比較を行うために平均得点を用いてt検定を行った(Table 1)。その結果,「抑うつ」「自尊感情の低さ」「やる気の低下」「家族ストレス」「異性ストレス」「勉強ストレス」,いずれにおいても有意差がみられた。
考 察
本研究では,保育者養成校に所属する学生の学業的延引行動と抑うつ,ストレスといった精神的不適応との関連について検証を行うことを目的とした。その結果,学業的延引行動傾向が高い者は,抑うつ傾向が高く自尊感情,やる気が低下しており,家族,異性,勉強にストレスを感じている傾向が高い。逆に学業的延引行動傾向が低い者は,抑うつ傾向が低く自尊感情,やる気が高く,家族,異性,勉強にストレスを感じている傾向が低いということが明らかになった。以上の結果から,取り組まねばならない授業の課題を先延ばしにする傾向が高い者は抑うつ傾向が高く,自尊感情,やる気が低くストレス傾向が高いなど,精神的不適応との関連が高いことが明らかになったといえる。模擬保育や指導案作成,課題研究等の課題に積極的に取り組むことができず,先延ばし(延引)にする傾向がある者は精神的に不適応を感じており,結果的に課題に取り組むことを先延ばしにしてしまうことを示唆する結果となった。
今後は,この領域のさらなる実践的研究の蓄積が望まれる。
学業的延引行動(academic procrastination)は,学業領域における問題行動であり,学習計画を立て,課題完成に必要な方法や解決策が見出せるまで,慎重にかつ熟慮を重ねて合理的な行動ができるように自己統制する満足遅延行動とは対照的な概念であると考えられる。学習課題の準備を遅らせる行動を日常的に繰り返すことは,学業面で損失を与え,さらに学校不適応にも陥る危険性がある。これまでの研究によると一般的延引行動と精神的不適応との正の関連が報告されている(e.g., Solomon & Rothblum, 1984; Tice & Baumeister, 1997)。従って学業的延引行動の関連要因として精神的不適応が関連していることが予想される。そこで本研究では,保育者養成校に所属する学生の学業的延引行動と抑うつ,ストレスといった精神的不適応との関連について検証を行うことを目的とする。
方 法
調査対象と調査時期
2015年12月から2016年1月にかけてS大学短期大学部幼児教育学科に在籍する1年生を対象に個別記入式の質問紙調査用紙を授業時間内に配布し,授業担当教員により回答依頼時に文章と口頭にて質問紙について説明し,合意を得たうえで実施した。回答に不備のなかった137名(全て女性)を最終的な分析対象とした。
調査に用いた質問紙
(1)学業的延引行動尺度
Schouwenburg(1995)を翻訳した尺度(龍・小川内・橋元 2006)10項目を使用した。
(2)こころの問診票(精神的不適応)
緒方(2014)の「こころの問診票」のうち「抑うつ」5項目,「自尊感情の低さ」2項目,「やる気の低下」3項目を使用した。
(3)こころの問診票(ストレスの場所)
緒方(2014)の「こころの問診票」のうち,こころの健康状態を損ねているストレスの場所として「家族」「異性」「勉強」の3項目を使用した。
結 果
各変数間の関連をみるため相関係数を算出した。その結果,学業的延引と「抑うつ」「自尊感情の低さ」「やる気の低下」「家族ストレス」「異性ストレス」「勉強ストレス」との間に有意な正の相関がみられた。
学業的延引高群・低群における各尺度得点の比較
学業的延引行動尺度に対する137名の得点の平均値は2.77(SD=0.62)であった。これらの得点に基づき上位群と下位群を選出した。得点が平均値より上位の者(74名)を学業的延引行動高群,下位の者(63名)を学業的延引行動低群とした。それぞれの群の延引傾向の平均(SD)は高群3.23(SD=0.35),低群2.24(SD=0.39)であった。検定の結果,高群と低群の間には有意差(t(135)=15.70,p<.01)がみられた。
学業的延引行動高群と低群における各尺度得点の比較を行うために平均得点を用いてt検定を行った(Table 1)。その結果,「抑うつ」「自尊感情の低さ」「やる気の低下」「家族ストレス」「異性ストレス」「勉強ストレス」,いずれにおいても有意差がみられた。
考 察
本研究では,保育者養成校に所属する学生の学業的延引行動と抑うつ,ストレスといった精神的不適応との関連について検証を行うことを目的とした。その結果,学業的延引行動傾向が高い者は,抑うつ傾向が高く自尊感情,やる気が低下しており,家族,異性,勉強にストレスを感じている傾向が高い。逆に学業的延引行動傾向が低い者は,抑うつ傾向が低く自尊感情,やる気が高く,家族,異性,勉強にストレスを感じている傾向が低いということが明らかになった。以上の結果から,取り組まねばならない授業の課題を先延ばしにする傾向が高い者は抑うつ傾向が高く,自尊感情,やる気が低くストレス傾向が高いなど,精神的不適応との関連が高いことが明らかになったといえる。模擬保育や指導案作成,課題研究等の課題に積極的に取り組むことができず,先延ばし(延引)にする傾向がある者は精神的に不適応を感じており,結果的に課題に取り組むことを先延ばしにしてしまうことを示唆する結果となった。
今後は,この領域のさらなる実践的研究の蓄積が望まれる。